「…兄さんの、声…」


エドたちがいる空間から始まった崩れは、数分もしないうちに研究所跡全体に回り、当然アルと少佐のいる空間でも崩れは始まっていて。
建物が崩れる音は相当大きな音である。
それでもアルは微かな兄の声を聞いた。


月凪 3




「アルフォンス・エルリック、兄の声が聞こえただと!?」
「…はい、――はい、確かに!」


確かにあれは兄の声だった。
だがその声は悲痛にも感じ取られて。


「でも…、」
「どうした!兄は何と言っていたのだ!?」


口ごもるアルに、少佐は急かすように声を張り上げる。
それにアルは重そうに口を開いて。


「……『大佐』、…と…」
「――!?」


二人の間に、嫌な緊張が走った。
何もなければ叫ぶ筈がない。
何もなければ悲痛な声が届く筈もない。
嫌な方向にしか考えが行かない。
しかし此処の崩れも段々と酷くなる一方で、直ぐにでも戻らなければ我々が潰されてしまう。
少佐はぐっと拳に力を込めて。


「…っ大丈夫だ!!」
「…少佐、」
「あの二人は強い!」
「でも、」
「我々が信じなければ誰が信じるのだ!」


必ず、生きて脱出する!
アルの肩を力強く掴み、そう言い聞かせた。
今の僕たちに力を貸すことは出来ない。
信じるしかない。


「…はい!!」


二人は崩れ落ちる瓦礫の中、走り出した。













「―――っ、」


腕が、手が、足が。
固まったように動かない。


(脱出、しないと…!)


頭で体に命令は出している。
動けと、立ち上がれと言っているのに。


(どうして動かねェんだよ…っ!!)


手足はただ震えるだけ。
ロイから流れる血は止まることなく軍服、そしてエドの服に広がっていく。
早く手当てをしなければ。


(じゃねぇと、大佐が…、)


一刻も早く脱出しなければ…!


(大佐が―――っ!!)


心の中でそう叫んだ時。


「…ぁん!」
「…、?」


声が聞こえてきた。
エドは首を左右に振って声の主を探すが、周りはもう殆ど瓦礫に埋まってしまっている。
それに人の気配もない。
誰だと探すうちに、もう一度声が聞こえた。


「兄さん!!!」


今度ははっきりと。
弟の声が聞こえた。
途端、何故か目尻が熱くなる。


「ア、ル…っ」


声が、上手く出ない。
涙が頬を伝う。
人が腕の中で冷たくなっていく恐怖の所為なのか。
だから手足が動かなかったんだ。
でも、今この壁の向こうに弟が、アルが居る。
腕の中の大佐も、まだ生きている。
怖がることなんて、ない。


「…っアルっ!!!」
「兄さん!!」


もう一度響く、アルの声。
大丈夫、もう手足は動く。


「…助ける…っ」


絶対に。


「―――俺を庇って死んだなんて…っ」


俺の所為だ。
だから俺が絶対に。


「そんな、アンタに似合わねぇ…、」


こっから脱出して。


「カッコ悪ぃ死に方、させるかよ…っ!!」


胸をぎゅ、と一度握り、エドはロイを担いで立ち上がった。




助ける―――――!!!




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04/08/17
何が難しいって、少佐の口調がね…。
キリがいいので短いですが。


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