「ねぇ。鬼ごっこしようか」


ある日いきなり目の前に現れたヒバリさんが、唐突に言って。


「そうだな…今日一日、僕が君を追い掛ける。捕まったら君の負けだよ」


楽しそうに微笑った日。
それが全ての始まりだった。





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二限目終了のチャイムが鳴って二十分休みに入り、俺はダッシュで教室を出た。


(どうしてただ廊下を走るだけなのに、ビクビクしなきゃいけないんだよっ)


と心の中で愚痴るのが、最近の日課だ。
今日もその愚痴を行った直後、角を曲がり階段を上がろうと思ったら。


「っわ、」


誰かの体に顔をぶつけてしまった。
顔が体に当たるってことは俺より背が高い人か、とか思いつつ、打った鼻を押さえながら。


「すみませ…」


顔を上げて謝ろうとしたが、声が途中で止まってしまった。
代わりにぶつかった相手が、微笑って言った。


「見っけ」
「ひぃ!」


俺が悲鳴を上げた原因は、並盛中風紀委員長の見回り、という名の娯楽だ。

ヒバリさんが鬼ごっこをしようと一方的に吹っ掛けてきてから、もう一週間以上経った気がする。
この鬼ごっこは、その日一日のヒバリさんの暇潰しだと思っていたから、翌日再び現れた時には思わず何で、と叫んでしまった。
ヒバリさん曰く、一日だけだとは一言も言っていないってことだけど。


(でも普通、今日一日って言ったら一日だけだろっ)


仕方なく、というか断れないから頷くしか俺には出来なくて、結局その日から鬼ごっこが始まった訳だけど。
鬼ごっこってくらいだから、教室に居れば直ぐに捕まって終わるだろうと高をくくっていたら、簡単に捕まえるのは楽しくない、と睨まれた。
更に逃げないと噛み殺すと拍車を掛けられる上、周りからのヒバリさんに関わりたくないという非難の目が向けられる。
よって俺の休み時間はずっとヒバリさんとの、というか一方的な鬼ごっこの時間になってしまった。


「何?今日は二限目で終わり?」
「うぅ、」


見下すような視線を向けられると、思わず体を小さくせずにはいられない。
でも今日の鬼ごっこが今終わるなら、とビクビクしつつも安堵を求めてヒバリさんの次の言葉を待っていたのに。


「でも僕から君に触った訳じゃないからね。今のは無効」
「…え、」


発せされた言葉は、言葉も失ってしまう予想だにしない一言だった。


「…何?まさか終わった気で居た訳じゃないよね?」
「っ!」


びくりとオレの肩が揺れて、今ので絶対そう思っていたことに気付いたはずなのに。


「まさか、ね。そんなこと思わないよね?」


にっこり笑って、逃げろと言葉に出さずとも追い立ててくるんだ。
オレが首を横に振れないことを知っていて、言うんだ。


「…っ、」


此処暫くの言葉と態度の圧力に今耐え切れなくなったのか、無意識に目に涙が浮かんできて、咄嗟に顔を見られないように俯いた。
よりによって、今。
ヒバリさんの言うことに逆らわず、逃げなきゃならない今。


「ちょっと、早く逃げなよ」
「…っ、は、い、」


あ。
頷いた声がかすれた。


「……泣いてるの?」
「っいいえっ!」


声が思いっきり泣き声になってるのに、オレは意地を張って否定して、自分が今一番しなければならないことを実行しようと、ヒバリさんに背中を向けて走り出した。


(…っえ…)


が、走り出せなかった。
右手首を後ろ手に掴まれたからだ。


「…あぁ、捕まえちゃった」
「……ヒバリ、さん…?」


意外な行動に、オレは泣いていることを隠すのも忘れて、肩越しにヒバリさんを見た。
表情は、いつもと何も変わらない。
違うのは、手首を掴んでいること。
今までの鬼ごっこ終了の合図は、ヒバリさんがオレにタッチすること。
今まで、掴んだことなんてなかったのに。


―――何だろうね」
「…?」
「毎日構っても構い足りないんだ」


構うって、オレを?
てか、苛めるの間違いじゃないの。


「君は逃げてばかりだし」


それはヒバリさんが追いかけてくるから。
そもそも、そうさせてるのはヒバリさんじゃないか。
聞きたいのはオレの方だよ。
何でオレばっかり追いかけるの。
オレ、ばっかり。


(これじゃあ、まるで―――


「ねぇ」


(ヒバリさん、が)


「…この感情……何?」


その言葉に惹かれるように、無意識にヒバリさんに向き直った。
もしかして、この人。


―――僕のこと、好きなんですか?」


(って、何言ってんのオレ!!)


