重なる。
4年前と。

だが、俺は―――





moment







「怨めって言ったのはお前だろう」


ライルはそう言って、俺に銃を向けた。


「…ああ、言った」


それはまるで必然だったかのように、4年前のニールと重なった。


「じゃあ、お前はその咎を受けてくれるよな」


紡がれるライルの言葉から滲み出る。
憎しみと悲しみと、少しだけ、辛そうな感覚。
銃を向けることを、向け続けながらも躊躇っている感覚。
人の脆い部分を全て物語っている。
人の弱さを見せ付けられる。


だから言ってしまいそうになる。
撃ってみろ、と。
そんな弱さで、そんな重いトリガーを引けるのかと。


少なくともニールは、儚くも強い力でそれを引いていた。
俺に向けて、本気で。


―――咎は、受ける」


その本気に俺は本音で答えた。
あの時、ニールが世界を変えてくれるのならと。
それなら本当に、命賭してもいいと思ったんだ。


だが。


「だが、今は…」


今はまだ。


「まだ、終わるわけにはいかないんだ」


変わると約束した。
変えると約束した。


ニールに誓った。
自分に誓った。


「咎は受ける。全てが終わったのなら、必ず」


世界に誓った。


「俺は、世界を変えたい。変えなければいけない」


戦うことしか知らない俺は。
戦うことしか出来ない俺は。


世界のために、この"刹那"を生きると。


「そのためには俺も、お前も、必要なんだ」
「…っ、」


ライルの銃を持つ手が揺れた。


「だから俺はアニューを撃った。俺にはお前が必要だった」


俺の声が揺れた。


「お前を、失うわけにはいかなかった…っ」


―――ああ、重なったんじゃない。
重ねているんだ、俺は。
4年前と。


4年前と―――


「…今を、同じ結末にするわけにはいかない」


重ねたままで、いいのか。


「だからもう一度、言う」


4年前と今を。
兄と弟を。


「共に来い、」


今を生きる。
未来を生きる。
そう言ったのはお前だ、ライル。


「ライル・ディランディ」


銃を向け続けるライルに、俺は手を差し出した。


「…お前…、」


困惑の表情と声が俺を包む。


「…今を生きることを望むのに、未来は死を選ぶのか」
「ああ」


お前が望むのなら、俺は死を受け入れよう。


「何だよそれ…っ」


銃を握る手にグッと力を入れたと思えば、ライルはそれを床に投げ付けた。


「どうして言えんだよそんなこと…!」


撃てるかよ、そんな全てを受け入れる目をした奴を。
そんな意思を持った奴を。


「なんで…!」
「今が全てだからだ」
「変えた未来を見れなきゃ意味ないだろう!」
「お前が」


お前が、代わりに見てくれるだろう?


「…っ!」


―――名は、体を表す。
刹那という名の通り、お前は長い歴史の中で、一瞬よりも短い時間を生きることを選ぶのか。


「……どうして、お前が…」


世界に変革をもたらす機体に選ばれたのはお前。
戦うことを選んだのもお前。
戦うことしか出来ないのも、戦って生きることしか知らないのも。


どうしてお前だけが。
そんな辛く重いものを背負わなきゃならないんだ。


「何で、お前が…」


そんな辛く重いものを背負っているのに。
どうしてそれ以上の咎を背負おうとするのか。


「お前が…っ」


お前じゃなければ良かった。
アニューを撃ったのがお前じゃなければ。


―――っ」


俺はお前に、この咎を背負わすことはなかったのに。


そんな想いが。
無意識に刹那を引き寄せたんだろうか。





「…ライル」
「……」


刹那の後頭部に触れて、刹那の額が肩に触れて。


「ライル」
「…呼ぶなよ」


今は呼ぶな。
何も言うな。
これ以上、分からないままに触れそうになるところを増やしたくない。


「刹那」


今しか生きない、未来を生きることを望まない、一瞬の存在に。
触れ続けていたいと思う感情を。








きっと、この感情は一瞬のものだ。
"刹那"なんて時間、俺には感じることは出来ないからな。
それでもこの感情が嘘だとは思わない。
お前に感じた感情が。
お前を求めた、感情が。


その"刹那"、確かに存在していたんだ。














2期20話&21話の予告1カットからの個人的補完話。
放送当時ブログに上げてて忘れてたのをサルベージ。
編集加えようかと思ったけどこれはこれでいいかなと。
ウチの刹那は刹那主義っぽいなと、前向きに未来を生きようとする刹那を見て思った。

ブラウザでお戻り下さい。