月凪 22
俺たちは半年前、人造人間との死闘の末、手に入れた賢者の石を使い、人体錬成を行った。
自分たちの知識の全て、そして今までしてきた旅の集大成を一つの錬成陣に込め、俺たちは両手を合わせた。
目の前にいたアルの次に見たのは、まばゆい光の向こうにいた、俺がかつてアルの魂を錬成した時に見た"真理"。
"真理"が扉の前に座り、俺の方をじっと見ている。
ふと。
隣にアルの姿がないことに気付き、辺りを見回していると、"真理"は口元だけであざけ笑っているではないか。
俺はそれに怒りを覚え。
『…弟を何処へやった』
"よぅ、久し振りだな。待ちくたびれたぜ"
噛み合わない会話が、益々エドの怒りを煽っていく。
『何処へやった!』
俺たちは"代価"を払って此処に来たんだ!
叫ぶエドに、"真理"は少し間をおいた後。
"もう、それ相当のものは返したぜ?"
『な、に…?』
高らかな物言いに、エドは眉をひそめた。
理解していない様子が面白いのか、"真理"の口の端がまたつり上がる。
何だよ、とエドが返すと、自分の体の右側を指をさし、次にその指は左下の方を指して。
"見てみろよ"
そう言われ、エドは指がさした順に自分の体を見ると。
『…!』
それは機会鎧ではなく、生身の腕と足だった。
一瞬信じられなくて、右手を握って開く、という動作を何度も繰り返す。
"な?返したろ?"
自慢げな声がエドを我に返した。
確かに俺はこれを望んでいた。
だが、それよりも強く所望したことがある。
『…弟は?』
目を細め、対峙する"真理"を睨む。
『俺たちは賢者の石を使った。足りないということはないはずだろ』
"あぁ、まぁな"
むしろ十分なくらいだったぜ、と吐くのが、全部遠回しに言われているようで気に喰わなくて。
『はっきりしろよ!弟は…アルはどうしたんだ!!』
声を荒げて、体を掴めるか分からないが、どこでもいいから掴んで殴ってやろうと近付こうとした時。
"お前より一足先に、現実に帰してやったぜ?"
『な…?』
理解し難い言い方ばかりで返すからか、頭で分かるように組み立て直すまでに時間がかかる。
現実に帰した。
それはつまり、アルは体を取り戻して、既に現実に戻っているということ。
『アル…アルは戻れたのか!?』
頷く"真理"に、エドはようやく安堵の息をつく。
だがそれも一瞬のこと。
"だが、いくら賢者の石を使ったとはいえ、お前ら二人ではすこーし足りなかったようだがな"
『…ぇ…?』
少し垂れていた頭を上げて、もう一度"真理"を見る。
『少し、って…どういう…』
"体は完全に戻してやった。元もまだ扉の中に残ってたしな。だが…"
記憶だけは、移し替えることは出来なかった。
その言葉にエドは目を見開き、唐突に理解する。
"真理"は賢者の石で物理的なものである体を先に創り、精神的なものである記憶を後に入れ替えようとした。
だが、あの量ではそれが出来ないと体を創ってから知った、と。
『そんな…じゃあアルは…!』
"お前のことは一切覚えてない。全く別の記憶が勝手に創られた"
『…っ!』
そんな。
折角此処までこれたのに。
元に戻れたのに。
その喜びを分かち合うことが、出来ないなんて。
互いの温もりを確かめることが、出来ないなんて。
でも。
生きていてくれればそれでいいんだ。
以前、ある人に対して思った言葉が、浮かんだ。
そうだ。
俺は生きている。
アルだって生きているんだ。
だったら、何だって出来る。
アルの記憶がなくなっても、俺が覚えている。
アルが俺を知らなくても、俺が知っている。
それだけで、十分じゃないか。
『…アルは、何処に…?』
やけに落ち着いた顔と声を向けられて、逆に"真理"が驚いたような感じを受けていたようだが。
"…さぁな。それは俺にも分からん"
だが、この世界の何処かにいるのは確かだ。
そしてエドは目を閉じた。
ほらな。
それだけで、十分だ。
『そうか、分かった』
これで、また俺が生きる理由ができた。
アルを探すという、俺の生きる理由が。
目を開けた時、俺は家があった場所に横たわっていて。
一筋の涙を流し。
「アル」
呟いて傍に居ないことを確認して。
「アル」
もう一度呟いて、傍に居ないんだと言い聞かせて。
帰ってきたんだと、実感した。
04/10/20
あと一話で終わるか終わらないか…。
でももうちょっと。
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