何故私は追いかけているのか。


「……っ、」


ロイはエドが出て行った扉を暫く見つめていたが、居た堪れなくなって足を踏み出した。
別に後ろめたさがあったわけでもない。
ただのワケの分からない石ころを気味が悪いといって捨てた。
それだけだ。
あの石がアイツにとってどんな意味があったのかなんて知るわけがない。
だが私の前ではいつも毅然とした態度で。
何を言われても目の強さは失わなかったアイツが。
何故あんなに悲しそうに泣いていたのかが、知りたいと思った。
そしてその時思わず手を出しそうになった理由。
――抱きしめたくなった理由を、知りたかった。


「一体何処へ…」


もしかしたらもう司令部を出てしまったかもしれない、と思って足を止めた時。
長い廊下に点々と並んでいる扉の一つから、声が聞こえた。
それは微かなものだったが、何故か今の私には鮮明に聞こえたんだ。


月凪 14




「…っンだよ!離せよ!!」


逃れようとする手を引っ張られ、連れて来られた司令部内のある一室。
エドが出入りするのは専ら大佐執務室かハボック達が居る司令室、それと休憩室くらいしかない為、司令部には知らない場所が沢山あるわけで。
ここもその一つだろう、上官との接客に使うような大層な客室だった。
それ故広い室内に大きなソファーがあり、そこにエドは抵抗も虚しく押し倒された。


「っ!」


自分に近付く整った顔。
ハボックの顔をこんなに近くで見たのは初めてだったが、そんなことを思う余裕なんて今はない。
その顔を威嚇の意を込めて睨むが、今だ涙が溢れ続ける目では数秒も持たない。
そんな自分が情けなくてしょうがなかった。
こんなに弱かったんだと思い知らされているようで、悔しかった。


「…っ離せっ…!」


心が弱くなった所為か、体が云う事を聞いてくれない。
抵抗が弱くなったからか、ハボックも力を緩めてくれた。
だが両腕を解放はしてくれなかった。


「…何でだよ…」
「…、?」


どうして少尉がそんなことを言うのか。
エドは涙で霞んだ視界を少しクリアにして、涙を流してから初めてまともにハボックの顔を見て、気付いた。


「何でだよ…っ!」


そう言った少尉の顔も、悲しそうだったことに。


「少、尉…」
「忘れられてんだぜ…?」


なのに、何でそんな必死なんだよ。
思い出してくれる確証なんて、ねぇのに。
傍に居ても苦しいだけだって分かってんのに。


「お前が必死になってんの見てっと、こっちが辛くなってくるんだよ…」


大佐にキツイこと言われても屈せず。
返事をくれなくてもただ苦笑して。
顔を見てくれなくてもただ目を伏せて耐えるだけ。
俺はそんなお前を。


「そんなエド、もう見たくねぇんだよ…!」
「…!」


それでも、傍に居るだけで嬉しそうな顔をする、お前も。
その顔を見た時から、俺の中にずっとあった感情が、目を覚ましてしまった。
嫉妬と独占欲という、醜い感情が。
絶対、言葉にしないと思っていた。
言葉にしてはいけないと思っていた。
それは上司に遠慮したとか、そういうことではなく。
ただ、エドの笑顔を失いたくなかった、だけ。
だが。


「…俺じゃ、だめか…?」


何より大切にしたかったエド本人によってその均衡は崩され。
口に、してしまった。


「…ぇ…、」


顔を見ていられなくなったエドは、困惑した様子で顔を背けた。
そして露になった白い、首筋。
ハボックは躊躇う様子もなく顔を埋めた。


「っ!?」


ぺろり、と舐めるとびく、と小さく体が跳ねるのを感じた。
きっともう止めらんねェな。
高鳴る感情とは裏腹に、頭は冷静だった。
しかしそれも何時まで持つか。
首を隠す留め金をパチンと外し、服を左右に開く。


