轟く雷鳴。
うねる雲。
それは普段と変わらない空模様。
だが、この世界の動向を誰よりも知る彼女は。


「…空が、騒いでいる……」


コスモスは秩序の聖域を仰ぎ、そう呟いた。





Reality in the future ?







『皆、気をつけて』


陣営10人の頭に声が響き、全員が歩みを止め空を仰いだ。


「何だ?今のコスモス?」


バッツを始め、皆辺りを見るが、コスモスの姿はない。
コスモスは今力の尽きかけた体を休めるため、秩序の聖域からは動けないでいる。
それを前提とすれば姿を見せられないのは当然だし、今までも声で導いてくれたことはあったが。


「てかそれだけ?何に気をつけたらいいんスかね?」


過去、漠然と言われたことはない。
この世界のことに関して詳しい彼女だけに、知らないことはない筈。
故に不審を抱かずにはいられない。
考えられるとすれば、その彼女にすら予測、想像のつかないことが起きようとしていると言うことだ。


「皆、常に気を張れ」


悟ったウォーリアは警戒態勢を敷き、予期せぬ事態からの最悪の状況だけは避けようと、全員に武器の具現化を命じた。
途端。


ドン―――
「っ!」
「うおっ!」
「うわ!」
「きゃあ!」


地に大きく揺るがす程の大きな衝撃が辺り一体に響いた。
全員の体が揺らぎ、足だけでは衝撃で体を支えきれず、悲鳴と共に膝、手を着く者も居た。
大剣を持つ者たちは地面に深く突き立て、何とか体勢を保つ。


「何が起こってんだよ!?」
「あっ!見ろバッツ!空が!」


バッツの叫びに応えたジタンが、空を指差す。
それに導かれるように全員がその方、真上に視線を向けると。


「空が…割れていく…」


重い灰色の雲が、真っ二つに割れていく。
その割れ目から見える色は漆黒。


「あれは…」


地響きは鳴り止まず、呟いたティナの不安げな声とクラウド意味深な声は掻き消された。
そしてコスモスとウォーリアが示唆した状況が現実になる。


「おいおい、何かいっぱい出てくるんですけど…?」


そう言ったジタンの声は笑っているが、震えていた。
それは皆の心も同じだった。
膨大な量の黒い点が空から降り注ぎ、地上に近付くに連れて、生来の形を成していく。
形は愛らしい部類に入るものかもしれないが、纏う気は明らかに負のものだった。
器量は計り知れないのに、この数。
死闘は、恐らく必至。
皆がそう覚悟を決め、一斉に距離を取ると、地面に降り立った黒い者たちに先手必勝を掲げて飛び掛る。
しかし。


「なっ!?」
「攻撃が!?」
「効かない!?」


フリオニール、セシル、ティーダの声が繋がり、途端皆が防戦一方に回る。
幸い一つ一つの攻撃は強くないこと、向こうの攻撃は防げることが伴って、大ダメージを受けることはないだろう。
だがこの数だ、軽いダメージでも受け続ければ累積され、大きなものに変わるだろう。
不安が恐怖に変わりそうな予感が、辺りを包む。


「くっそー!どうしたらいいんだよ!?」


バッツの叫ぶ声が響き渡ると同時に、蒸発音が多数発生した。
その音に振り返ったバッツは、更に叫ぶ。


「ちょ、何でクラウドの攻撃だけ効くんだよ!?」


クラウド以外の者の攻撃は、黒い者たちをすり抜けてしまう。
それは物理攻撃でも魔法でも同じだった。
切れたと思った感覚はなく、魔法も万一にも当たる事はなかった。
ティーダが素手で殴り掛かったがそれもすり抜け、オニオンナイトがファイアを纏わせた剣を振り下ろすも、効果はない。
手は、ない。
ウォーリアですら、脳裏に絶望を覚え、皆もその空気をひしひしと感じ取り始めていた。
しかし四方を囲まれるという最悪の状況だけは避けようと、近くで戦っていた仲間と無意識に背中を預け始める中。


「…っく…!」


黒い者たちの攻撃を避けるうちに、仲間の輪から少し離れてしまったスコールの四方が黒く染まりつつあった。
攻撃は効かない、その上群がる黒い者たちによって避ける場も失われていく。
流石のスコールも、至近距離から攻撃を受け続ければ。


「スコール…!」


いち早く気付いたクラウドが、自らの周りに居る者たちを一層し、スコールへ駆け寄ろうとした。
だが行く手を阻む膨大な数の黒。


「…ハートレス…!」


黒い者の通称を噛み締め、クラウドはそれを薙ぎ払い続ける。
確実に数は減っているはずなのに、スコールの元へはまだ遠い。
だがあと少し、あと少しの所で、ハートレスの大群がスコールを中心とした円の真ん中へ、高く飛び跳ねた。
間に、合わない。
分かっていても諦めず、クラウドはスコールへと届かない手を、伸ばした時。


