私を、殺してくれる―――――?
瞳の住人 8
エドたちはある資料を追って、山奥の小さな村に滞在していた。
小さな村と言っても、今は廃屋となっている建物が殆どだが、元々何かの研究に使われていた建物が多数あり、土地としてはそれなりの規模を誇っている。
何故こんな所にこんなに多くの研究所跡があるのだろうか。
山奥で人目も付かぬ所で何かを作っていたということは、公に出来ない何かを作っていたという考えに繋がる。
故に、兄弟はその考えを廃屋の何処かにある筈の資料によって、確証に変えようと探しているのだが。
その資料の在り処は酷く曖昧なもので、村に住んでいる人達に聞いてはみても、何を研究していたとまでは分からず、結局一つ一つ手探りで探さなければならない。
しかしどの研究所跡も地上四、五階建ての上、一階の広さが見た目以上に大きいらしく、一日に一つ調べるのがやっとだった。
そして何軒目かを調べていたある日。
「…ん…?」
エドは元資料室のような部屋で、一際目立つある古い書物を見付けた。
手に取ってぱらぱらと読んでみると。
「―――っアル!おいアル!!」
別な部屋を探しているアルを大声で呼ぶと、ガシャガシャという聞きなれた音が近付いてきて。
「どうしたの?何か見付け…」
「見付けたんだよ確証を!」
「え!?」
目を輝かせてを見付けた物を読むエドに、アルもその書物を覗き込む。
お互いがある程度の位置まで読み終えると。
「…兄さん、これ…!」
「あぁ…!見付けたぜ…!」
勢いよく本を閉じてアルを見て言うエドに、アルも大きく頷く。
「どうする?」
「どうするも何も、ここまで来て躊躇も何もあるかよ!」
エドは書物を右手に持ち、アルの前にずい、と差し出して。
「行くに決まってんだろ?この場所に…!」
嬉しそうに強気な笑みを浮かべてそう言った。
「って、啖呵切って来たのはいいけどよ…」
二人は書物に書かれていた地図を頼りに、村より更に山奥に向かって歩いていた。
しかしここまで来ると道と言える道はなく、当然の如くけもの道で。
「…アル…やっぱ先歩いてくんねぇ?」
「だから言ったのに…」
アルは呆れながら立ち止まったエドの先に立ち、また歩き始めた。
このけもの道に入る直前、アルは兄を気遣って先を歩こうかと言ったのだが、気が急いていたエドはアルの気遣いも無に返し、平気だと言い張ってどんどん先を歩いて行ったのだが、流石にもう自分の背丈ほどの草が生えている所を掻き分けて歩くのは疲れたようである。
「いやー、ほら、早く先に行きたかったって言うかさー…」
「はいはい。…ん?」
苦笑しながら言い訳をするエドをどうでもいいようになだめながらも進んで行くと。
「…兄さん」
「ん?どうした?」
「ここ…じゃない?」
「何!?」
エドはアルの腕の下から顔を出して前を見ると、そこには今エド達が埋もれているような草もない、正円に近い比較的広い空間があった。
地面には草の一つすら生えておらず、明らかにこの土地には不釣合いな空間。
「…そうらしい、な…」
何も起こらないという確証はない為、二人はその空間に警戒しながら足を踏み入れた。
しかし中心に立っても、歩き回っても何も起こらないのを確認すると、エドは膝を付いて地面を調べる。
「…ここで何かが行われていたことは確かだな」
「うん、」
よく見ると、地面には薄っすらと錬成陣に書かれていたような文字が残っていた。
何か大きな錬成をするとなると、錬成陣に円と構築式は不可欠。
だが式らしきものは残っていても、円は消えている。
必要なくなった錬成陣は、間違った錬成や意図しない錬成を防ぐ為に、循環をさせないよう円を消すことが多い。
そう考えると。
「もうここは用済み、ってことか…」
「そう。残念でした」
「「!!?」」
急に後ろから聞えた声に振り返ると、茂みの中からこちらに女の人が近付いてくる。
身長はエドよりも高く、年齢は…二十代半ばあたりだろうか。
長いストレートの黒い髪が、印象的だった。
その女はエド達と同じ空間に入ると、にっこりと笑って。
「結構遅かったね?もっと早いかと思ってたんだけど…」
「…誰だ、てめェ…!?」
エドは警戒の意味を込め、目を細めてぎっと女を睨む。
アルも無言だが、何時でも対応できるように身構える。
その女も警戒に気付いたのか。
「あぁ、そんなに警戒しなくてもいいよ。君達をどうこうするつもりはないし」
笑って言うが、それだってただ油断させるだけの手段かもしれない。
ふとアルは疑問に思った。
例え何もしないとしても、それとは別にもう一つ気にかかることがある。
「何が…!」
「…どうこうするつもりはないにしても…どうして僕達のことを知っているんですか?」
頭に血が上りかけているエドを腕を前に出して静止すると、冷静なアルが問い掛ける。
女もまた焦る様子もなく。
「…へぇ、弟の方は結構冷静なんだ?」
だったら話は早いね、と言って一度視線を地面に落とすが、直ぐに顔を上げて。
「君達を待っていたのは、私の願いを叶えて欲しいからなんだ」
「願い…?」
エドは顔をしかめて女を見るが、女の顔は至って真剣で、そこに冗談の欠片すら感じられなくて。
それは本当なんだと思ったが、そこまで真剣に一体何を俺達に頼むというのか。
「そ。…私をね、―――殺して欲しいんだ」
女は、笑ってそう言った。
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04/06/07
またもオリキャラ登場。
そしていきなりの爆弾発言。
でもそんなに期待しないで下さい…。
ちなみに錬成陣の円を消すっていうのは俺の勝手な見解ですので一応。