「まずい、寝坊した!」
鞄を小脇に抱えて、ネクタイを締めながらリビングに入ってきたのはロイ。
「俺何度も起こしたぜ?」
テーブルに並べられた朝食を頬張りながら呆れて呟くエド。
その言葉は聞こえているだろうが、とにかく急いでいる様子のロイはエドの向かいに座ってサラダを頬張る。
「今日早朝会議なんだろ?」
「そう、よりによってそんな日に、な」
摘まむ箸は何時もより早く動いているのを見て。
(…だったら食べなきゃいいのに…)
心の中で呆れ半分に俺は呟いた。
ロイは時間がなくても、朝食だけは何があっても必ず食べていく。
会議っていう重要なことが控えているんだからそっちを優先すればいいのにと思うが、社長の地位からか、多少遅れても問題はない、と以前言っていた。
けど、やっぱ待たせるのは良くないと思うし、社長だから融通を効かせるってのは問題あるだろう。
朝飯くらい、コンビニか、それこそ会社の食堂とかでも食べられるのに。
でも、こうして毎朝一緒に朝飯を食えるってのは。
(嬉しい、けどさ)
多分、寮に入ってたらこんな風な朝を毎日迎えるなんて出来なかった。
高校に入学して一週間、ふとそんなことを思う時がある。
別にこの選択を間違ってるとは思わないけど、それでも勉強は簡単だし、正直授業は詰まらないとは思う。
そんな時は、むこうの高校に入ってたら授業は楽しかっただろうな、って思ったりするけど。
でも朝は、やっぱり家族で居るのが一番だと思うから。
「じゃあ、行ってくる、」
「焦って事故んなよ?」
ふっ、と笑って端を持った手を上げる。
俺なりの見送りの挨拶。
「はは、君じゃあるまいし」
「俺は焦っても事故んねぇよ」
「どうだか」
「んだよ、時間ねェんだろ」
「君との貴重な朝の会話をしなければ私の一日は始まらないんでね」
「はぁ?」
嫌味を言う時間はあるってか。
変な話だ。
そんな視線を投げかけると、ロイはスーツに腕を通した後、ふっと柔らかく笑って。
「…学校は楽しいか?」
聞いてきた。
俺は予想もしてなかった問い掛けに、少し目を開いてしまった。
「…まぁ、それなりにね」
苦笑して言った言葉には、微妙なニュアンスを含んでいて。
楽しくないわけじゃない。
アルも居るし、色んな奴がいて退屈はしないし。
けどそれは休み時間の話であって。
(授業は正直言うと、暇、だけど…)
敢えてそれは口にはしなかった。
けど多分、ロイには伝わってるんだと思う。
「…そうか」
ほら、苦笑で返してきた。
「後悔は、」
「してねぇよ」
そこから繋がる言葉は予想の範疇で、俺は言い終わる前に即答した。
「やっぱ、朝はアンタと嫌味言い合わねェと始まんねェし?」
にっと笑って、箸を置いて。
「勉強か、アンタか…」
聞かれたら俺は迷わずアンタって答えるんだっつの。
「それ、忘れんなよ」
今度はロイが見開いた。
「…心得ておく」
「よし」
笑顔を交わして、落ち着いたのか。
「さて、そろそろ本当に間に合わなくなる」
「馬鹿、急げよ!」
声を張って送り出すものの、ロイは焦った様子を見せないままリビングを出て行った。
落ち着くにも程がある。
「ったく…」
ふぅ、と吐いた息には呆れ半分、照れ半分。
ああいう言葉は言った後に反動がくるのか、頬が少し熱を持っていた。
「っと、俺もそろそろ支度しねェと」
頬に手を当てて熱を冷ましつつ、呟いた。
トラブルメーカー 1
「アル、はよー」
「エドお早う」
アルと朝の挨拶を交わすのは教室。
たまに十字路で会うこともあるが、普段は家が逆方向だからほぼ教室で交わすのが日課だ。
教室で交わす場合、大抵アルが先に来ているので、俺から先に声をかけるのが殆どだったりする。
一先ず自分の席に鞄を置いた後、アルの前の席に座りながら。
「今日授業何だっけ?」
「えーと国語、英語、数学に…」
「数学以外は寝られるな」
ぽろっと漏らした言葉に、アルが呆れたため息を漏らす。
「また…入学早々目付けられたいの?」
「だってよ、」
「我慢も必要」
「俺に我慢は合わないっ」
「エドってば…」
ふん、と机に突っ伏すエドにまたか、と笑うアル。
こんな会話はアルにとって日常茶飯事で、慣れたもので。
「じゃ、帰りウチ寄る?」
「え?」
「実はようやく手に入ったんだー」
「手に入ったって、あの本!?」
「そう」
「マジ!?読みてェ!」
「今日の授業寝ないんだったらね」
「う、……わ、分かったよ」
「じゃ、貸してあげる」
「よっしゃ!」
扱いもこんなものである。
「楽しみだー!」
「そう?良かった」
嬉しそうに笑うエドを見ていると、こっちまで温かい気持ちになれる。
それはエドと初めて会った時から感じることだけど、これは成長しても変わらない。
そんな気持ちを噛み締めていると、無常にも担任が入ってきて、エドは席に戻ることを余儀なくされる。
「よし!頑張るか!」
意気込んで席に戻るエドを見ながら、アルは乗せられ易い体質にふっ、と笑った。
一限、国語。
二限、英語。
そして現在三限、世界史の真っ只中。
(つまんねー…ってーか眠い…)
苦手な教科は何一つないが、頭を使わないでただノートを取るだけの授業は退屈で眠気が誘われる。
始めのうちはノートも取るものの、結局最後は勝てなくて、毎回アルにノートを見せてもらうのが大抵で。
今回もまたそんな予兆が現れてきたとき。
ふと見た、隣の席の奴のノート。
(…ぇ…?)
