中尉と少尉にばれたのがつい二週間くらい前。
あの後直ぐに次の目的地へと旅立ったんだけど、そこでの調べ物が全部終わらないうちに、一体何処で調べたのか、大佐からの使いと言い張る奴が俺たちの居る宿へと押しかけてきて。
それも夜中に関わらず、緊急の用だとかで直ぐ一緒に東方司令部まで来てくれとか。
半ば無理矢理気味に連れてきた俺に差し出されたのは、一枚の紙だった。



君の街まで 8





「ったく、急過ぎんだよ…」
「解決は早いに越したことはない」


イーストシティの中心部から少し外れた、とある路地。
夜ということもあって既に人気はなく、車も此処についてから一台も見掛けない。
そこの道路のど真ん中で、俺たちは仁王立ちになっていた。











事の起こりは昨日。
夜中に兄弟はサウスシティの宿から連れ出され、車を数時間飛ばして東方司令部に着いたのは朝方、まだ日が昇っていない時間帯だった。
どうやら用があるのはエドだけらしく、アルはこちらでお休み下さい、と仕官に宿舎に連れて行かれてしまった。
だったら俺だけ連れてくれば良かったのに、と寝ていたところを起こされたこともあってエドは不機嫌な状態で司令部内をどかどかと歩いていたが、朝方にしては仕事をしている人が多くて、少し疑問を覚え。
大佐執務室の扉を開ければ、ロイとホークアイ、そしてハボックが深刻な面持ちで向き合っていて。


「あぁ、急に呼び出して済まなかったな」


エドに気付いたロイが少し表情を緩めて言ったが、その顔は直ぐにまた元の位置に戻った。
三人の中心に置かれた一枚の紙、三人はそれを囲んでいて。
その紙をひょいと覗いてエドも話に加わる。


「何それ」


ひょっとして、これが俺を呼び出した原因?
エドが問えば、ホークアイが顔を上げて。


「ええ、ごめんなさいね、貴方たちもやらなければならないことがあるのに…」
「いや、もう来ちまったからさ、今更だし」


と、正直な気持ちを出しながら苦笑するエド。
多少の理解を示してくれたとそれで悟ったのか。


「では説明しようか」


ロイは言って、中心にあった紙をエドに渡した。
そこに書かれていたのは、イーストシティの市民たちが何か問題があった時に司令部受付に提出する、ごく一般的な要求書というか、いわゆる抗議文である。
内容は某所の水道管を直して欲しいとのこと。


「別におかしなとこなんてねェけど」
「そう、別におかしいことはないんだがね」


要求には、と付け足した。
それが一体何を意味するのか。


「どういうことだよ?」
「最後まで読めば分かる」


言われて、エドは市民の話が細かに書かれている部分にも目を通した。
と、引っ掛かる箇所が。


「…これのことか?」
「そうだ」


エドが指差したのは、『泥水が噴水のように吹き出る』と書かれた部分だった。


「おかしいだろう?」
「そりゃあなぁ、」


確かに、水道管と要求書にでかでかと書かれてあるのに、何故泥水となっているのか。
下水道ならばそう表記するはず。
間違えたわけでもなさそうだが。


「だからって、こんな深刻になる程でもないんじゃ…」


そうだ、何でこんなに真剣に話し合ってんだ?


「そうなのよね、そうなんだけど…」


ほら、中尉もこう言ってるんだし。
他に何か思い当たる節があるのなら別だけど、と口には出さなかったが、タイミング良くホークアイが。


「ちょっと、別の事件と重なる部分があるのよね」


と、頬に手を添えて、ため息をつきながら言った。


「別の事件?」
「そ、誰かが作ったライオンと蛇だったかなぁ。そいつを軍で拘束してたんだけどよ、そのキメラが逃げちまってさ」
「その逃げた日付と、水道管の事件が起き始めた日と、一緒なの」
「しかもこの要求書に書かれた場所で、それらしい生き物を見たという噂もある」


ハボック、ホークアイ、ロイが順に話す。
大体、あらましは分かった。


「つまり、俺はそのキメラ捕獲を手伝えばいいってわけだ」
「確証はないがな」


ロイの言葉ははっきりとしていなかったが、エドの言い分に対して肯定はしていた。











というわけで、早速その日の夜から行動に移し、今に至る。
OKをしたものの、準備やら何やらで寝ていないのがやはり大きいのか、この場に来てから機嫌が少し悪くなってしまって、あんな台詞を吐いてしまったのだ。


「つか準備ったって、俺何もしてねェんだから寝かしてくれたって…」
「同時に作戦会議も兼ねていたんだ、お前が加わらなくてどうする」
「で、その結果がこれだろ」


その結果、というのは囮。
元々大佐たちの仕事もあるし、事件が起こるのは夜ということで、そういうことになったのだが。
大佐たちが仕事してる間、寝かせてくれりゃあそれで良かったのに、と心の中でぶつくさ言いつつ。


「いつも人気がないとこで事件が起こってんだろ?」


囮って、良い案じゃねェと思うんだけど。
はっきり言えば。


「人気がないところだけで事件が起こっているという確証もないんだ」
「けどさー、」
「これしか確かめる方法はないんだ、いい加減割り切ってくれ」


文句ばかり言っていては軍人なんぞ務まらんぞ。
それに一応上官命令ということになるんだがな。
とか、逆に嫌味を言われ始めたので、ここで責められてたまるかと、話を遮るように。


