お前のためなら何でも出来るんじゃねぇかな。
いやホント、冗談じゃなくて。
本気で、さ。
そんな感情を、初めて知った。
monopolio
それは突然目の前にきた。
「お、ツ
――」
進行方向から歩いてくる綱吉をディーノが呼ぼうとした時、綱吉を突然数人の男が取り囲んだ。
すると直ぐに綱吉を引っ張って、横の路地に連れ込んで行った。
「な、金持ってねェ?」
「俺たちさぁ、今ちょーピンチでさぁ」
「ちょっとで良いわけ。な?」
後を付けて、奴らからは見えない位置の広い道路側の壁に体を預け、会話を聞く。
綱吉の声はと更に耳を澄ますと。
「いや、あの、俺、そんな今日お金、持ってなくて、」
怯えた小さな声が聞こえた。
途端男たちは態度を翻す。
「はぁ?何馬鹿言ってんだよ」
「それは何?出せないってこと?」
「……、」
綱吉の返事は聞こえなかったが、それはおそらく肯定を示しており、男たちもそう受け取ったらしく。
「ふざけん、なっ!」
ガッ、と鈍い音が響き、一人の体が地面に落ちた音がした。
手を出さなかったのなら、此処で待ち伏せて一声掛けるだけで済まそうと思ったのだが、手を出したとなると、飛び出さずにはいられない。
「っツナ!」
「!?んだ、テメェ」
「…!ディーノ、さ、」
甘かった。
こいつらが切れやすく、こんなに早く手を出すとは。
手を出す前に、止めに入れなかった。
「…ツナ…」
口元に血が滲んでいる。
俺の、所為だ。
こうなるかもしれないことは予想していたのに。
「…な、何だよ…」
自身の不甲斐なさに苛立ち、それを表情に出して敵意を含め男たちを一瞥すると、びくりと肩を震わせ、身を竦めた。
「お前ら…」
一歩踏み出し再び見据えると、男たちも一歩下がる。
本能的にディーノの敵意を感じての行動だろう。
だが逃がしはしないと、更に一歩進めたとき。
「っディーノさん!」
ディーノを止めるかのように間に入った綱吉の一声をきっかけに、男たちは一斉に路地の奥へと走り去って行った。
追いかけるつもりは毛頭なく、男たちの後姿を見ることもなく、ディーノは綱吉の傍に膝を付いた。
「大丈夫か?」
「はい、すみません…」
苦笑して傷が痛んだのか、少し苦痛の表情を出した。
頬に優しく触れると、熱を持っていた。
「あはは…明日、大変な顔になりそうですね、これ」
「ツナ…」
それでも笑う綱吉に、やはり何かしらの制裁をしておけば良かったと内心毒づいた。
それを表情に出したつもりはなく、悟ったのか。
「…俺が、悪いんですから」
「けど、」
「最近は獄寺君や山本と帰ってたから、こういうのなかったんですけど…ほら、前はよくあったことだから、」
笑顔を向けられるが、今は傷もあってかより痛々しく感じる。
「…でも…やっぱり…情けないですね」
しかしふと見せた、辛そうな表情。
綱吉自身、悔しいと思っているんだろう。
弱くとも、そんな心は持っている。
それはディーノにも覚えのある感情だった。
今はもう、懐かしく感じてしまうが。
だが、何処かが違う。
昔の自分を思い出すだけじゃなく、まだ何かがあるような。
(これは…何だ…?)
この感情は何だ。
綱吉の感情は分かる、とても悔しいんだろう。
だがそれ以上に。
「…ツナ」
嫌悪感、が。
それは、何に対して。
「…ディーノさん?」
再び熱を持った頬に触れ、知る。
殴ったからだ。
誰かも分からない奴らが、綱吉を。
触れたからだ。
誰かも分からない奴らが、綱吉に。
(…オレの、に)
何だ。
この感情。
突然湧き上がって、全身を支配した、この感情は。
翌日、ディーノは昨日と同じ道に居た。
あることを確かめる為に。
「ったく、昨日は不発だったよなぁ」
「どーするよ?今日もいっとくか?」
「あー…っと、」
男たちの足が止まる。
ディーノが進行方向に立ち塞がったからだ。
「よう」
「こいつ、昨日の…」
「何だよ、」
「昨日お前らが遊んだ奴なぁ、オレの知り合いなんだ」
ディーノは軽い表情で、相手も分かっているだろうことを敢えて伝え、警戒心を緩めさせる。
「あぁ?」
「あいつは優しいからな、こんなこと望んじゃいねェんだろうけど…俺が治まらねぇから仕方ねェよな?」
そして不敵な笑みを浮かべ、気を一転させる。
「殺っちまったら…ごめんな?」
それは男たちに謝ったのではない。
この行為を捧げる相手に、謝ったのだ。
突然湧き上がって全身を支配した感情。
そうか、これは。
独占欲か。
「ツナ」
名を呼びならが、窓枠に手を掛けて室内に入ろうとする。
綱吉は振り向くと、吃驚した表情を向け、駆け寄ってきた。
「…え、ディーノさん!?帰ったんじゃなかったんですか?ていうか窓から…」
「玄関閉まってたからな」
時刻はもう直ぐ日付を越える。
帰ったと思うのも無理ないだろう。
(…あれ…ディーノさん、部下が居ないのに…怪我、してない…?)
窓から入ってくるなんて、絶対一回は落ちそうな気がするのに。
綱吉がそんなことを思いながら、ディーノを迎え入れると。
「すみません、もう帰ったのかと思っ…
―――ディノ、さん?」
ディーノが体重をかけたので、綱吉は尻を付く形になった。
(…オレのだ)
どさくさに紛れたように綱吉の方に顔を埋め、ディーノの腕が綱吉を抱く。
「悪い。少し疲れちまった」
これはオレのだ。
「何か、あったんですか?」
綱吉が控えめにディーノの背中に手を回す。
布を通して、緩やかな温もりを感じる。
心地いい。
「んー、ちょっとな」
オレ以外の奴が簡単に触ることは許さねェ。
この手も、体も何もかも。
「でも、ツナは何も気にしなくていいからさ?」
顔を上げて間近で綱吉の顔を覗きこみ、腫れた頬に手を滑らせ。
顔を近付け。
「ディーノ、さ、」
お前を構成するもの全部。
「ホント、何も」
オレのモノ。
そう心の中で呟き、口角を上げて。
唇を寄せた。
07/02/26
ツナのためなら部下がいなくても本気出してほしいなぁという願望を込めた話。
本気を出した部分は見事に割愛してしまいましたけど(爆)
普段のディノがディノなだけ、独占欲が出たときの黒さが凄い好きだ!(妄想)
基本タイトルはいつもイタリア語なので今回も。
「独占」ということで。
ブラウザでお戻りください。