―――っ屈め!」


スコールの頭上で、男の声が響いた。
その声に促され、咄嗟に腰を落とせば。


「…っ弾けろ!」


スコールの周りに無数の爆破音が弾けた。
周りのハートレスたちは完全に消失し、他の仲間の元に集まっていた者たちも、爆風によって空高く舞い上がった。
もう少しで巻き込まれ兼ねなかったクラウドは、飛ばされそうになる体に力を入れて堪え、目を瞑り腕を顔の前に翳し、爆風をやり過ごす。
何が起こったのか、クラウドには分からなかった。
しかしクラウドの元にも聞こえた、誰かの声。
そして今の技。
どちらにも、覚えがあった。


(だが…どうして、)


此処に居る筈のない者の声が聞こえるのか。
爆風が収まり、クラウドは翳していた腕を外し、目をゆっくりと開ける。
少し離れた目の前には。


「…レオン」


屈んだスコールの横に、見慣れた長身と。
その者を特定する武器、ガンブレードが彼の右肩で光を受けて輝いていた。


「…誰っスか?」
「さあ…?でもさ」
「スコールに似てるよな」


ティーダの疑問に答えたジタンとバッツ。
バッツの言う通り、隣に居る所為もあってか、余計に似ていると感じる陣営の面々。
そんな面々より、スコールが一番驚いているのだろう。
何せ同じ顔が目の前にあるのだ。
屈んだ状態のまま男を見上げ、立てないで居るスコールの顔は呆気に染まっていた。
その一瞬の間を破ったのは。


「レオン!」


クラウドが、男の名を呼ぶ声だった。


「レオン、どうして」


駆け寄るクラウドに気付いた男は、口を開くよりも先にクラウドの腕を取り、引き寄せて胸に収める。
それを見た一同が目を見張ったが、先程の比ではない爆発がガンブレードから生成され、黒い者たちを消し去ったところを見て、クラウドを助けたことを知った。


「話は後だ。まずは奴らを蹴散らす」


胸に収めたままのクラウドに言うと、驚いていたクラウドの表情が戦いの顔へと戻り、頷く。
男の胸から離れると、今だ屈んだままのスコールに手を差し伸べ、立ち上がらせ。


「皆と固まっていてくれ。おそらくもう、皆への攻撃はない」


そう言うと、手を。


「奴らはもう、俺たちしか認識しないから」


離した。








クラウドがスコールの手を同時に、爆風で飛ばされていた奴らが一瞬で空を覆った。
攻撃の効かないスコールがこの場に居ても、悔しいが足手まといにしかならないと、顔を顰めながらもその場を離れた。
黒い者たちの中心には、クラウドと先ほど現れた男が背中合わせ武器を構え、攻撃の機会を伺っている。
大丈夫かと心配する表情のジタン達とは違い、スコールだけが二人を、否自分に似た男を睨んでいた。
『俺たちしか認識しない』
そのクラウドの言葉が、頭から離れない。
おそらく自分にしか聞こえていなかった、クラウドが男の名を呼んだこと。
男がクラウドを抱き寄せたこと。
他人に触れられることをあまり好まないクラウドが、それを嫌がらなかったこと。
黒い者たちに二人の攻撃しか効かないことと言い、今や此処は完全に二人の世界になっている。
この世界に集った者は、一人として同じ世界からやって来た者は居ない。
それ故に、共有した世界の記憶を持つ人物が来たとなると、良い思いはしない。
それがクラウドの相手となれば、尚更。
スコールがそんな思考に耽る間も、黒い者たちは二人の周りに集まっていく。
クラウドが言った通り、何がきっかけだったのかは分からないが、こちらには一切寄り付かなくなった。
男とクラウドが先ほどかなりの数を消したとはいえ、黒い面積はまだ広がり続ける。
群がる音と、無言の二人。
攻撃を仕掛けるきっかけ。


「クラウド、頑張って!」


それはティナの声援が請け負い、二人は同時に目の前の黒の渦の中に飛び込んだ。


そして黒い者たちが消え、静寂が戻るまで。
時間は掛からなかった。








空はまだ騒いでいるが、秩序の聖域は落ち着いた気配を取り戻した。
クラウドは小さく息を吐き、力の入った肩を緩める。
隣に立つ男も、大きく息を吐いた。
そんな二人にコスモス陣営は駆け寄り、クラウドに労いの言葉を掛けるティナとオニオンナイト、セシル。
そして。


