腕を拘束されて。
シャツは上まであげられて。
ズボンは左足に引っかかり、その足はだらりと投げ出されているが、右足は膝を折られ机の上にかかとを乗せられている。
それが、俺の今の格好。
月凪 17
「――――っ、く、っ」
自分の中心に顔を埋める男を見ないように、エドは顔を背けて視線を反らしている。
だが這い回る舌の感覚に一定の位置で首を止めていられず、時々顔にかかる金髪が跳ねる。
(…抵抗は、無駄…)
熱くなる体とは逆に、頭はまだ冷静だ。
それはこいつに愛されるように抱かれているのではなく、ただの興味本位だから。
俺の事なんか、何とも思っちゃいないから。
(ただ、…抱かれるだけ…)
興味の対象として、性欲処理の対象として。
この時点で同じ男でもなく、上司と部下でもなくなった。
もう、俺の知ってるロイじゃない。
込み上げる悲しさと、痛み。
(だったら、俺だって…感情はいらない)
声を上げさせたいと言っていたが、上げてなんかやらない。
限界まで、我慢してやる。
「っ、…ぅ…っ、」
歯を食い縛って、必死に声を殺すエド。
時折舐められる、体が跳ねる部分に当たった時は唇を噛んででも堪える。
それを悟ったのか、散々エドのモノで口元を濡らしたロイが顔を近づけてくる。
「…何を我慢する必要がある?」
素直に感じればいいものを、と口の端を上げて笑う。
その顔にとても腹が立った。
(俺を…)
「俺を、…何も…知らねェくせに…っ」
俺の何も分かんねぇくせに。
記憶をなくしたからなんてことは分かりきってる。
でも言わなきゃ、俺は耐えられなかった。
でなきゃ勘違いをしてしまう。
この人が、俺の大好きな人だって。
(違う、のに…、)
記憶がなきゃ、何も意味がねェのに。
でなければ、ただロイの姿をしたイレモノでも。
愛してしまうから。
「…そうだな、分からん」
「っ、」
顔と視線を合わせたまま、ロイは濡れた手を後ろの方に回して、つ、と撫でた。
嫌なことに、記憶は失っても知識はあるらしい。
いつだって、この大人は性質が悪い。
そう、今まで俺を抱いた時だって。
(っ思い出すな…っ!)
頭の中にある今までのロイの像を捨てるように、目の前の顔から思いっきり視線を反らした。
口を、開いてしまいそうになった。
キスしてくれと強請るみたいに、舌を出して誘いそうになってしまった。
これが、こいつを前にしてやるように開発した結果。
悔しい。悔しい。
結局何も出来ない自分が悔しい。
逆らえない自分が。
拒みきれない自分が。
「…だが、カラダを繋げてみれば、分かるかもしれないだろう」
「―――っ!」
顔を反らしたことによってロイの丁度目の前にきた三つ編みの紐を、口でびっ、と引っ張ると、弧を描いた金糸が机に広がった。
(…っざけんな…っ)
今の俺にとってはこの上ない誘惑。
快感への道を開ける、閉じるか。
二つに、一つ。
「―――っざけんな!!」
「っ!」
脇腹に食らわせてやろうと思った機械鎧の左足は、ロイの手によって止められて、逆により大きく足を広げられてしまう。
それに緊張して息を詰めると、その様子が楽しいのか、また口元が笑う。
「ここを、こんなにして…」
「っ、」
つ、と先程散々舐められたところを撫でられた。
息が詰まる。
「ふざけるな?それはこっちの台詞だ」
「――――っ!!」
同時に、後ろに指を入れられた。
急に襲った圧迫感が、きつく結んでいたエドの口を開かせる。
そこに戸惑いもなく、ロイは舌を入れてきた。
「っ、――っ、く、」
顔を背けて口を逃れても、どんどん後ろに入ってくる指を止めるすべは無く、エドは苦痛に顔を歪める。
「喜んでいる、くせに」
「っ、っつ、」
素直になればいいものを。
「―――っ、」
啼いてしまえばいいものを。
「…堕ちてしまえば、いいものを…」
