ごめんなさい。
その言葉を口にすることは、出来なかった。

だってもう。
それを口にしようとしていたことすら。

覚えていないのだから。








oblio ―忘却―










「嫌だ…っ!」
「大丈夫ですよ。痛みはありません」


骸はオレの両手首を頭の上で重ねさせ、片手できつく拘束しながら緩やかに微笑し、言った。
表情と言葉の柔らかさと、手首に感じる痛みの矛盾。


「ゆっくりと…貴方に侵食していくだけです」


それがオレに、恐怖を植え付けていく。


「僕なしでは――――


嫌だ。
言うな。
その言葉は――――























「勝手に君の守護者にされるなんて。思い上がりも甚だしいね」


ヒバリさんが溜息と呆れ混じりに吐いた。


「すみ、ません…」


オレが決めたわけではないけど、謝らないわけにはいかないし、謝るのはオレしかいない。
少し俯いて、謝罪の言葉を述べると。


「けど」
「っ、」


オレの顎を軽く掴んで。


「これで君に容易に浸け込めるわけだ」


少し、どこか楽しそうな含みを混ぜて。


「覚悟しなよ。僕なしじゃ、いられなくしてあげる」


妖艶に、微笑んだんだ。























その言葉は、ヒバリさん、が。


「僕なしでは、いられなくしてあげますよ」


やめろ。
同じことを言うな。
ヒバリさんの、声が。


「…っヒバリ、さ…っ」


消えていく。


「無駄な足掻きを…」


骸が呆れて笑うほど、オレの体は上手く動かなかった。
そういえば捕まった時に何か飲まされた。
後悔しても、遅いけど。
でも思わずにはいられなかった。
どうしてオレは骸の手を取ったのか。
ヒバリさんから、離れたのか。


「直ぐに、思い出せなくなるというのに」


そうすれば、こんなことには。


「…いや、だ…ぁ…っ」


足を開かされ、後ろに不思議な感触を感じた。
それが不快なものなのかは、正直分からない。
でも、これを受け入れたら。
オレ、は。


「いやだぁっ―――!!」























―――くっ、」


雲雀の周りを、絶えず黒い男たちが囲んでいる。
それが骸の差し向けたもので、幻影だとは分かってはいても、倒さなければ先へ進めぬ状況だった。
幻影は倒しても再び形作られ、キリがなかった。
一体どのくらい、この場から動けずにいるのか。
焦りが疲れを呼び、息が乱れる。


「……し…、」


傍から離れたりしなければ、こんなことにはならなかった。
これは僕の失態だ。
自分の失態は、自分で拭わなければならない。

早く、行かなければ。
あの子の所に行かなければ。

待っているというのに。
僕を。


「…っ綱吉…!」


そう、小さく切に呟いた名は。

届くことは。
なかった。























「さぁ…綱吉」


ヒバリさんヒバリさん。
ヒバリ、さ。


「貴方に、」


永遠の、忘却を。


―――Arrivederci, Vongole」





―――むく、ろ。























そして。


「Buon giorno, 綱吉」


オレは自ら骸の首に腕を回した。
口付けを感受するために。

ふと。
頬が濡れていることに気付いた。
泣いていたらしい。

でもそれはどうしてだったのかはもう。

分からなかった。

















07/04/01
一応、ツナが骸に捕まって雲雀が助けに行くという、ヒバツナ←ムクな話。
描写が微妙なので補足すると、骸は綱吉と繋がることで、記憶を消そうとしてるという…。
何か久し振りに報われない話を書いた…(苦笑)
分かり難くてすみません…皆さんの妄想…想像力にまかせます…!(爆)

ブラウザでお戻り下さい。