「で、アンタは誰?」


腰に手を当て、此処に居る誰よりも高い男を見上げ、ジタンが問うた。


「見たところ、何かスコールに似てるんですけど?」


ちらりとスコールに目をやり、再び男に戻すジタン。
身長はスコールより高く、髪も長い。
雰囲気も数倍大人びているが、全体そのものを見る限りスコールとしか言いようがない。
まるでスコールを大人にしたような。
誰もがそんな結論に至り、口を開いたのはバッツ。


「ちなみに、名前は?」


人を知る上で、当たり前かつ確実な問いに。


「スコール・レオンハート」


男が応えると、全員の目が丸くなった。
兄弟が有力説だと考えていた皆の思考は停止する。
ここは所謂パラレルワールド。
全員が違う世界から集ったことを最低ラインと考えれば何が起きてもおかしくはないが、同姓同名となれば、この世界は更に複雑さを増す。
その複雑さ故に、とうに考えることを放棄した面々は、スコールと同じ名を名乗った男に食い掛かるように質問を投げ掛ける。


「ホントにスコールなんスか!?」
「何でそんなにデカイんだ!?」
「大人んなったらそんななんのかお前!」


ティーダ、ジタン、バッツの同時の問いに、男は流石に一歩引いたようだ。
そんな三人に溜め息を吐き。


「三人とも落ち着け。俺が説明する」


男を見兼ねたクラウドがなだめ、淡々と解説を始めた。


クラウドの話によれば、こちらに飛ばされる前は男と同じ世界に居たという。
男の名前はスコールと同じで間違いないが、男は何故かレオンと名乗っているらしい。
クラウドもその理由は知らないらしいが、幸いにも区別して呼ぶには助かる形となった。
ちなみにレオンはクラウドが何処かに飛んだことは知っていたらしいが。


「まさかクラウドが居る先に飛ばされるとは思わなかったな」
「そうだ、どうしてレオンが此処に飛ばされたんだ?」


思い出したように、クラウドはレオンに問う。


「向こうで王様やソラと戦って居た時に、ハートレスの大群に囲まれた所までは覚えているんだが…おそらく王様が助けてくれたんだろう。王様にはそういう力があることを聞いたことがある」


尤もハートレスまでついてきてしまったようだがな、とレオンは言う。
クラウドはそうか、と納得していたが、他の面々には知らない単語ばかりだった。
それに気付いたクラウドが説明を付け加える。


「王様もソラも、向こうの世界での仲間だ。俺は会ったことはないが、王様は凄い力を持った偉い人物らしい」
「ハートレスというのは、さっきお前たちに襲い掛かった黒い奴らのことだ」


クラウドの説明の後、レオンが続け。


「見た目は愛らしい部類に入るようだが、油断すると酷い目に遭う」
「俺らの攻撃が効かなかったのは?」
「確証はないが、同じ世界に存在した者の攻撃しか効かないのかもしれない」
「じゃあ最初襲い掛かってきたけど、後々眼中にもなかったのは?」
「ハートレスは覚えある者に襲い掛かる。だが違う世界に飛ばされて、奴らも困惑していたんだろう。その後俺の気配を見付け、お前たちには見向きもしなくなったのかもな」


ジタンとバッツの問いにも淡々と答えるレオン。


「は〜、何か大変なことになってんのな、クラウドとレオンの居たとこって」
「その辺に関しては皆一緒の気もするけど」
「それもそうか」


感嘆するバッツにジタンが突っ込みを入れると、周りの空気が緩み、ティナの小さく笑う声が聞こえた。
そんな中でも、スコールは一切表情を変えず、ただじっと、レオンを見据えていた。
同じ名前だとは聞いたが、自分と同一人物だということまでは聞いていない。
違うのならばそれでいい、ただ似ているだけだと感じて終わるのだから。
だが同一人物となるのならば。


「…何だ?」
「っ、」


レオンが視線に気付き、表情を和らげて声を掛けると、スコールの体に力が入った。
身長、表情、そして雰囲気。
自分と同一の存在だというのならば、レオンの構成するもの全てに劣等感を感じずにはいられない。
自分にはないものばかり持っていると、直ぐに感じていたのだ。


―――…お前、…俺、なのか」


それでも確かめずには居られず、少し躊躇いはしたが、レオンに問う。
すると、だろうな、とあっさりとした答えが返り、やはり、とその答えを噛み締めた。
尤も自分に兄弟は居ないのだから、他人の空似か、パラレルワールドだからこその選択肢の同一人物かの二択しか始めからなかったのだ。
この場合、同一人物だと言われた方が納得が行く。


