コスモス陣全員での夕食後、スコールは歓談する仲間たちから1人陣を離れ、テントに足を運んだ。
歓談したくないからというあからさまな理由ではなく、単に先ほどトレードしたアイテムから、今の装備を見直そうと思い、保管してあるアイテムを取りに、自分の割り当てられたテントへ近寄ると。


「…っと、そんな…れんなって、」


中から声が漏れている。
足を止め、一体誰だと思考を巡らせると、そういえば歓談の場にバッツが居なかったことを思い出した。
特にバッツの声は大きく主張するため、居るか居ないかは音で分かる。
中から聞こえた声もバッツだ。
通りであの場が静かな筈だと納得して、スコールはテントへ近付いた。
そしてふとクラウドも居なかったことにも何気なく気付いたと同時に、テントの入り口に手を掛けたとき。


「ばっ!脱がすな!」
「いーじゃん!」


抵抗するクラウドの声。
それを押し切ろうとするバッツの声。
間違いでなければそんな声がスコールの耳に大きく響き、思考が一時停止した。





banal remark







テントに手を掛けたまま、スコールはフリーズしている。


(脱が、す?)


中から聞こえてきたクラウドの声は確かにそう言っていた。
つまりクラウドは今誰かに脱がされているということか。
おそらく誰かというのは十中八九バッツだろう、あの五月蝿い声を間違うはずがない。
ということは。


(クラウドは今、バッツに脱がされていると…?)


その結論に至った時、自分の浅はかな思考に、ハッと自嘲染みた笑いが漏れた。
バッツのことだ、何かしら自分を貶めるような罠を張っているに違いない。
現に過去、思い出したくもないが、何度かクラウドを題材に貶められたことがある。
自分がクラウドに少ながらず好意を抱いていると知ってから、バッツのそれは始まった。
決してその感情を表に出した記憶はないし、まして誰かに言う筈もない。
だが何故かあざといバッツにだけは勘付かれてしまったらしく、罠を張られることは多くはないが、少しでも気を抜けばクラウドに告げられてしまいそうで。
故にこの状況も疑わずにはいられない。


(…これも罠、か…?)


しかし用を済ませるには、中に入らなければならない。
それに罠だとしても自ら回避する訳にはいかない。
前に一度回避して、後々馬鹿にされて鼻で笑われたというあの屈辱。
あの屈辱だけは二度と味わいたくない。
今回は一体何が待ち受けているのか。
気を落ち着けて、何があっても出来うる限り平静を保つことに意識を集中させ、スコールはテントを開いた。


「あ」
「っ、スコー、ル、」


目の前に広がっていた光景。


「…な、」


バッツは見つかった、みたいな声を上げてスコールを見上げている。
それもその筈、左手はクラウドのニットの裾から入り込んで素肌を這い、右手はズボンの隙間から下半身に伸びている。
微妙に中心部に掛かっているのは気のせいではない。
クラウドはと言えば、迫るバッツの両手を押さえてはいるものの、結局は脱がされつつあるのが現状だ。
そこに自分が頭上に現れたため、少し喉を仰け反らせて見上げている。
少し弾んでいる息に、一瞬ギクリと体が反応したが、気付かない振りを決め込んだ。
一先ずこの状況を簡潔にまとめると、バッツがクラウドを組み敷いているといったところか。


「何やってるんだ!」


つまり罠でも何でもなく、バッツがクラウドを襲っているという真実だけだった。


「くっそー、見つかったか」
「お前の声はデカイから直ぐ分かる…!」


口を尖らせて残念そうな声を漏らすバッツに、スコールは指を差して指摘する。


「兎に角クラウドの上から退け…!」


静かに、それでいて怒気を語尾に目一杯込めて言い放つ。


「何だよー、羨ましいからって、」
「バッツ…」
「分かった、分かったって!」


それ以上言ったら流石に手を出さずにはいられなくなるぞ、という意を込めて名を呼べば、勘の良いバッツは苦笑いを浮かべてクラウドに触れている手を離し、漸く体を上げた。
やっと襲い来る圧力から解放して貰えたクラウドは、はぁ、と大きく息を吐き、全身に込めていた力を抜いた。


「平気か、クラウド」
「ああ…」


肩膝を着いてクラウドの顔を覗き込めば、少し疲れた表情と声で返事をした。
クラウドのことだ、襲われているというのにバッツに気を使いながら抵抗していたのだろう、疲労の色が目に見えて分かる。


(それにしても…)


ふとクラウドの首元から下の方にスッと視線を向けると、もう少し入るのが遅ければ、上下どちらかは完全に取り去られていたのではと思えるくらい、上半身は素肌が晒され、下半身は際どい部分を隠すように脱がされている。
その上、少し落ち着いたからか、自分を見上げてほっとした表情を向けてくる。
スコールは頭がぐらつく感覚に襲われ、首を軽く振って吹き飛ばす。


