ああ、こんな気持ちは初めてだ。





sigillo







「あ、」


応接室を出ると、小動物と鉢合わせた。
失礼なことに、僕を見るなりびくりと体を震わせて、怯えた態度を取った。


「あ、あの、えっと」


抱えていた鞄に縋るようにぎゅっと抱き込んで、僕を伺っている。
腰が引けている上、片足を後ろに下げているところを見ると、後ずさろうとでもしているのか。


「し、失礼しましたっ!」


言いながら体を引こうとした。
やっぱりね。
そう思いながら僕は、鞄を抱いた腕の片方に右手を伸ばした。


「っ!?」


左手首を掴まれて、この小動物の体ががくんと揺れる。
それでも体重は後ろに掛けているから、離したらきっと転ぶだろうね。


「な、な…何か…?」


そしたらその怯えた顔はどんな風に歪むかな。
そんな様を見ても良かったけど。


「ねぇ」
「っはいっ!?」


掴んだ手首を引っ張って、頭一つ分も小さい身長の顔に視線を落として。
その表情に問うた。


「何で」
「は、はい?」
「何で、目」


僕を怖がっているのは明らかなのに。
そんなに怯えてるのに。


「目、逸らさないの」


不思議な小動物。
怖いなら視線を外したらいい。
怯えるなら俯いたらいい。


「ねぇ、何で」


なのに君は、真っ直ぐ僕を見るんだね。


「ヒバリ、さん?」


ほら、困った顔をしても視線を合わせている。
君は一体何なの。


(…ああ、イラつく)


けど、この苛立ち。


(…嫌いじゃ、ないね)


口の端を上げて、微笑う。


「あ、あの、オレ、」


うろたえる小動物の、ふと目に入った首筋。
ふと湧き上がる衝動。


――無防備」
「へ……えっ!?」


少し屈んで、向かって右の首筋に口を持っていく。
自然と開く口は、まるでこの時を待ち侘びていたように。
嬉しそうに、歪んだ。


――っ!!」


声にならない悲鳴が、噛み付いた口を通して響いてきた。
同時に、口の中に鉄の味が広がった。


「…っひ、ばり、さ…」


それを合図にして、名残惜しく顔を上げる。
口元に付いた液体を親指の腹で拭うと、赤い色が見えた。
同じ色が、小動物の首筋にもある。
満足は、しない。
でも、少なからず満たされはした。


(……所有印)


その色と、響きに。


――その跡が消えそうになったら、また付けてあげるから」
「え…?」


そう、君はずっとそのしるしを纏っているんだ。
それが僕のものである証だから。


「沢田綱吉が僕のものになったという、証をね」








だから。
噛み殺してあげるよ。
ゆっくりと、時間をかけて。








06/11/24
初の復活話はヒバツナか…!(笑)
ヒバツナでもいいから!と素ちゃんに煽られたので勢いでこんなものが…。
なので素ちゃん、責任をとって貰って下さい(笑)
でもお粗末…!(死)
あ、タイトルはイタリア語ですちゃんと(笑)
「印」って意味☆

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