それは偶然か必然か。
ただ私は、その出会いに何かを感じ取ったことだけは間違いない。
君の街まで 1
「酷いな…」
「うん…、殆どの本が燃えちゃってる…」
エドとアルは、灰になりかけた本を手にとってそれぞれに口にした。
焼け落ちた図書館らしき場所。
部屋の半分が既に焼け落ちてしまって、屋根が半分なくなっている。
上から見ればぽっかりと穴が開いている状態だろう。
その穴が開いている部分にあったであろう本棚は、もう原型を留めていなかった。
「…予想はしてたけど、ここまで酷いなんてね…」
「…」
二人が直面している、これからの未来を変えるであろう出来事。
イシュヴァールの内乱。
正直平和だと思い込んでいたこのアメストリス国には、無縁なものだと思っていた。
だが裏を返せば、それは上辺だけの、薄っぺらいもので。
少しのきっかけもあれば、ここまで大きなものに発展するらしい。
仕方ないと思えばそこまで。
どうにかしようと思えば、思うほどに混乱する、難しい戦争。
俺はどちらかと言うと、仕方ないと思っていた方だった。
だが、今は直ぐにでも終わらぬものかと思っている。
時期が悪かったのだ。
イシュヴァールの民達は一神教で、その神の洗礼を受けたものしか認めようとしない。
他の神と、他の人間たちから離れるように生きる。
そんな種族であるが、他の種族との交わりがない訳ではない。
多少の交流もあり、観光などで訪れる人々には、それなりの対応もしてくれた。
しかし、ある日。
ある将校が一人のイシュヴァール人の少女を誤って殺してしまい。
それから何日もしないうちに、内乱が始まった。
それは数日でイシュヴァール全土を巻き込むようなものに発展して。
数え切れない程の軍人たちと、イシュヴァールの民達が戦いに身を投じ、死んでいく。
そんなことが7年も続いた。
きっと、長かったことだろう。
そこに直接関わりのなかった俺は、それ位にしか思わなかった。
だから内乱開始から7年と少し経ったある日。
戦況が少し落ち着いたと聞いて、俺とアルはイシュヴァールの地へと踏み込んだ。
勿論正面からの出入りはできないが、真っ向からの入り口がなくとも、錬金術さえ使えれば難しいことではない。
俺たちは他の錬金術師よりも、知識に技に、長けている方だ。
しかしそれがあだになってしまったのだろうか。
母さんが死んで、真っ先に思ったこと。
人体錬成。
禁じられているとは分かってはいた。
俺たちはただ純粋な願いのために、師匠の元で修行を積み、迷うことなく行ったが。
待っていたのは、絶望。
体全てを持っていかれた弟。
左足を持っていかれた俺。
隣にあった温もりが、消えて。
俺は残った体で、無我夢中に弟の魂を錬成した。
その際にまた、右腕を失った。
もうこんな思いは沢山だ。
そう思ったが、元の体には戻りたい。
弟を戻してやりたい。
その願望は捨てられず。
だが女である事は捨て。
機械鎧をつけた俺は、代価をなしに錬成が可能になるという、伝説の代物『賢者の石』に、考えが行き着いた。
その賢者の石の手掛かりを探す為なら。
そう思い、この地では錬金術とは言わないらしいが、古くから伝わる術として呼ばれているのを知り、踏み込んだのだが。
考えは甘かった。
イシュヴァールへ入って何日も経たぬうちに、内乱は直ぐにまた勢いを取り戻し。
しかも軍の勝利をもって内乱を終わらせるべく、最近新興されたという『国家錬金術師』が、最後の追い詰めにかかり始めたという。
より一層激しさを増した戦火。
今は外を歩くだけでもかなりの用心が必要だ。
何しろ国家錬金術師たちは、一人で軍人何十人分もの仕事をこなすと言うのだから。
「…此処も駄目だよ、兄さん…」
「あと、回っていないのは何処だ?」
地図を持つ弟に聞く。
「あとは…ここ、一箇所だけだよ」
と言っても、この辺り一帯の建物が崩れてしまっている今、地図など殆ど役になど立ちはしないのだが。
「…そこに、望みを託すしかないか…」
今は、それしかないからな。
そう言って、俺たちは崩れた図書館を後にした。
「…こんなに早く、国家資格を持つものとして前線に出されるとはね…」
男は両手にはめた、錬成陣の書かれた発火布と呼ばれる手袋を、きゅ、と付け直した。