「あー、ところで中尉と少尉は?」
「上手く隠れてくれているだろ」


ホークアイとハボックは後方から援護と決めていた。
二人とも銃を持ってくれているので、先制されても即急に十分対応できる。
アルはといえば、気配を読まれないのは魅力的だが、鎧の音で結局相手に掴まれてしまうということで、残念ながら今回は留守番。
それに一応、隣に素早く対応できる人物がいるし。
とか考えていると。


「っうわ!?」
「な!」


急に何もなかった地面から、途端に水、というよりは泥水が噴き出してきた。
そう、素早く対応できるのだ。
びしょ濡れにならなければ。


「ったく、役立たずだなーアンタ!」
「仕方ないだろう!急に出てくると思うか!」


ロイとエドは泥水を全身にかぶり、服も髪も元の色とは違う淀んだ色になっていて。
何はともあれ、今まで水道管を壊していたのがキメラだと推測していたのだが、これでキメラとは無関係だと分かった。
キメラの気配すら感じられないし、服も濡れてどうしようもない状態で。


「…今日は引き上げるしかねーんじゃねェの」
「そうだな…」


と、双方意見が一致したので引き上げようとしたが。


「だが偶然とは思えない」
「…確かに、これは明らかに錬金術で分解された感じだしな」


エドは地面の破片を手に取って割れ目を見た。
明らかに分解された様子がある。
つまりこれは、錬金術師の仕業。


「てことは、まだ近くに…」


エドがそう言って顔を上げた瞬間。


「「っ!」」


もう一度地面から水が噴き出した。
目の前に急に広がった汚れた水が視界を遮るだけでなく、飛沫で目が開けられなくなる。
おそらく大佐も同じだろう。
今この状態で攻撃されたら、成す術がない。
だが絶対にこの機会を狙ってくる。


「っくそ!どうすれば…!」


その時、ガウン、という音が二つ、噴出する水に混じって響いた。
次に聞こえてきたのが。


「二人とも!後ろ!」


ハボックの声だった。
ロイとエドはそれに即反応して後ろを振り向き。
エドは両手を合わせ、ロイは胸ポケットからジッポを取り出し。
互いが得意とする錬成をして、姿が全く分からない錬金術師を、宙に舞わせた。








「無事ですか」
「ああ、泥水をかぶっただけだ」


ロイは額に張り付いた髪をかき上げながら、伸びている錬金術師に近寄った。


「ん?こいつは…」
「あ?知ってんの?」


赤いコートの端をぎゅっと絞りつつ聞くと。


「指名手配されている錬金術師だ」


人の嫌がることをするのが楽しいらしくてな、これまで何十件という迷惑行為を繰り返しては逃亡しているんだ。


「っはー、くっだらねェ…」


その下らない事件に徹夜で巻き込まれたかと思うと、本当にムカつく。


「少尉、軍の牢に突っ込んでおけ」
「了解」


言われてハボックは乗ってきていた車に犯人を乗せ、運転席に座りホークアイを待つ。
ロイとエドも一緒に乗って行ければいいのだが、この状態では車には乗れない。
ホークアイはそれを見越して残り、気遣って。


「どうしましょう、今から近くの宿でも…」


と提案したが、ロイから返ってきた答えは。


「いや、私の家がここから近いからな」


鋼のも家に来ればいい。
そうさらりと言われて、二人は目を見開いた。
その反応が意外だったのか。


「なんだ?問題でもあるのか?」
「あ、いえ…」


聞かれて、ホークアイは濁すしか出来なかった。
エド本人からハボックにもバレたとは聞いたが、ロイにバレたとは聞いていない。
このままその方が良いですね、と言えるものなら言っている。
エドが男ならいくらでも言えるのに、女の子となると色々問題があるわけで。
知らないとはいえ、一人の男の家に入って風呂を借りるとなればバレる確率は格段に高くなる。
バレないかもしれない。
だがバレるかもしれない。
何とも言えない状況と立場のホークアイに、エドは。


「大丈夫だから、」


と、小声で言った。
それは何の確証があってかは分からないが、今はその言葉を信じるしか出来ず。


「…では、私は一度司令部に戻り、この付近の整備にあたります」
「頼んだ。行くぞ、鋼の」
「あぁ、じゃあ」


先を歩き出したロイの後ろを、エドが踵を返してついて行く。
ホークアイに少し笑顔をかけるのを忘れずに。
それが逆に心配だったりするが引き止められず、見送ることしか出来なかった。


そして車の助手席に乗れば、ハボックが複雑な心境で話しかけてきて。


「…大丈夫っすかね…」
「心配だわ」


それにホークアイははっきりと不安を示し。


「でも、もう大佐が鋭くないことを祈るしかないわね…」


と、自分で言っておきながらも。
心の何処かで女好きのあの人が気付かないわけがないという確信があった。





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05/02/02
要らない前置き、すみません(爆)
こういうこともはっきりと書きたい性分なのですが今回も 玉 砕 (死)
ええ、さらっと流して下さい…山は次ですから…(説得力皆無)


ブラウザでお戻り下さい。