ツナの視線は最近よくアイツを追っている。
視線の届く先にいない時も、ツナはアイツを想っている。


何で分かるかって?


馬鹿、全部表情に出てんだよ。
まぁ、気付くのは俺くらいだろうけどな。


お前のことに関して、知らねェことは何もねェんだよ。





inconscio







いつからだったか、それでも最近だった気がする。
綱吉の仕事のペースが、確実に落ちている。

日々の仕事、主に書類に目を通すことだが、ほぼ毎日同量になるようにリボーンが割り振っていた。
一日のノルマをこなさなければ、綱吉のその日の仕事は終わらない。
夜中になろうともノルマに達するまでリボーンは綱吉を解放しようとはしなかった。
綱吉がボンゴレ十代目としての自覚を持ち、こうした仕事を開始した当初はノルマを達成する時間は深夜にまで及んでいたが、最近ようやく夕方には終わらせられるまで慣れてきた。

仕事をしている間、リボーンは綱吉の傍に居た。
正確にはボスの執務室であるソファに足を組んで座っているだけだが、それでも綱吉にとってそれは圧力になり、仕事をしなければという使命感を駆り立てている。
綱吉が仕事をしている間、リボーンは殆ど言葉を発しない。
話しながら簡単に出来ることではないし、何よりボンゴレ全体に関わる書類ばかりだ、読み飛ばしや意味の取り違いがあっては困る。
会話をするのは、いまだイタリア語には慣れない綱吉が、明確に読み取れないことに関して教えを請う時だけだ。

それが毎日続いている。
だからこそ、リボーンには綱吉の微妙な変化も明確に捉えられた。

時々、今まで淀みなく動いていた手がふと止まる。
止まった時の表情は、とても仕事をしている時の清閑な表情ではなく。
誰かを、遠くで想っているような。


「…オイ」
「…え?」
「手ェ。止まってんぞ」
「え、あ、」


たき付けられ、曖昧な反応をして綱吉は再び手を動かし始めた。
無意識というのが一番性質が悪い。
手を止めるという自覚がないということは、その度に注意してやらなければいつまでも動こうとしないのだ。


(ったく、一体何でこうなっちまったのか…)


原因は分からないが、誰を想ってのことかは分かっている。
近くに居れば綱吉はアイツを見てばかりいる。
それでは仕事にならないと、綱吉の視界に入れないために外での任務をよく任せるようにしたが、任せたら任せたで、綱吉は無意識にこんな行動が出るようになった。
結局支障が出ることは否めないのだ。
綱吉が、アイツのことばかり考える限り。

と、途端屋敷の感覚が変わった。


「……ん?」
「…誰か帰ってきた?」


マフィアとして鍛えられた感覚は、広い屋敷全体に研ぎ澄ませられ、ボンゴレ以外の気配が入れば、直ぐに分かるようになっている。
綱吉もある程度鍛えたとはいえ、普段の状態では気配が変わったと感じ取るのがやっとだ。
尤も超死ぬ気モードになれば誰の気配かどうかも直ぐに分かるが。
リボーンはと言えば、当然この気配が誰のものかは瞬時に感じ分けられる。


「あー、この感じはアイツ、だな」
「えっ、」


正直、言いたくはなかった。
しかし言わなかったところで誰が帰ってきたのかと聞き返すだろうし、嘘を言ったところで違うと制される。
気配が変わったと感じ取るのがやっとの癖して、気配の曖昧な感覚の違いだけは分かるのだから変な話だ。


「そ、か。帰ってきたんだ」


ふんわりと柔らかい表情で綱吉は言った。
当然手は止まっている。
おそらく、このまま此処に拘束していても仕事にはならないだろう。
これでは今日のノルマ達成も遅くなる。


「行って来い。少し休憩だ」
「え…いいの?」
「休憩、だからな」


リボーンがそう言うと、ぱっと顔を明るくしてペンを投げ、ドアまでの短い距離をも走って部屋を出た。
残されたリボーンはただドアに視線を送る。
これ以上仕事に支障をきたすようじゃ困る。
だったら。














「いい加減自覚したらどうだ?」
「へ?」


自覚させるのも一つの手だと思い、満足した綱吉が戻ってくると、部屋に入ってきたばかりのドアの前で言ってやった。


「お前な、アイツを想うのは勝手だが、仕事に支障が出るのは許さねェぞ」
「何、言ってんの?」
「これで自覚がないってんだからどうかしてるぜ。あれだけ熱い視線送っといて」


おそらく、オレ以外の守護者たちも気付いている。
当然、アイツも。
アイツはツナが気付かないのを楽しんでんだ。
性質が悪いぜ、ツナが自分から何も言えねェことを知っててよ。
だが、アイツもそろそろツナの鈍感に痺れを切らす頃か。
アイツが動くとなると、更に面倒なことになるな。


「…リボーン?」


先手、打つか。
そう心中で決めると、リボーンは視線が同じ高さにある綱吉を見据え。


―――お前は、誰かを頼らなきゃ生きられねェよな」


お前は優し過ぎる。
だから誰かに手を染めてもらわなければ、ボスとして。


(生きて、いけねェんだよ――っ)







その言葉を発さない変わりに、リボーンは綱吉のネクタイを引っ張り。
顔を近付け。


「誰かを頼らなきゃ生きれねェなら、オレを頼れ」
「リ、ボ、」
「それで十分だろ」


オレ以外、必要ないだろ。


吃驚した綱吉の目が、リボーンを見る。


(オレは今、どんな顔をしている?)


おかしい。
こんなことを言うつもりはなかった。
オレはただ、滞りなく仕事をさせるために自覚、させようと。


(自覚しただろう、実際)


だが、言いたかったことが何処かで間違ったようだ。
オレを頼れ。
そんなことを言うつもりは。


(分からねェ)


自分が。
ツナのことは何でも、手に取るように分かるってのに。


「…リボーン?」


見るな。
くそ。







「…リボ、――


目、つむれ。














分からねェ。
この感情は、何だ?











07/06/15
悠兎子がネタになる妄想をくれたので、ちょっと話を作ってみました…!
ツナのことなら何でも分かるが、自分の事は分からないリボを目指しました。
あくまで目指しただけです…(爆)
あ、文章にはないですが、最後のくだりは…感じてください!(爆)
悠兎子、どーですか!

07/10/27
悠兎子から挿絵頂きました!!ありがとう…!!vv

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