開かれている教科書は世界史だが、ノートには数式がびっちり。
それは今数学で習っているものより難しいのは明らかで。
見える範囲で考えると、これは大学入試の問題に良く出るとされている公式の問題だった。
(何だ、こいつ…?)
そいつは一問解いたのか、シャーペンを置いてふぅ、と息をつくと。
「………つまんねェ」
確かにそう呟いたのが聞こえた。
いつの間にか、俺の眠気はどっかに飛んでいて。
(俺とアル以外にもこんな奴が…?)
何でそんな難しい数式が解けんの?とか。
数学好きなんだ?とか。
聞きたいことが沢山湧いてきて。
なるべく隣に気付かれないように伺いながら、三限が終わるのをそわそわ待った。
「…なぁ、」
思い切って話し掛けたら、そいつは怪訝な顔で俺を見た。
眼鏡をかけたそいつの顔は、黒髪黒目というのもあって、誰かを感じさせる。
「…何?」
性格は、全く違うようだが。
「あー、いや、さっきずっと数式書いてた、から…」
ちょっと、気になって。
無言の雰囲気に押されて、語尾が小さくなるのは自分でも分かった。
「…だから、何?」
無愛想。
第一印象は悪し。
「いや、何つーか…」
イコール話しかけ難い。
言葉を必死に選ばなければならない気がして、俺も面倒になってきた。
けど、好奇心には抗えない。
「……関係ない、お前には」
「そりゃあ、そうだけど、」
突き放されても引き下がれないし。
つーか、引き下がりたくない。
「どうでもいいことだったら、話したってアンタに利害もないわけだし」
「だからって、話す義理もない」
こいつ、絶対友達いねェ。
何となく、この言い回しとか、態度からそう思った。
そういえば、休み時間でも常に一人で本を読んでる印象しかない。
多分、こんなキッカケがなければとりあえず一年先、話すこともなかったと思う。
こんな奴の気を引くには。
「…その数式、高三でも解くのが難しいって言われてるのだろ」
自分も、それを知っていると分からせればいい。
「……知っているのか」
食いついてきた。
「まぁ…俺、数学好きだし」
解いたことがある、とは言わない。
敢えて控えめに出た方が、こういう時はいいんだ。
「…好きなだけで、こんな難しい問題分かるわけないと思うんだが」
「…あー…」
やべ、気を引くつもりが、行き過ぎて興味を持たせちまったかも。
けど結局はそこに行き着くわけだから。
「…解いたよ、俺も。…だから、分かる」
それでも控えめに、それでいてはっきりと答えれば。
何か、こいつはいきなり表情を変えて。
「へぇ、お前も頭いいんだ」
何か、楽しそうに言った。
「…一応、」
少し驚いて、首を竦めた。
でも相手は気にもしない様子で。
「なぁ、いつ解いたんだ?」
俺ついこの間まで悩んでたんだよ、と楽しそうに言う。
そんな奴には尚更言えない。
俺は中二で解いたなんて。
「あー…ま、まぁ俺もついこの間…かな、」
「そうか、偶然だな」
明らかに目を逸らして言ったんだけど。
(まぁ気付いてないならそれでいいかな…)
何より、楽しそうだし。
こういう奴って、趣味っつーか、そういうのが合うと人が変わるんだよな。
いつも楽しそうな顔してりゃ、皆も寄ってくんのに。
というのは大きなお節介だろうから口にはしないけど。
「高三レベルの問題が解けると、授業つまらないよな」
「そうだなぁ」
何か意外と話が盛り上がってる。
正直俺も、アル以外と勉強で話のレベルが合う奴はいなかったから、嬉しいし。
「そういえば名前、」
「あ、俺エドワード・エルリック。エドでいいよ」
「俺はロード。ロード・フォレスト」
そう言って、ロードは笑った。
(あ)
笑った顔も、似てると思った。
何でだろ、本当、重なる。
「よろしく」
そんなことを考えてたから、俺は気付かなかった。
ロードが、意味深な笑みを浮かべていたことを。
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05/05/21
一話で終わらないのは予想の範疇です(爆)
一体ロードは何なんでしょうかね(待)
性格とかよく自分でも決めてないんで行き当たりばったりの方向で(オイ)
名前…何かもうすいません、適当です(死)
あと数式とかの下りはスルーよろしくです…(切実)
とりあえずトラブルメーカーなんです、はい…。
ブラウザでお戻り下さい。