もう、いつからかなんて覚えてない。
それは多分、初めて君の存在を知ったときから。





「そろそろ…かな」


扉がノックする音が室内に響き、軽く返事をすると、ドアノブを回す音がして扉が開いた。
中に入ってきた者は。


―――やあ、いらっしゃい」


ずっと、手に入れたいと願っていたモノ。
それが今日、手に入る。


(ボクの、手に)


そう思うと、笑みを浮かべずにはいられなかった。





Phormium tenax







「来てくれてアリガトウ」


白蘭はにっこりと笑みを向けて礼を言うが、綱吉はそれには応じず部屋を見回している。
その気を惹きたくて、白蘭は続けた。


「来てくれたってことは、贈った花…届いたみたいだね」
「……アレ、花だったのか…」


綱吉が反応して言葉を返しながら、視線を白蘭に向ける。
部屋に入って、初めて視線を交わした。
それは怪訝なものだったが、無性に喜びを感じた。


「一応花なんじゃないかな?誕生花としてあるくらいだし」
「誕生花?」
「そう、君の誕生花だよ。ニューサイランて言うんだ。気に入ってくれた?」
「気に入るも何も…」


大量の草みたいなのをどう気に入れって言うんだ、と口を濁した。
互いの間に距離はあるものの、他愛ない会話で綱吉の緊張は少しだけだが解れたようだ。
尤も警戒心は入室した時から変わっていないが。


「でも…まさか、談合に応じてくれるなんて思ってなかったよ」


自分の言葉で部屋の空気が変わった。
綱吉の纏っていた雰囲気が変わったのだ。


「お前は…あれだけの被害を出しておいて、それを言うの?」


鋭い感情がひしひしと伝わる。
殺気、と呼ぶのが一番しっくりくる表現だろう。
しかし白蘭は表情も態度も変えず。


「でも、君は来た」
「…」
「素直だね〜、流石誕生花、花言葉もぴったり。ニューサイランの花言葉は『素直』っていうんだよ」


だがそれも一興、と白蘭は思う。
事実当てられる感情が心地良い。


「ふふ、ボクは初めから談合という言葉を出していたよね?応じて来たのは、君」


それが殺気、怒り、どんな負の感情でも。


「……現時点の互いの被害は五分五分。これ以上犠牲を出さずに済むなら、と思ったから来た」


綱吉は視線を逸らし、そのまま室内を軽く見渡す。


「けど、椅子の一つも用意していない。これはどういうこと?」


入った時から感じていた、室内の開放感。
それは存在感を放つ机や椅子が置かれていなかったからだ。
置かれているのは、四つ角に観葉植物があるだけ。
しかしよく見れば、それは綱吉に贈られたものと同じもので、何故かは分からないが少し気味が悪かった。


「だって、椅子に座っちゃうと長々と話し込んじゃうでしょ?君はそれを望んじゃいないだろうし」


そう感じたのはそこにだけじゃない。


「…確かに、一理あるけど…」
「大丈夫、宣言通り互いがここに居る間は攻撃は一切しない。話が長くても短くてもそれを破るつもりはないから」


相手の、白蘭の表情。
顔を合わせてから、笑みを浮かべてばかりだった。
警戒を解くな、もっと気を張れ。
自分自身が常にそんな警報を鳴らしている。
これは早く、本題に入らなければ。


「だから…焦らなくてイイよ?」
「っ、」


考えていたことを当てた、とは考えられないが、言われた言葉のタイミングが悪かった所為で、綱吉の体は少し反応してしまった。


「君が一番聞きたいことは、もとから話してあげるつもりだったし」


笑顔には嘘臭さが滲み出ているが、言葉に嘘は感じられなかった。
言葉の端々に何か嫌な含みがある気がするものの、実際今まで嘘を吐いていない。
だったら、聞かせてもらう。
きかせてもらわなければならない。


「…何故、ボンゴレに抗争を挑んだ?」
「ふふ、やっぱり気になるのはそこ、か」
「話して、くれるんだろ」


念を押すと、白蘭は一度目を伏せて、直ぐに綱吉を見た。
その視線は、何処か先ほどとは違う。


「……正直、ボンゴレファミリー自体はどうでも良いんだ」
「な…?」


返ってきたのは、驚愕の答え。
これが真実だとすると、だったら白蘭は一体何の為に。


「じゃあ、一体何の為にボンゴレを!」


そして綱吉は気付いた。
狙うような、目つきに。
それは。


「欲しいのは、芯の部分」
「芯…?」
「そう、ボンゴレファミリーが成り立っている、コアの部分―――それが、君」


自分に、向けられていると。


「オレ…?」
「ボクは君が欲しいんだよ、ツナヨシ」


視線の意味を知ると、これ以上ない警報と共に悪寒が走った。


「…っ!」
「大変だったよ?君が自らボクのところに来てくれるように仕向けるの」


しかし重要な警報は湧き上がった怒りに消されてしまった。


「…っお前、まさか…っ!?」
「うん。ファミリーと君に関わった奴らを消しにかかったのは、そのため。じゃないと戦いを好まない君は僕のところに来てくれないじゃない?」


