それでも、俺はロイが――――。




瞳の住人 最終話






今日は昨日の残りから片付けないとな。
そんなことを考えながら、ロイはいつものように東方司令部への道のりを歩く。
自宅からは少し距離があるが、この道を歩くのは嫌いではなかった。
毎日この間に今日の予定を頭の中で整理しながら歩くので、時間はかかっても精神的には何の苦痛もなく、むしろ有意義に使っているので正直有難い時間でもあった。


――――半年。


ふとそんな単語が頭に浮かんだ。


(もうそんなに経ったのか―――)


エドに別れを告げてから既に半年が過ぎた。
半年と言える時点で、まだ忘れられていない証拠でもあるのだが。


(全く、女々しいな)


あれだけ心を通わせたのに別れなければいけないのは私たちくらいだ、と自慢してもいい程だ。
我ながら笑って言える辺り、思い出でもない気もする。
思い出にしておくには勿体ないほどの、最高の時間だった。
そんな思いに浸っているうちに、司令部の長い階段が見えてきた。
さて今日も頑張るかと軽く意気込んで、階段を上るためにふっと視線を向けた。


「―――!」


視線の先には、白い階段によく映える赤い人影があって。
ロイは一瞬目を疑った。
そんな筈はない。
ここにはもう来るわけがないのに。
と、赤い人影が振り返る。


「…久しぶり」
「―――エ、ド…」


少し目を細めて挨拶をするエドに動揺してただ名を呼ぶことしか出来なかった。
どうして、ここに。
それすらも声にならなくて。
それを悟ってか、先にエドが。


「…ずっと、さ……考えてた…」


アンタに会いに来てもいいのかって。
エドは目を伏せて続ける。


「…一応、落ち着いたからさ。預かっててもらった銀時計、返してもらおうかって…口実もあるんだけど…」


口実、と言ったからには重要なところは他にあるということだ。
どうしてだろう。
一度は捨てた感情が、高揚を始める。
だがエドはそれから黙ってしまって、期待だけが空回りする。
自分から何か言おうにも、今のロイに言えることは何もなくて、エドの声を待つだけしか出来ない。
期待するようなことを言ってくれなくてもいい。
ただ声が聞きたい。


「…エド」
「…っ、」


ロイが名を呼んだのをきっかけに、エドは真剣な顔でロイを見据えると。


「…そんなん、只のおごりだろ」
「…?何を…」


急に何を言い出すんだと思ったロイは、静止しようと声をかけるがエドはそれを無視して坦々と話し続ける。


「話したからって痛みが軽くなるなんて分かんねェだろ」
「…?」
「軽くなったとしてもそれはそう『感じる』だけで、塞がったワケじゃねェ」
「…エド?」
「同じことが起きればまた、痛み出すんだ…」


そこまで言うと一息ついて。


「…大佐の気持ち全部が、重いんだ…」
「っ、」


どこかで聞いた台詞だと思っていた。
その言葉は二人の仲に亀裂を入れた始まりの一言で、今でもよく覚えていたのだから。
だが、それはエドの記憶がなくなる以前のこと。
ならばどうして―――。


「―――!!」


そこまで考えてロイはようやく気付いた。
目を見開いたことでエドにも伝わったのか、エドは階段を下ってロイの一段前まで降りるとふわりと笑って。


「―――それでも、俺はロイが好きだよ」


ずっと、あの時から。
それが言いたかったんだ。


「エド…っ」


ロイは愛しくてやまなかった存在を、腕の中に抱き込んだ。
やっと、やっと。
抱きしめられた。


「…ありがと、ロイ」


俺のために、苦しんでくれて。
エドも、もう躊躇いもなくロイの背中に腕を回す。


「…エド」
「ありがとう」


全てエドは知っていたんだ。
この半年の間、此処に来ることをどれだけ悩んだのだろう。
苦しんだのだろう。


「…私こそ、ありがとう」
「…ロイ」
「ありがとう、エドワード…」


私のために、苦しんでくれて。


同じ台詞を返してエドを覗き込むと、ふっ、と笑って。


「何かすっげー長い夢見てた感じだな?」
「確かにね」


ロイは懐かしい髪の香りに酔いしれながら。


「もう何があっても、絶対離さない」
「…当たり前だろ?」
「離れろ、と言っても離れないからね」
「俺だって」


久し振りのやり取りに、前なら眉間にしわを寄せていたエドも、笑って応えてくれる。
本当に懐かしい。
と、エドが腕の中で顔を上げて。


「俺、世界で一番ロイが嫌い」
「は、」


急に言われた言葉に情けない声を出すが、エドは直ぐに笑うと。


「でも、世界で一番ロイが好き」
「…!」
「どっちも、一番」


一本取られた。
だったら私だって。


「私も、エドが世界で一番嫌いだよ」
「え」
「でも、世界で一番、誰よりも、エドを愛してる」
「…!!」
「私は愛している気持ちの方が強いが…どちらも一番」
「…ん」





くすくす、と笑う二人にさんさんと太陽の光が降り注ぐ。
まるで二人を、祝福するかのように。











愛しい人は、腕の中から、瞳の住人へ。
そして瞳の住人は、愛しい人へ。




Happy end !




04/06/16
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