これは偶然が重なっただけ。
決してあいつの言ったとおりになったワケじゃ、ない。
瞳の住人 2
大通りを暫く走ると、細い路地から血が点々と流れているのを見つけて、ばっと路地へ飛び込むと。
「どうした!?」
「う、うう…」
「大丈夫ですか!?」
男はうつ伏せになって腹を押さえるように倒れ込んでいて、二人は膝を付き、起こそうと腹に手をやると、腹からは大量の血が出ていたらしく、二人の手にどろりとした感触が広がる。
「兄さん…」
「危険だな…」
エドは険しい顔で呟くと。
「俺は犯人を追う。アルはこの人を頼む!」
「分かった。無理しないでね!」
「あぁ!」
アルが返事をする前にエドは既に立ち上がっていて、少しだけ後ろを振り向いて返事をすると、雨を吸って重くなったコートをその場に脱ぎ捨てると、迷うことなく先程来た道とは反対の方向へと走り出した。
先程走ってきた道は一本道だ。
もしも犯人がこちら側に走ってきたのなら鉢合わせになるはず。
しかし来なかったということは。
「…っ見つけたぜ…!」
ビンゴ!と心の中で叫んでエドは数十メートル先を走る犯人を追いかける。
ここら辺は家と家の間に隙間がないため、ほぼ一本道になっている所が殆ど。
だが犯人はそれに気付かないで走っているらしく、行き止まりになる道は少なくないことを知らないようだ。
犯人がここの地形に詳しくなかったとしたら、少しでもここを知っているエドが有利。
それを証明するように、犯人が曲がった角をエドも追うように曲がると。
「…っ!」
「残念だったな、行き止まりだ」
普通の人ではまず飛び越えられない高さの壁が二人の前に立ちはだかっていた。
犯人はこちらを向くと。
「…何だ、ガキかよ」
安堵したように肩の力を抜いた。
その言い方がエドの気に触って、怒りの混じった笑みを浮かべて。
「…ガキはガキでも、俺只のガキじゃあないんだけどな」
「あぁ?」
「なめてっと痛い目見るぜ…!」
言いながらパン!と両手の平を合わせ左手を右の機械鎧に滑らせると、腕の先が鋭い刃へと形を変える。
犯人はそれを見て焦ったように身構えて。
「…っ錬金術師か!」
「ご名答…っ!!」
エドは濡れた地面を蹴って一気に犯人との間合いを詰め、懐へと飛び込み、目を見開いた犯人の顔を見て倒せると確信した。
しかし。
「さっきの台詞、そのまま返すぜ」
「!?」
ニヤリと笑って言った犯人の言葉にエドはまずい!と思ったが、既に勢いを得た体を止められるわけがなく、こうなったら相手が何らかの手を出す前に倒すしかないと、思い切ってもう一歩を踏み込むが。
「――――っ!!」
エドの踏み込んだ地面がいきなりうねったかと思うと、物凄い勢いで犯人の後ろ側にある壁側に突き上がり、その上に足を乗せていたエドの体も一緒に飛ばされてしまう。
(まずい!何とか体勢を…!)
エドは冷静に自分の置かれた状況を悟り、頭が下にある状態を何とか持ち直すと、この勢いを利用して壁で方向転換を試みようとした、瞬間。
「何…!!」
横目で見ていた後ろの壁が急に飛び出てきて。
「がは―――――っ!」
その壁の突起がエドの後頭部を直撃した。
一方からかけられていた運動は反対側からの運動で相殺され、勢いを失ったエドの体は重力に押されて地面へと押し付けられるように落ちる。
どさりとした衝撃を受け地面にうつ伏せに倒れ込んだエドは、気絶しかけた意識をなんとか繋ぎ止め、犯人を睨むように見上げて。
「…てめ、ぇ…も…っ」
「錬金術師だ」
犯人は余裕に満ちた態度でこちらへ歩いてくる。
迂闊だった。
いつもだったら相手の手を知らないうちは懐に飛び込んだりしないのに、犯人が錬金術を使った時に焦った表情を見せられて油断してしまったのだ。
それが向こうの手の内だと知らずに。
錬成陣を書かなかったところから、恐らく体の何処かに書き込んでいたのだろう。
しかも相当の使い手のようだ。
今の状態では到底敵うはずがない。
エドの後頭部からは赤い液体が流れ、金髪をどんどん染めていく。
「残念だったな、折角追い詰めたのによ?」
「…く、そ…」
そして何とか繋ぎ止めた意識も、この雨の中では長く持ちそうにもない。
手もまともに動かなくなってきている。
犯人は止めを刺すつもりなのか、ポケットからナイフを取り出す。
確実に息の根を止める手段で。
(もう、ダメ…か…)
意識が消えかけた時。
「兄さん!!」
聞きなれた声が辺りを包んだかと思うと、犯人がその声に振り返る前に大きな拳に殴られ、壁に突き刺さるかのような勢いで吹っ飛ばされた。
アルは犯人が気絶したことを悟ると、急いでエドの元へ駆け寄り。
「兄さん!しっかりしてよ兄さんっ!!」
兄さん、兄さんと叫ぶアルの声は、既に瞼を閉じたエドには届かない。
しかし叫ぶ声に隠されてアルには気付かれなかったが、エドの口が小さくゆっくり動いて。
「……た、…い……さ――――」
無意識に口にしたその名が、本人に届くことはなく。
降りしきる雨が、ただ二人を打ちつけていた。
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04/05/26
まぁここまで来ましたら、アレだけ宣言しているんでこの後どうなるか分かるかと(笑)
実は最後のエドの台詞、オフの方では「ロイ」にしたんですが、
折角だし(?)HPでは少し変えてみました。
こっちの方が合ってるかなぁ?
さてさて、ちょこっと言ってしまうと、次微妙な回想が入ります。