錬金術で焔を操る要だ。
国家錬金術師は原則として、一人で行動する。
それは個人の能力があまりに違いすぎる為、互いに足を引っ張らないようにと、大総統が定めたこと。
それだけ、己の能力に絶対の自信がない限りは持てない資格だということだ。
正直、迷いがない訳ではない。
人を殺すことに躊躇いがない方がおかしい。
しかし上の命令には絶対服従。
これが軍事国家。
だがこんな階級で大人しくしているつもりなど、到底ない。
上を、頂点を目指す。
そして無駄に命を落としてしまった人たちの為にも。
この国を変える。
そう思い始めたのは、内乱が始まっての何時からかはもう覚えていないが。
大きくなることだけは、確かだ。
その為にも、戦争を終わらせる。
それが今、自分に出来ること。
命令ではなく、自分の意思で。
今、私は此処に立っている。
「……もう、居ないか…」
辺りを見回す限り、人影は見えなかった。
が。
「……、」
少し距離はあるが、後方に人の気配を感じた。
ぐっと、何時でも焔を出せるよう手に力を込めるが、その形のまま手は上げることなく止めて。
下手に動けばこちらが不利だ。
一先ず相手が近付いてくるところまで、様子を見る。
より鋭く、精神を研ぎ澄ました。
「…?」
「兄さん?」
「し、」
エドは何かを感じ取り、問いかけるアルの声を制止する。
「…誰か、いる…」
「…!」
アルは息を潜めた。
しかし相手が動く気配はない。
おそらくは一人だが、相当戦いに長けている人物。
十中八九軍人、しかも一人で居るところを考えると、国家錬金術師で間違いないだろう。
「…どう、する?」
「…アルは動くな」
俺が行く。
そう、目で合図した。
アルが動けば、鎧の稼働音が居場所を教えてしまうようなものだ。
だから俺は一人、ゆっくりと足を前へ進めた。
(――――来た、)
男はほんの少しだけ体を動かして、臨戦態勢に入る。
既に相手は自分の間合いの中にいる。
相手が戦闘に長けているかどうかは、慎重さで判断できる。
おそらく殆ど戦った経験はないだろうが、素人ではない。
それを確かめる方法は、あと少し。
相手が、攻撃を仕掛けに、後一歩近付いた瞬間が勝負だ。
(…さて、どうすっか…)
相手は背を向けているが、こちらには気付いていることは、右腕に込められた力が語っている。
動かないということは、こちらの出方を伺っているのか。
それにそこから考えると、多分相手の攻撃は広範囲まで届く程の技だろう。
俺も遠距離攻撃が出来ないわけではないが、接近戦の方が自分には有利だと思えば。
(相手が早いか、俺が早いか…)
などと錯誤しつつ、懐に飛び込む瞬間を狙う。
いつでも両手を合わせられるよう、両手に神経を注いで。
そして。
先に動いたのは、エド。
「―――っ!!」
「っ、」
一瞬の出来事だった。
エドが一歩を踏み込んで、飛んだ瞬間。
男は振り返り、右手を身構え。
余裕からか、殺す前に相手の顔を拝んでやろうと、顔を見た。
「―――っ、」
それが、まずかった。
小さな体。
綺麗な金髪。
珍しい、金の瞳。
晴れた青空に、それがよく映えて。
一瞬、見惚れてしまった。
見惚れてしまって、焔を出すタイミングを間違え。
相手に向かって出すはずだった火花を、地面に向けて打ってしまい。
「っっ!!!!」
周りや足元の瓦礫が崩れ。
金髪の子供を、空に放り上げてしまって。
煙と埃が視界を塞いだが、子供が飛んだ方向だけは目に覚えさせ。
視界が晴れた頃、私はその方向に向かって歩き出した。
(…何故、)
あんな子供が。
イシュヴァール人ではない子供が。
焔は外れた故、怪我は負っただろうが、死んではいない。
確かめたかったのだ。
目を疑った自分に、本当のことだと言い聞かせる為に。
そしてもう一度。
あの子を、見たかった。
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04/11/20
原作と違うところは、エドたちがイシュヴァールに居るってことだけです。
年齢は変わりません。出会い方だけ捏造。
そして一言しか出てないですが、エドは女の子です。
ブラウザでお戻り下さい。