「止めっ!」


制止の声と共に自分の手に重なる手を掴み、エドの両手を頭上で左手で縫いとめた。


「少尉っ、」
「俺だったら…」


俺だったら、絶対お前にそんな顔をさせない。
その言葉に目を見開いて、また困ったように視線を逸らす。


「俺…は…、」


俺には分かった。
エドの視線の先にはまだ、大佐が居るんだということを。
俺のことなんて、想ってくれていないことを。
それでもいい。
今はこの体に俺を刻み付けられれば。
そんな、汚い感情。


「忘れちまえ」
「っ!」


感情は時として暴走する。
常にマイペースな自分には無縁なことだと思っていた。
今、エドを組み敷くまでは。


「忘れられたんなら、お前も忘れればいい」
「ぅあ!」


いきなり服の上から自分のモノを撫で上げられ、思わず声が上がる。
それが恥ずかしかったのか、上がる声を何とか堪えようと唇を噛む。
ハボックとしては綺麗な唇に血が滲むのが嫌だったというのもあるが、何より声が聞きたかった。
だから、おびえないようにゆっくりと唇を重ねた。


「んっ、」


それは昨日の夜にした軽いものではなく、もっと深く、貪欲なキス。
口の中を舌で犯し、舐めていない所などないような位、全てを貪った。


「んぅ、…ぁ、ふ…は、」


口を塞いだままエドの黒いシャツを捲り、手を這わせるとまた体が跳ねる。
脇腹から胸にかけて手を動かすと、全てにおいて反応が返ってくるのが嬉しくて。


「エド…」


名残惜しげに唇を放し、唾液で濡れた舌を今度は耳に這わせて名を呼んだ。
少しでも、伝わればいいと思った。
自分の想いが少しでも伝わればと。


「…や、め……っざけンな…!」
「!」


だがエドから返ってきたのは否定の言葉。
まるでそれはどう足掻いても手に入らないんだ、と言われているようで。


「ふざけてなんかねぇよ…!」


思わず声を荒げて、少しずつ緩めていたズボンのベルトを引き抜くと、足を割って中心に顔を埋め、まだ幼さ残るそれを口に含んだ。


「――――っっ!!」


一気に与えられた感覚に、エドは声にならない声を上げて仰け反った。
両手は当に解放されていたが、自分を咥えている男の様子と昇り来る快楽に、完全に中枢は麻痺し。


「あ、あ、あ、あっ、」


ただ喘ぐことしか出来なくなっていた。
そして思いっきり吸い上げられ。


「ぅあ――――っ!!!」


口の中に放ってしまった。
放っても一度高みまで上がってしまった体が収まるはずもなく、それを何とか抑えようと肩で息をするエド。
しかし今のハボックには煽るだけの要素。
このまま、そう思った時。
エドは目じりに涙を浮かべて。


「忘れ、られたら…いいのに…」


忘れたいと願った。
忘れようと思った。


「少尉の、こと…好きになれたら、いいのにな…っ」
「…っ!!」


でも心の何処かで、あの人を欲してしまうから。
分からないけど、あの人じゃないと。


「あの人じゃないと、駄目なんだ…っ」


悲しそうな笑顔で、俺に言った。


「…っ」


そんな顔で言われたら、止めるしかねぇじゃねぇか。
出来るわけねぇじゃねぇか。
こんなに、大切なのに…!


「…っそー!!」


ダン!とエドの顔の横に拳を打ち付け、体の上から退き、部屋を出て行った。











少尉を好きになれたらいいのに。
俺に好意があると知っていても言ってしまった言葉。
傷つけてしまうと分かっていた。
でも自分に嘘は付きたくなかった。
俺を好いてくれているからこそ、嘘は付きたくなかった。


「最低だな…俺…」


どうしたら、この涙を止められるのだろう。
どうしたらこの感情を止められるのだろう。
どうか、誰か。
教えてください。











「―――――」


バンと開いた扉に隠れ見えなかったようで、ハボックは知らずに走って行ってしまった。
今までのやり取りを聞いていたロイが、居るとも知らずに。





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04/09/24
どうしようか悩みに悩んで寸止め。
…どうだろう…。


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