悪夢は―――。


月凪 2




尚も長く、暗い廊下を先へと進む。


ロイとエドは少佐とアルが先に行ったのを確認した後、床の色も違う、小さな廊下へ足を踏み出した。


「私たちも行くぞ」
「あ、あぁ」


完全に体を入れると、ごうん、という大きな音がして。


「「!?」」


後ろを振り向くと同時に、先程来た道からの月明かりが消え、後戻りの道を断たれた。
どうやら壁が上から降りてきたようだ。
ロイは持っていた燈台を降りてきた壁にかざす。
エドは焦って扉を錬成しようと両手を合わせようとするが、それを静止するように片手を掴まれ。


「いや、ここは先に進んだ方がいい」
「でも、」
「この奥に何があるか分からないが、出口がある可能性の方が高い」


それに今扉を作ったからといって、戻ってきた時にそれがまだ残っているとも限らない。
例え扉から向こうに戻れたとしても、研究所が残っていないかもしれないしな、とロイは続けた。
エドは分かった、と頷いて手を下ろす。


「それにしても、少佐達の方は何もなかったよな?」
「言っただろう、こちらが罠だと」


ロイはこれがいい証拠だ、と壁をコン、と叩きながらエドに言う。


「まぁとにかく、どんな罠かは遭遇してみなければ分からない。先へ進むぞ」


そう言って燈台を先へ伸びる廊下の方へ向けて歩き出し、エドも並んで先へ進む。
先程まで歩いてきた廊下ほどではないが、二人が並んで歩けるだけの幅はあった。
と、またごうん、というまた何かが動くような音が辺りに響き、二人は歩む足を止め。


「…何か、くるか?」
「いや…、」


構えるエドの問いに否定の意を込めながら、壁に耳を当てる。


「……どうやら少佐達の方らしい」
「てことは、錬成音?」
「多分な」


絶え間ない地響きのような音が引っ切り無しに聞こえてくる。


「また合成獣でも出たんかな」


だがあの二人のことだ、結構な数がきても心配は要らないだろう。
問題は。


「……」
「大佐?」


先を見据えたまま動かないロイに、エドも視線を追って先を見る。
と、小さくだが、炎のゆれが見えた。


「…出口?」
「だと、いいんだがね」


そう呟いて炎から視線を逸らさずにまた足を進める。
罠かもしれない。
そんな考えがエドの頭をよぎるが、ロイとエドなら大抵の相手は一網打尽には出来る。
それにロイにはイシュヴァールで鍛えられた勘と思考があるし、二人とも錬成に時間はかからない。
何かが来た場合は先手必勝、倒せる自信がある。
だが何故だろう。


(……怖い…)


この言いようのない感覚は。


(――後戻り、出来たら…)


俺にしては珍しいマイナス思考。
それだけ、今この場にいることが嫌なのだ。


(……大、丈夫…大丈夫…、)


エドは心にそう言い聞かせた。
そして。


「……何だ、ここは…」


ロイの言葉と共に二人は広い空間に出た。
今歩いてきた廊下とは不釣合いなこの広い所には、空間いっぱいに大きな錬成陣が描かれていて、その真ん中には先程から見えていた炎が灯っている。
炎が何を意味しているのかは分からないが、この錬成陣と、書かれている構築式は。


「…人体、錬成…」
「鋼のもそう言うのなら間違いないようだな…」


お互い同じ事を考えていたようだ。
しかし、もしここで人体錬成が行われていたとしたら。


「ただの研究所にしてはおかしいと思っていたが…最悪の状況だな……鋼の?」


ロイに呼ばれたのにも気付かず、エドはゆっくりと歩き、錬成陣にの近くに膝を付く。
不審に思いロイは目を細めてもう一度二つ名を呼ぶ。


「鋼の、何を…」
「…壊すんだよ」


そう言うと両手を合わせ、その手を床に置くと。
ぴしっと錬成陣に亀裂が入ったと思ったら、がらがらと音を立てて床が崩れ落ちた。


「…もう、遅いかもしれねぇけど、さ」


でも、もうこれ以上の錬成は止めたかったんだ。


「…いいんじゃないか?君らしくて」


エドの気持ちを察して、ロイは薄く笑った。
床はどんどん崩れ、錬成陣の中心にあった蜀台の炎が消えた、途端。


「「っ!?」」


いきなり建物全体が揺れ、天井が崩れ始めた。
それでロイは悟る。


「―――っこれかっ!」
「何だよ!?」


瓦礫に当たらぬよう頭を抱えて問うエドに。


「先程の蜀台がこの研究所を崩すスイッチだったんだ!!」
「んな…!」


おそらく錬成陣はおとり。
エドにこの錬成陣を壊させ、蜀台を倒すか炎を消すかで建物全体に仕掛けられた何かが発動する仕掛けになっていたのだろう。
迂闊だった、何故疑問にも思わなかったのか。
先入観に気を取られていた自分が腹立たしい。
だがこの状況ではそんなことは言っていられない。
何とかこの場を脱しなければ。
そう思ったが、この空間に入った時に息苦しさを感じていたロイ。
もし外に抜ける道があるのならどこからか少なからず風が入ってくる筈だが、それは一切感じられなかった。
つまり出口がある可能性は低いということ。


「〜くそ!」
「どうすんだよ大佐!!」


崩れは酷くなる一方で、このままでは生き埋めになってしまう。
出口がないのなら、作るまで。


「っ、入ってきた所と逆の壁を壊せ!」
「逆!?」
「そうだ!」


この研究所は縦に長く作られている。
地図にはない空間だが、ここに来るまで一度も角を曲がっていない。
それをふまえるとここが一番外れだと考えるのが自然。
外はそんなに遠くはない筈だ。
その壁を壊せば。


「そうすれば…!」
「分かった!!」


壁に近付き、両手を合わそうとするエドが視界に入った。
が、その上端から瓦礫が入ってきた。
しかも丁度エドの上から。


「―――――っ鋼の!!!」


叫ぶより先に、体が動いていた。








「……え…?」


周りの音が、止んだ。


今、何が起こった?


(確か、大佐が俺に向かって走ってきて…)


そうだ、錬成しようと手を合わせようとした時、大佐の呼ぶ声が聞こえて。
それで反射的に大佐の方を向いた瞬間、大佐の胸が目の前にあって。


(何かあの時みたいだ、って思って、)


一瞬目を閉じて背中を打つ衝撃を堪えて、目を開けたら。


「……大、佐?」


ぐったりと俺に体を預ける、大佐が居て。
動かない大佐と。
頭から流れる赤い、血。


『あなた―――!!!!』


母の声が、頭に響いた。


一緒だ、あの時と。
あの時も、父さんが、俺を庇って。
血が、広がって。


「大佐、」


顔を上げない大佐の頭に生身の手を置くと、ぬるりとした感覚が手全体に広がり。
血の量を物語る。


「大佐!」


呼んでも返事はない。
ぴくりとも動かない。


「たいさぁ―――――っ!!!!」


階級を呼ぶ声は、瓦礫の音に掻き消され。
二人は瓦礫に埋まっていった。





悪夢は再び、繰り返される―――。





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04/08/14
その、とかそれ、とか指示語が多い俺の文章。
読みにくいですが、ついてきてやって下さい。

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