基本的に雲雀は、夢を見ない。
1日の睡眠時間が4時間という中で、効率良く疲れを取るために、深い睡眠しか摂らないからだ。

夢は浅い眠りでしか見ない。
それは科学的にも証明されている。
だから。


「こんばんは」


見渡す限り桜満開の桃源郷のようなこの地での、六道骸との逢瀬はおそらく。
非科学的なものなのだろう。





countdoun







奴の姿を最後に見たのはいつだっただろうか。
特に意識もしていないから覚えてはいないが、1年は経っていないだろう。
元々懐かしくもないし、懐かしむ必要もない。
そもそも互いにこうして面と向かって話すこと自体、今まで皆無だった。
つまりそれだけ相反する存在だと、奴も思っているだろう。
だからこそ不可解だ。


「…わざわざ僕の深い眠りに侵入してくるなんて、どういうつもり」


この、逢瀬は。


―――…少し、話さなければならないと思いましてね」


表情を変えずとも、雲雀の苛立ちは伝わってくる。
そんな気配にも、骸も表情を変えずに答えた。


「話すことなんてないよ、僕はね」
「そうでしょうね」


矛盾した返事に、雲雀は顔を歪めた。
ならば何故、わざわざ夢の中に入ってくる必要がある。
それだったら、覚醒している時に真っ向から面会を求められた方がマシだ。
眠りを妨げられるということが、雲雀の中で罪が重いことを骸は知らない。
知らないからこそ平気に入り込んで来たのだろうが、雲雀にとっては不愉快極まりない。
そのことを口にしようと、口を開きかけた時。


「そんなことを思わずに、聞いて下さい」
―――…お前…」


言葉にしていない言葉に、明らかに答えられた。
驚いた表情を向ければ、奴はふっ、と顔を緩ませた。


「貴方と会話をしようと思って来たわけじゃありませんから」
「……僕は、黙っていてもいいと?」
「ええ」


何故心の声が聞こえるのかと問う前に、さらりと別な言葉を返され、結局問う機会を失った。
まあ、いい。
どうせ夢の中でこうして逢うこと自体、非科学的なんだ。
その非科学的な場で、今更何が起ころうと不思議じゃない。
尤も、問うたところで軽くかわされるのは目に見えていた。


――…僕は、近々ミルフィオーレに接触します」


この逢瀬での話を、どこか急いているように感じだからだ。


「…それを僕が聞いて、どうしろと?」
「どうもしません」
「ふざけてるの?」


さっきから何だっていうんだ、と雲雀は前髪を掻いた。
一方的に話されるのも真意が分からないのも苛々するだけだ。
自分の頭の中をお前に掻き回されるのは気持ち悪い。


(僕の頭の中は、今――


「今――あの子のことだけを、考えたいと?」
「…っ」


また、だ。
また読んだな。
虫唾が走る。
自分はお前のことなんて分かりもしないし、分かりたくもないのに。


「…一つだけ、貴方に聞きたいことがあったのですが――その必要もなかったようです」
「何、だって」
「貴方と同じですよ」


僕も、あの人のことで頭がいっぱいだということです。


「…何それ、」


答えになってない、と雲雀に怪訝な表情を向けられた骸は、緩やかに微笑うと。


「僕はあの人のために動きますが、貴方は?と聞こうと思っていた。だが答えは聞く必要もないくらい、分かり易かった。それだけのことです」
「お前…」
「ここまで言って分からない貴方じゃないでしょう?」


今度は意味深さを含んで、にんまりと微笑う。


「今、ボンゴレは窮地に追い込まれようとしている。いや、もう窮地と呼ぶべきでしょう」


(10代目の"死"をキッカケに、ね)


それは雲雀も知っていた。
自分自身、守護者という銘を与えられてはいるが、正直ボンゴレ自体には興味がなかった。
だが、今は持たされざるを得ない。
"死"んでしまったのだ。


(あの子、が)


だから今は自分の為と。
あの子のためにしか、動かないと決めたのだ。


「……ボンゴレもミルフィオーレも、動き始めるまでまだ時間がある。その間に、出来る限りの手は打っておかなければならない」
「だからお前は、わざわざ僕の夢に?」


夢にまで入り込んできたのは、雲雀に拍車をかけるためだったということだ。


「現実で会ったところで、貴方は僕の話を聞こうとはしないですからね」
「…」


こんなことは言いたくないが、お前らしいと言うしかない。
大体、本音は会うに会えないから、だろうに。


(守護者はまだ、集まれない)


まだ集まるキッカケが揃っていない。
そしてそのキッカケは、守護者自信も分からない。
だが確かに言えることは。


―――既に、歯車は回り始めた」
「もう僕たちに、留まることは許されない。動かなければならない」


回り始めた破滅への歯車を、止める為に。


「お前と手を組むことは絶対にないし、手を貸すこともないだろうね」
「ええ、そうでしょうね」


止める為にやるべきことと求める結果は互いに同じ。
ただその経過においては、互いに交わることも近付くこともない。
これが自分とお前との距離であり、領域。
この距離が近付くことも、遠くなることもない。
互いにこの距離を保ち続ける。


(あの子が)
(ボンゴレが)


そう、望む限り。

















―――あぁ、もう時間だ…」


もう直ぐ朝が来る。
残された道へのカウントダウンは始まっている。
今はただ、ただ進むだけ。


「行きましょう、か」


骸は雲雀に背を向けて歩き出す。


「…あぁ、」


雲雀もまた、小さく吐いて骸に背を向ける。





さあ行こう。
非科学の時間は終わりだ。





闇しか見えない先に在るであろう、各々の光に向かって。
これからは自分の足で。
進むだけ。

















2008/06/15
あああ酷く間が空いてしまいましたが漸く完成ですorz
半端に書いておいて、暫く間を空けて続きを書いたので、切れ目が分かるかもですが(死ねる)
ツナが居ないでの2人ってのを書きたかったんだ…。
しかし文章、下手になってる気がすr(涙)


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