「歳は」
「26」
「な…」
「にじゅうろくぅ!?スコール、26になるとこんななんのかよ!すげーな!」
「人間て変わるんだな!」


レオンの年齢に誰よりも驚いたと思ったスコールだったが、それ以上に周りの面々の驚き方のほうが大きかったようだ。
ジタンはともかく、バッツの言葉は聞き捨てならない。
睨めば罰が悪そうに視線を逸らして誤魔化される。
しかし無理もない、九年後こうなると、自分自身が一番想像がつかないのだ。
どうやったらこんな物腰の柔らかい人間になるというのか。
そこまで考えたが、これ以上は時間の無駄だと、放棄した。
結果が目の前にあれば、そこに辿り着くのは必然なのだから。
それにしても。


(ああなれば、クラウドと並んでいても………いや、)


そんなことを考えていても不毛だ、と最後の言葉は心の中で更に飲み込んだ。


「そういえば、皆は無事か?」


ふとクラウドが、思い出したようにレオンを見上げた。


「ああ、少なくとも俺が囲まれるまでは無事だった。ユフィなんか暴走しかけていたぞ」
「そうか」


口角を少し上げ、小さな笑顔を見せて安堵する。
しかしその表情は何処か曇りがちで。


「どうした?」
「いや…」


レオンがクラウドの顔を覗き込めば、ふい、と視線を逸らし。


「…すまない、俺も、その…一緒に戻れたら、良かったんだが…」


右手を左腕に掛け、申し訳なさそうに体を小さく見せた。
クラウドは表情に感情をあまり出さないが、誰かを心配する様子だけはどうも隠せないらしい。


「気にするな」


言いながら、レオンはクラウドの頬に手を滑らせ、撫ぜる。
それは自然な雰囲気で、スコール以外の面々は気付かない程で。


「セフィロスみたいな奴を向こうに野放しにしておく方が、どう考えたって面倒だ」
「何だ、それ」


クラウドもその手を除けようとはせず、ただ感受し、初めて見る困ったような笑いを見せている。


「お前はお前の決着をつけて、戻って来い」


その上二人にしか分からない会話で、スコールの眉間の皺は深くなる一方。
話には入れないが、この雰囲気は壊してやりたい衝動に駆られた時。
レオンの体が淡い光を帯び始めた。


「…レオン?」
「時間だ」


此処に飛ばしてくれた王様の力の限界が来たようだ、と告げる。
元々長くは居られないと、言わずとも感じて、互いには分かっていたのだろう。
それでも、二人の表情に寂しさが翳る。
普通に、恋人同士の表情に見えるのは気の所為ではない。
薄々感じてはいたが、実際見せ付けられるのは辛いと、スコールは二人から目を背けようとした。
瞬間。


「…待ってる」


レオンは小さく呟き、クラウドの頭を引き寄せ。
こめかみに、キスを贈った。


「っレ…!」
「っあー!」


クラウドがキスされた場所を隠し、ティーダの叫ぶ声が響いたと同時に、レオンの体は世界に溶けるように、透けて消えていった。
色に例えるなら、薄いピンク色をした雰囲気が残る中。


「で?アイツとはどーいうご関係で?」


ニヤニヤした顔を近付けながら、後ろからクラウドの肩を抱くバッツ。


「馬鹿、何言ってるんだ」


顔を背け、赤く染まった頬を一生懸命隠そうとするが、既に全員にバレてしまっているため意味はない。
そんなクラウドを横目に流し、スコールは一人歩き始める。


「何処に行く?」
「…少し、剣を振ってくる」


ウォーリアに問われ、簡潔に返すと、振り返ることなく先に見える森へと足を進めた。
何かを感じ取ったのか、ウォーリアはそうか、とだけ返すと、スコールを見送った。








(通りで、俺を初めて見た時、驚いていたわけだ)


森への道すがら、スコールはクラウドと初めて対面した時のことを思い出していた。
あの時のクラウドの表情は忘れようにも忘れられない。
あんなに驚いた顔を見るのは最初で最後だと、初対面ながらに思ったくらいだ。
クラウドの知っている自分の、過去が目の前に現れたのだから、当たり前と言えばそれまでだが。


(だが、一つ分かった)


パラレルワールドの存在を考えると、あの男が今の自分の未来になる可能性が高いわけではない。
それでも未来の自分は、クラウドの傍に、居る。
だったら嫉妬の一つや二つ、許してやろう。


(俺の未来は、クラウドに繋がっている)


今日の現実が、未来の現実に繋がるのなら。











2009/09/05
レオクラ←スコの構図が書きたかっただけ^^^^
ちなみにkhは1を冒頭だけちょっとプレイ、
2に至っては二人の出てるムービー部分しか見ていないので、ほぼ捏造となりました^^^^
レオンの年齢は確かそのくらいだったはず…というだけなので、
ホントあの、すみません(爆)

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