「…おや」


広いフロアに、赤黒い血の海に浮かぶ屍。
その中心に自身は、修羅の道を抜けてきた生きる屍の名を持っていた。


「見られてしまいましたか」





sangue







骸の周りにある屍の数は決して少なくはなかった。
黒に身を包んだ伏せる男たちは皆、貴方の部下たちだ。
否、部下たちだった。


「…何、やってるの」


既に息絶えている男たちから流れ出た血は、赤くはない。
黒に近い、くすんだ赤。


「見て分かりませんか?」


それはもう二度と、体には還らない色。


「…殺したの、」
「勿論。もう動いてはいないでしょう?」


目を閉じて微笑する。
多分、自分は楽しんでいるように見えるだろう。
同時に、矛先に付いた血がぽたり、と雫を作り海に消えた。


「…っ、何で…っ!」
「貴方を侮辱したからです」


途端笑みが消える。
恐らく貴方は、この屍たちを心からとまではいかないが、信頼を寄せていただろう。
無論、屍たちもだ。
だがこの下衆たちは言ってはならないことを口にしたのだ。
冗談か否か、今となっては分からない。
しかし前者だとしても、自分は間違ったことなどしていないと言い切れる。


「そんな輩は、生かすに値しない」


冗談でも蔑む言葉を口にしたのならば、少なからずその意があるということ。
そういう者は、必ず反逆を起こす。


「不穏分子は早いうちに消しておかなければ…ね?」


ゆったりと驚愕の目を向ける貴方に微笑む。
自分は最善を尽くしただけ。
たとえ貴方に何を言われようと、間違ってはいないのだから。


「っそんな、だからって、ここまでやること――っ」


だが確信していたとはいえ、やはり。


「…あなたは、どこまでも甘いんですね」


昔から変わらない。
それはこの先ずっと、貴方の命を付け狙うというのに。


「内部が軋んでいるマフィアほど潰しやすいものはない。ならばその軋みを、誰かが直す必要が生じる」


甘い貴方に気付かれぬよう、誰かが。


「嵐の守護者では周知させるようなものですし、雨では甘過ぎる。雷と晴は論外、雲は…手加減と限度の見境が難しそうですから。…となると、適任は僕でしょう?」


しかし貴方はきっとこう言う。


「そんな問題じゃ!」


と。
だが事実は。


「そういう問題なんです」
「っ、」
「気付きませんか?これはわざと貴方に見せたのですよ?」


いい加減、危機感を持ってもらうために。
でも。


「…でも、貴方を簡単に死なせたりはしません」


再び深く微笑み、貴方に歩み寄る。


「む、く、」


顔に付いた少し乾いた血を右手の平で拭い、貴方の左頬にそれを滑らす。


「守りますよ。ずっと―――永遠に」


これは、血の契約。
輪廻を経ても、消して解かれることはない。


「今、これより。貴方は…」


滑らせた手に導かれるように己の左頬を近付け、付けた血を自らにも拭い付ける。
そして左手で頭を抱いて。
そのまま顔を貴方の首に埋めて。


(貴方の血は、僕のものとなる)
――っ!!」


噛み付いた。
皮膚が破れて、暖かい血が口に広がる。
甘いと感じたのは、気のせいではない。
自然と口角が上がる。
感情が昂り、ぴちゃ、とわざと音を出して煽った。


「やだ、やめ…っむくろ…っ」


そう。
もっと。
もっと僕を。


「…骸…っ」


僕を、感じて。
そうすれば貴方は。


(僕なしでは、いられなくなるのだから)











骸は雲雀に比べて、殺る時に笑う残酷さがあると思う。
雲雀は何処か真面目でも軽い感じがあるんじゃないかと。
結局どっちも楽しみそうだけど(笑)
雲雀で書いたらまた違う話になりそうですね。
そっちも書きたいです(・∀・)v
しかし唐突に浮かんだ話なので、何を書きたかったのか…(爆)


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