この戦いに関わって命を絶たれた人達。
全部、白蘭個人の欲望の所為。


「…っ、なんて、ことを…っ!」


いや違う。
全部、自分の。


「あぁ、イイねその顔。怒りと悲しみが混じったそういうカオ、大好き。陵辱したくなる」
「ふざけるな!」
「ふざけてなんかないよ。大マジ、メ――っ」
「っ!?」


言い終わる前に白蘭は綱吉の視界から消え、背中で気配を感じたと思った途端圧力が掛かり、白蘭が背にしていた窓に勢いのまま体を押さえ付けられた。


「ぐっ!」







直ぐに両手に力を入れてグローブを発動させようとしたが、先に拘束されてしまい、白蘭の力が思った以上に強いことを思い知らさせた。
死ぬ気炎が出せないのもおそらく、何かで封印されたからだ。


「炎を出させるわけにはいかないんだ。流石に厄介だしね」
「…っお前…、まさか、初めから…っ」


談合というのは名ばかりで、初めから自分が目的だったのかと言いたかったが、体が圧迫されていてそう言うのがやっとだった。
しかし言いたいことは伝わったらしく、左肩から顔を出してきた白蘭が。


「いやだなぁ、ちゃんと話、したでしょ?ま、一方的にだけどね」
「…っ、」


身動きが取れないことをいいことに、左頬、首筋、耳に息だけじゃなく、時々唇が触れる。
ぞくり、と肯定したくない感覚が沸々と湧き上がる。
それを歯をきつく噛むことでやり過ごそうとするが、前に回った白蘭の右手が許してくれなかった。


「っあ、」


思わず漏れた声に、嬉しそうに笑う白蘭を感じた。


「ふふ、知ってた?君に贈ったニューサイラン。漢字では『新西蘭』て書くんだよ」
「…っ、な、に…言って、」
「ボクと同じ字が、入ってるんだ」


ツナヨシはそれを『素直』に受け入れた。
これを勘違いするなと言われ、誰が頷くだろう。


「此処に来る前から、こうなるって決まってたってこと」
「…っく、そ…っ」
「あれ、まだ抵抗する?懲りないなぁ…」


笑い続ける白蘭を制止しようと精一杯もがくが、直ぐに逆に制止されてしまった。


――さて、残る問題は守護者か…」
「っ!!」


耳元で呟かれた言葉に驚愕したが、首筋を舐められたことで声は出なかった。
とにかくと白蘭へ怒りの視線を突き立てようと振り向くと、顔は笑っているが今まで見たことのない冷たい目があった。


「アイツらが一番目障りなんだよね」
「っ皆には手を出すな!」


冷たい目で強張った体に喝を入れるように、大声を発した。
嫌だ。
誰かが死ぬのは、もう。
誰かの死を、超直感で感じたくない。


「お前の目的はオレだろ!もう、戦う理由はない筈だ…っ」
「…あのねー、今の自分の立場、分かってる?」


そんな綱吉の切願を、白蘭が聞くはずもなく。
切願を一掃するように、綱吉の首筋に噛み付いた。


「いっ!!」
「君、次第なんだよ?守護者たちのコト」
「…っ、」
「せめてさぁ、大人しくしてようよ?」


流れる血を舐めとられる。
舐められる度、ズキズキと痛みが走る。
このくらいの痛み、どうってことない。
自分の所為で傷付いていった皆に比べれば。


「…皆は、死なないよ」
「え?」
「簡単に、死には…しない…っ」


そう信じてる。
だから、大丈夫。


「オレが居なくたって、皆は、やっていけるよ、」
「…それは、ツナヨシがボクのモノになるって、思っていいの?」


ツナヨシは肯定も否定もしなかった。
ただ、ボクをじっと見つめるだけ。
その瞳の奥に、強固の意志を秘めながら。


「…ふ、ふふっ」


笑わずにはいられないよ。
だってツナヨシが、ボクの腕の中にいるんだよ。
ボクのモノになったんだよ。


「仕方ないね、守護者は暫く泳がせといてあげる」


ツナヨシに免じて、少しの猶予をあげよう。
ツナヨシを助け出そうと足掻くための、情けなく見苦しい猶予を。
でもその猶予は、ツナヨシ次第。


「覚えておいてね、ツナヨシ次第だよ」


ツナヨシの大切なものの全ては、ツナヨシの全ての主導権を持つ。
ボク次第、だってね。


「……やっと、」


もう、いつからかなんて覚えてない。
それは多分、初めて君の存在を知ったときから。
後戻り出来ないところまで、堕ちていたんだ。
だから、一緒に堕ちよう?
ボクと一緒に堕ちよう。
ツナヨシが居たら、何処までも堕ちていけるから。


「やっと、手に入れた」








全ての始まりは天使の囁きからだった。
例えそれが悪魔だったと知ったところで、もう関係ないね。
だってボクは、手に入れたんだから。











07/04/21
よりによっての白蘭ツナです(苦笑)
一応10年後ツナです。
白蘭の一人称も出てないのでその辺は想像です。
色々先走りしたけど、こうなったらイイなという願望だけは立派なモンです(爆)
白蘭はツナが欲しいが為にボンゴレ壊滅しようとしたんだ!っていうのだったらいいなぁっていうね!!
あー白蘭ツナ、増えてくれたらいいなぁvv

ちなみにニューサイランはホントにツナの誕生花ですよ。
色々あるみたいだけど、あえてこれ選んでみた(笑)
ホントに草っぽいです(笑)
タイトルはこの学名で☆

07/05/16
てかてか、挿絵貰っちゃったよおおおおお!(゜∀゜)vv
悠兎子、本当にありがとう!白ツナ仲間でありがとう!!vv

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