(駄目だ、この現状は体に悪い…)


もうアイテムはどうでもいい、兎に角バッツからクラウドを離さなければと、自分がこの妙な雰囲気の空間から離脱したい願望も含みつつ。
クラウドの背を支えて起こし、テントから出るぞ、とスコールが促す声を発するより早く。


「あーあ、あとちょっとだったのに…」
「…?何がだ?」
「仕方ない、これで我慢するか」


がっくりと肩を落とし項垂れたかと思いきや、スコールの問いに答えることなくパッと顔を上げると。


「っ!」
「なっ!?」


バッツは何の脈絡もなくクラウドの首の後ろに手を掛け引き寄せ、あろうことか口を寄せたのだ。
あまりに唐突な出来事にクラウドは声にもならず、スコールは阻止することも出来ずただ口を開けてその光景を見届けるしか出来なかった。
ちゅっ、と軽い音締めたところでスコールは我に返り。


「バッツ!」


名を叫べば、あっはっはと高らかにそして満足げに笑って、あっという間に出て行った。
何が我慢だ、これが狙いだったんじゃないのかと睨みを効かせたが、もう意味を持たないことに気付き、スコールは大きく溜め息を吐いた。
たかが数分の出来事なのに、恐ろしいほど疲れている。


「…大丈夫か、クラウド」
「…あんまり…」


バッツに吸い付かれたところを押さえ、吐いた言葉に覇気はない。
今のバッツの行動よりは、それまでの攻防の疲労の方が大きいのだろう。


「でも助かった、スコール」


それでも安堵の息が混じっていることに安心し、思考回路も落ち着きを取り戻したところで、そもそもこうなった要因を考える。


「一体なんであんなことになったんだ?」


腰を下ろし、前髪をかき上げながら問うと、俺にも良く分からないんだが、と前置き。


「アイテムを確認しようと、テントに来て袋を開けたら、見たこともない物が…その、入っていて」


言い難そうにクラウドが指差した先には、鮮やかな紫色をした服、いやドレスらしいものが丸まっている。
おそらく攻防中に互いの間を行き来していたのだろうと想像がつくが。
それにしてもドレスとなると、女性が着るものだ。
何故クラウドのところに、と思ったが。


(そういえば…)
「何だコレはと思った時にはもう、バッツが後ろに居て、だな」


頼むから着てくれ!と、そこからはもうあんな感じだったそうだ。
流石に男に押し倒されたと軽くは言えず、最後の方は聞き取り難い程の小声だった。


(先ほどトレードした時にバッツが言っていたのは、コレだったのか…)


スコールがアイテムのトレードを行っていた時、バッツも何かしていたことを思い出した。
隣で嬉々としてクラウドに、と名前を出していたのが気になったが、その時は特に気に留めていなかった。
それがまさか。


「…女装アイテムだったとは…」


ぼそりと漏らしたスコールの言葉にクラウドは何も言えず、押し黙るしかなかった。
何せコスモス側ではティナと、何故かクラウドしか装備できないのだから。
自分は装備出来なくて良かった、と思うと同時に、少し哀れんだ感情が込み上げる。
尤も、自分とて拝めるならば拝みたいが、バッツ程の執着心はない。
時々バッツの行動力に驚きと少しの憧れを抱く時もあるが、今回は行き過ぎだと言わざるを得ないだろう。
しかしいくら仲間だとは言え、あそこまでされて抵抗することに手加減するのはどうかと思う。


「だが、お前ならバッツを殴り倒すことだって出来ただろう」
「…それは、」
「何簡単に乗らせてるんだ」
「乗るとかいうな」


流石にあからさまな言い方だったからか、クラウドは俯いていた顔を上げて上目気味に自分を睨むが、薄っすら赤く染まった目尻が際立って、全く効果がない。
ふと、首を押さえていたクラウドの手が外れ、首元が露になる。
首の左筋に一点、白い肌がくすんでいる箇所を見付けた。
先ほど見た時にそんなものは無かった。


「…っ」


バッツだ、と気付いた瞬間、一瞬で頭に血が上ったようだった。
まるで体が勝手に動いている感覚。
自分にもこんな感情があったのかと、血が上った割に冷静な思考は、鬱血したクラウドの首目掛けて吸い付こうとする行動を抑えてくれはしなかった。


「っ!?スコール!」


クラウドが制止しようとスコールの肩に手を掛けた時既に遅く、右手で首を固定され、スコールの口はクラウドの跡を捉えていた。


「っ!」


唇が肌に触れ、バッツが残した跡に舌を乗せれば、びくりとクラウドの体が揺れ、ぞくりと歓喜に喜ぶ自身の体。


(ああ、駄目だな)


これは止まらない。
ならば押し切るしかないと、スコールはそのままクラウドの体を押し倒した。












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