「っ!!!!!!」
指が抜かれ、ロイを押し込まれたのは一瞬のこと。
どちらの行動に声にならない悲鳴を上げたのか自分でも分からなかった。
だめだ、もう。
ここまできたら、思考回路を破壊する快楽からは逃れられない。
中枢が麻痺すれば、あとは堕ちるだけ。
こいつの言葉通りに、堕ちるだけ。
「―――っあ!」
一度開いた口も閉じれるわけが無い。
更に深く入ってきたロイは全てを収めきると、組み敷いた少年を見て一言、少し息を荒くして呟いた。
堕ちたな、と。
「ぁあ、あ、っ、ふ、…っぁ、」
突き上げられる度に出る、不規則で艶のある嬌声。
これで欲情しないほうがおかしい。
「…っ、ちゃんと、出るじゃないか…」
良い声が。
低く、エドとは違った艶のある声が耳元から脳に直接響く。
思考回路を完全に断ち切るにはそれで十分だった。
「っあ、ぁ、あ、あっ」
声は良い。
体の具合も申し分ない。
だが何かが足らなかった。
(あぁ、そうか…)
ロイはエドの腕を拘束していたコートを取り去って床に落とすと、腕を自分の背中へ回すように導いた。
ゆっくりと両腕を順番に。
「…、」
ふと止まった動きに、は、とエドは息を吐き、ただロイに導かれるままに腕を回す動作を感受した。
それが何を意味していたのか、もう考える余地はなかったけれど、ただ少しだけ。
俺は無意識に、悲しそうに笑った気がした。
きっと、目の前の相手は気付いていないんだろうけど。
「っあ、」
再開された動きは、また俺を堕とす。
「っぅあ!あ!ぁ!っ、」
深く、貪欲に貪られる、ただの性欲処理。
でも、何処かが違った。
分からないけれど、何処かが。
「ぁぁぁ――――――っっ!!!」
「っ!」
両腕に力を込めて、俺はロイを掻き抱いた。
ロイは俺の顔の横に右手を付いて、中で果てる直前に俺に噛み付くようなキスをして、声を飲み込んだ。
互いに荒い息を吐く中、ある程度落ち着いたのかロイが俺から出て行った。
声を上げそうになったが、何とか堪えられたことから、少し頭がはっきりしていると知る。
そして服を着直す俺を見ながらロイは。
「…おい、」
「―――」
そう呼んだが、呼ぶ声を無視して腕で目の前に居る人物を除けると、机から降りた。
足に力は入らないが、歩くことくらいは出来そうだ。
「…お、」
「呼ぶな」
再度呼ぶ声を遮って、抑制をかける。
その間も俺は足を止めず、部屋の入り口まで行って扉を開け、体を廊下へ出したあと。
小さく。
「俺は、…そんな名前じゃねェ―――」
そう呟いて、扉を閉めた。
閉じた後、そのまま背を預けてずるずるとその場にしゃがみ込んだ。
本当に、こんなことを望んじゃいなかった。
心が欲しいと願ったのがいけなかったのだろうか。
せめて距離を縮められれば、と願えばよかったのだろうか。
それとも、何も望んではいけなかったのだろうか。
誰かが、はっきりと言ってくれたらよかったのに。
そしたら、抱かれることもなかったのに。
それは、抱かれて喜んだ俺が言える言葉ではないけれど。
でも、その時だけは俺を見てくれていたんだと思ってもいいですか。
もし許されるなら。
思っていてもいいですか。
物悲しい気持ちになったが、不思議と涙は出なかった。
(―――もっと、乱暴に抱いてくれれば良かったのに…)
口に出ることの無かったその言葉は、脳の片隅に追いやった。
そうすれば、恨む事が出来たのに。
その言葉と共に。
そして。
エドはある決意をした。
迷っていた想いを吹っ切るように、立ち上がった。
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04/10/05
精神的にエドを強くしたかったんですが…駄目だね…。
でもようやくって位置まで来れてます。
ブラウザでお戻りください。