はっと口をつぐんだ所で、言った言葉が戻るわけでもない。
恐る恐る伺うと、目を見開いてるヒバリさんが居た。
こんなヒバリさん、初めて見た。
そりゃ流石に吃驚するだろう、いきなり告白まがいなことをされれば。


「す、すみませんっ!そんなわけないですよね!!」


でも全くそんな気がしないなら、オレはさっきの言葉を口にしたりしない。
だって、今までの行動を全部ひっくるめると、まるで。
まるで好意を示しているようで。


(気を惹きたくて、あんなことしたんじゃないの、かな)


好きな子を苛めたりする、子供のようなやり方だけど、そうじゃないならヒバリさんが一人に固執するなんて考えられないから。


「忘れてください、今の!」


でもきっと勘違いだよ。
ヒバリさんがオレのこと好きなわけ、ないし。
ああ、全く何やってんだろオレ。


「忘れて―――


何、やって―――んの。


――ヒバリ、さん」


苦しいん、ですけど。
何やってんの、ヒバリさん。
どうしてオレのこと、抱きしめてんの。


―――…全く、僕としたことが」
「…ぇ」
「君ごときに気付かされるなんて」


それはどこか嬉しそうで、呆れた声だったけど。
てか、気付くって、何。
それって自分の気持ち、に?
それってもしかして、オレが言ったから、とか。
じゃあ言わなきゃ気付かなかった、とか。
てことは、これってオレが墓穴掘ったわけ。
でもオレは別にそんな、ヒバリさんのことを特に意識したことなんてないけど、いやでも全くないと言われたら違うかもだけど、そもそもヒバリさんが先なんだろ、これって。
いや、でも。
だけど。


(ああもう何が何だか!)


頭がこんがらがって来て、顔に熱が集まり始める。
今更ながら、抱きしめられてるという事実に恥ずかしくなった。


――ところで君は僕のものになったんだよね?」
「へ?」


何か変なことを言いながら、ヒバリさんが体を少し離して、オレを覗き込んできた。
手は腰に回されてるから、相変わらず拘束は解いてくれないけど。


「…どうしてそうなるんですか?」
「だって僕に捕まったじゃない」


何ですかそのルール。
いつ鬼ごっこにそんなルールが出来たんですか。
と、聞きたいけど聞くのを躊躇った。
確かにヒバリさんは今までオレに触るだけだったけど。
まさか、捕まえたら自分のものになるって思い込んでて、それを最後の楽しみにとっておいてたとか。


「鬼ごっこって、鬼に捕まったら何でも言うこと聞くんでしょ?」


言うんですね、そうなんですね。


「そうだな、どうしようかなぁ」
「ぅ、」


ああ何か凄い嫌な予感がする。
今までにないくらいの嫌な予感が。


「じゃあ、僕に告白して」
「はいっ!?」


そんな台詞、誰が予想出来るだろうか。
よりによって、オレがヒバリさんにって。


(何の拷問ですかっ!!)


好きになったのってヒバリさんが先なんじゃないの。
なのに何でオレが。


(…って、え。先、って)


オレ、何でそんなこと。


「早く」
「え、えぇ…!?」


もう、オレも訳が分かんないよ。


「全身全霊込めて、ね」


とにかく、言わなきゃ。
ヒバリさんの機嫌を損ねないように。


―――好き、です」


言った、言ったよ。
もういいですよね、これでいいですよね。


「……」
「……えと、」
「……」
「……ヒバリ、さん?」
「それだけ?」
「えっ、だ、ダメですか?」


ダメなんですか。


「僕の話、聞いてた?」
「ぅ、あ、はい、」
「君の全身全霊ってその程度?」


ダメみたいですね。


「うぅぅ…、」


てか、全身全霊って、何。


「え、と」


オレの全てを捧げろとでも言うんですか。


「ええと、えと、」


オレ、捧げればいいの。


(うああ、ヒバリさんが睨んでるっ!)


早く、早く何か言わないと。


「〜〜っオレ、を、全部、あげますっ!」


え。
あれ、ヒバリさんが目見開いて固まったんですけど。
つか、オレ。


(っ何言ってんの、オレ!!)


「いや!今、今のはっ、なかったことに!なかった方向でお願いし、ま―――


言い切る前に腰をぐっと引かれたと思ったら、ヒバリさんの顔が間近に来た。
と思ったら。


「…っ!」


何か、くち、くっついてるんですけど。
あ、手でくち、開けさせられた。
って、う、わ。


「ん、っ…」


舌、が。
舌入ってきた。
上あごとか、歯とか、すご、舐められてる。
オレの舌とも、凄い絡まるし。
う、オレ、どうすればいいの。
舌、どうすれば。


「っ、…んぅ、っ」


息、出来ない。
こういうときってどうやって、息するの。
苦しい。
けどなんか。
力が、抜けてく。


「っふ、あ、ぁ…」


あ、くち離してくれた。
やっと普通に息、できる。
てか、くちの端から唾液が零れてるし。
拭かなきゃ、って思って手を持っていこうとしたら、それより先に。


「ぇ…っ!」


ヒバリさんに、舐め取られた。
しかもそのまま舌がくちまで上がってって、またくちを塞がれた。


「んっ、ん、」


どうしよ。
オレ、も、ダメだよ。
立って、らんない。


「……っはぁ、は、……」


それを見越したように、ヒバリさんがくちを離した。


「…っな、な、ん、なんっ」


ああ、舌の感覚がおかしくて上手く喋れない。
それが妙に恥ずかしいし。


「何で、って」


ヒバリさんはオレが何を言いたいのか分かってくれたらしく。


「くれたんだから、もらっただけだよ」


そう、答えてくれたけど。
でもそれ。


(訳わかんないですっ!!)








07/05/07
自分の頭の中が訳わかんないです…(爆)
え、一応これ、雲雀ハピバ話なんですけど…(吃驚)
ちょっと普段書かないような感じで書いたからかな、何かよくわかんない…(死)
でも一度やってみたかったんだ、口語調の話…!
何はともあれ…雲雀、おめでとうございます!!
ハピバ話なんて過去書いた覚えがないんだけどww←

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