二週間。
それが俺に与えられた時間。
与えてもらった、きっかけ。


月凪 8




翌日。
カチャリと開いた扉からは昨日のようにホークアイが入ってくるとばかり思っていたが。


「…何故君が来る?」


入って来たのは赤いコートを着た金髪の少年。
昨日ホークアイから名前を聞いたような気がしたが、自分に関係のない人物の名は覚えないロイは聞き流して覚えていなかった。
だが名前を聞いたからと言って呼ぶつもりなど一切ない。
ロイは自分の認めた人間しか、名を呼ばない。
こんな子供に何が出来るというのか。


「中尉はどうした?」


入室してから一切目を合わせないエドに、ロイは問うた。
それに一瞬息を詰めたようだったが、視線を合わせて。


「…二週間」
「?」


質問の答えになっていない上、二週間とは何の期間なのか。
表情で聞き返すロイに。


「…二週間、もらったんだ」


そう答えた。











「二週間、貴方に時間をあげるわ」
「…二週、間…?」


ホークアイはエドに言った。
それが何の時間を示しているのか、見当も付かずただ言葉を繰り返すエドに、目を閉じて続ける。


「丁度ね、二週間の射撃訓練を兼ねた軍の合宿があって」


前々からその話を受けていたため、断るわけにもいかないらしく。
大佐の容態ももう心配ないとのことなので、本人からも許可をもらい予定通り参加することになったのだが、問題は司令部の方で。


「殆どの軍人はあの研究所跡の処理で忙しくて、司令部には最低限しか居ない状態なのよ」


だから大佐の身の回りの世話をしてくれる人がいないの。


「…え、」


ホークアイの言葉から予測、と言えるほどのことでもないが。
つまり簡単に言うと。


「大佐に、付いてろ…って、こと?」
「ええ」


あっさりとしたホークアイの返事に、エドは暫く目を丸くすることしか出来なかったが、ふと我に返り。


「そ、そんなこと…!」


出来るわけがない。
焦ってそう言おうとした口に、すらりと綺麗な人差し指をかざされて制止され。


「返答は待って」


真剣な顔でそう言われては黙るしかない。


「返事は今すぐしないで」
「…?」


これは直ぐに返事をした方がいいんじゃ?
訳が分からず疑問符しか浮かばないエドに。


「一晩よく考えて」


両肩に手を乗せ。


「そして答えを出して」


と。





その日俺は宿に帰って何をすることなく、ベッドに腰を下ろして考えた。


『よく考えて答えを出して』


俺たちには"成し遂げなければならないこと"がある。
それは中尉も知っていること。
だから、だろう。
二週間も留まるとなると、その分自分たちが"成し遂げなければならないこと"に費やす時間を削らなければならない。
俺たちは今まで一分、一秒も惜しいと言って行動してきた。
司令部に寄って皆で語らったりするのは一ヶ月に一度あるかないか。
大佐との逢瀬もその一度の一日ということが殆どだった。
一週間、ましてや二週間も何処か同じ場所に留まっていたことなど皆無。
今まで"成し遂げなければならないこと"を中心に回していた世界を変えなければならないというのは。


「…難しい、よな…」


人が焦った時に発する言葉ほど正しいものはない。
中尉に思わず出来ないと言ってしまいそうになったことは本心。
でも。


(今…)


今、何より心に強くあるのは――――。





ホークアイも自宅で思いに耽る。


二週間という期間は偶然に生まれた時間。
それがあったからエドワード君に"きっかけ"として与えることが出来たけれど。
本当だったら何も出来ないところ。
ただ気休めの言葉を言ってやることしかできなかったはずだったのを、こうして何かを与えてやれたことについては少し嬉しく思えた。
でも、二週間という長い時間を使うかどうかは本人次第。
勿論アル君のこともある。


(それに…)


分からないかもしれないけれど。
もし使うと決めたこの二週間。
何より辛い時間になるだろうから。
それでもただ、傍に居させてあげたいと――――。







「…答えは、出た?」
「うん」


病院の前で二人は翌日、顔を合わせた。
少し心配そうなホークアイと、対照的に何かを決めたような顔つきのエド。
先に口を開いたのは。


「…中尉のくれた"きっかけ"、…生かしたい」
「エドワード君、」


捨てるかもしれない。
そう思っていたけど、心のどこかで絶対生かす、という気がしていた。
でも。


「…辛いわよ?」
「うん」


自分のことだけを忘れた人の傍に居るのは。


「…苦しいわよ?」
「うん」


窮地に追い込むつもりなんてない。
むしろそんな思いなんてさせたくない。
でも言わなければ、確かめなければいけなかった。


「それでも…」
「分かってる」


エドはホークアイを遮って。


「この二週間、どれだけ辛いか分からないけど」


どれだけ苦しいか分からないけど。


「後悔はしたくないから」
「…!」


そして何より。


「何より…傍に、居たいから」


笑って、そう言ったエドを見てホークアイは思った。


(――思っていたより、)


強い子だと。
そして。


「…ありがとう…」


自分の気持ちを受け取ってくれたエドに、そう言った。












「二週間、もらった?」
「…、」


エドはこくん、と頷くだけ。
それにふ、と鼻で笑い。


「何のことだかさっぱりなんだが?」


目を伏せて言ったロイにエドは近付いて。


「中尉に、アンタの身の回りの世話を頼まれた」
「お前が?中尉に?」


先程よりも含んだ笑いで目を向ける。


「お前のようなガキに世話されるようでは、私も落ちたものだなぁ」
「…」
「はっきり言おう」


ベッドに腰掛けていたロイは立ち上がってエドに近付くと。
胸倉を掴み。


「…必要ない」


出て行ってもらおうか。


(…反応は最悪…)


状況も不利。
でも中尉の気持ちを無駄にはしない。


「…嫌です」


力強く、言った。







今何より心に強くあるのは、傍に居たい。
ただ、それだけ。



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04/08/02
時間軸…分かります…?
つかやり過ぎですかね。まだまだなんですがね。


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