進むべき道が、分かれている。


「二手に分かれよう」


ウォーリアのその一言が、スコールの小さな苦悩と、小さな喜びの始まりだった。





best words







二手に分かれなければならない状況では、公平を期して毎回同じ面子にはしないように、ウォーリアは考慮してくれている。
しかし毎回時間を掛けて考えるわけにもいかず、最近では何処か適当になってきているのではないかと皆は感じずにはいられなかった。
尤も、それを本人に言える者は誰一人居ないのが現実だ。


「私、フリオニール、セシル、バッツ、クラウドは左。オニオンナイト、ティナ、スコール、ジタン、ティーダは右でいいか」


今回は年齢で分けたのかと、全員が悟ったと同時に、スコールは誰にも気付かれず眉間のしわを深くした。
今まではそれなりに納得して文句を言うことはなかったが、流石に今回は適当過ぎやしないかと反論しようとしたスコールだったが。


「えー、バッツずるくねぇ?」


先に文句を発したのはジタンだった。


「ノリは俺たちと変わんないじゃん。こっちで浮いてるスコールと交代しろよー」


意外なところで自分の名前が出、口を開こうとしたスコールは圧し留まった。
浮いているは余計だったが、交代出来るのならばと、話を折りたくはなかった。


「実力的には問題はない。それに最低1人、仲間をまとめられる者が居なければ駄目だ」


スコールとバッツが交代すると、ジタン達側を誰がまとめられるか。
得意不得意はあれど、実力的に皆に差があるとは思えない。
故にどういう風に二手に分けようが、戦う上で不利はないと考えている。
しかしそれは仲間がまとまっている状態で言えること。
冷静かつ視野を広く持てる者が中心に居なければ、全員が最大限の力を引き出せない。


「出来るな、スコール」


適当に考えている様で、尤もな理由を熱弁されては、首を横に振ることなど出来ない。


「…ああ、」


スコールも例外ではなく、頷いた。
それでも心中は複雑だった。
年相応以上に見られるということは認められているようで嬉しいが、やはり実年齢となると子供に部類される。
子供の年齢の間は、これが嫌でも付いて回るのだ。
しかし主張したところでウォーリアが聞き入れてくれる訳がない。
それこそ実年齢を掲げられそうだ、とスコールは目を閉じた。
切り出した当人のジタンも、しょうがないか、と頭の後ろで腕を組んで納得していたが。


「でもそしたらさ、クラウドとスコールが交代してもいいと思うんだけど?」


ほら、見た目的に。
そう軽く言うと。


「…どういう意味だ」


今まで皆の話を淡々と聞いていたクラウドが、その一言に顔を顰めてジタンに問う。
スコールとは逆に、クラウドは歳相応に見られることがない、童顔の部類に入る。
真逆とはいえ、コンプレックスは似たようなもの故に、スコールは同情せずにいられなかった。


「あ、いや、何でもない!ごめん!」


苦笑しつつも内心凄く焦っているように感じるのは気のせいではないだろう。
皆、クラウドには嫌われたくないのだ。


結果的に時間が掛かってしまったが、今回もウォーリアの組分けに従うことになり、各々進むべき道に向かい合う。
スコールはちらりと向こう組に視線をやれば。


「やったー!クラウドと一緒!」


と喜んで、後ろからクラウドに抱きつくバッツが目一杯視界に入った。
クラウドは明らかな溜め息を吐いていたが、抵抗する気配がないことに、顔を顰めることしか出来ないスコールにとって。


「バッツはクラウドと一緒でなければ落ち着かないからな」


駄目押し的なウォーリアの一言が聞こえてきたのは気のせいだと思いたい。
リーダーとして視野を広く持ち、仲間の性格などを色々心得ていなければならないのは分かる。
先程言ったとおり、全員が最大限の力を引き出すためにも必要なのだというのも分かるが。


「ってワケだから頼むな、クラウド!」


時折贔屓ではないかと感じずにはいられない。


「俺はこいつのおもりじゃないんだが…」


呆れた声と、再度溜め息を混ぜながら、クラウドは了承を示していた。
そんなクラウドの横顔を最後に、スコールは視線を己の行くべき道へと視線を戻した。























半日程のち合流した仲間に、誰一人怪我はなく、一先ず全員が安堵した。
それでも疲労は小さくなく、今日は此処に留まることを決めた。


バッツ達の笑い声が聞こえる焚き火から少し離れた所で一人、夜空を見上げていたスコールに。


「不満そうだったな」


夜空と自分の間を遮って顔を覗かせたクラウドが、的確な言葉と共に現れた。


「…そう、見えたか」
「いつにも増して顔を顰めていたからな」


言いながら、スコールの横に腰を下ろし、同じ夜空を見上げる。


―――…実力を認められたところで、どう足掻いたって、歳は取れない」


少しの沈黙の後、スコールは此処に来て誰にも吐けなかった言葉を吐いた。


(年齢で括られたら結局は子供。大人にはなれない)


ただ、歯痒い。
スコールはそれを噛み締めるように、拳を握った。
その行動に気付いたのか。


「逆だな。俺と」


クラウドはぽつりと、自嘲気味でいて、何処か悲しそうに。
そんな言葉を吐いた。


「…?」


意図が分からなかった。
童顔に関してならば、そんな風に話そうとは思わないだろう。
それこそ、悲しそうには。
一体何のことなのかと、クラウドの言葉を待った。


―――俺は、歳だけ取ってしまった」


"記憶"でだけなら、俺はまだ19くらいなんだ。


「…どういうことだ?」


クラウドは23だと、以前確かに言っていた。
童顔ゆえに疑いたくもなったが、嘘だとも思えなかった。
しかしそれはやはり嘘だということなのか。
だが、記憶でだけ、というのは。


「意識のないまま、4年が過ぎていた」
「…!」


そういうことか。
だから、記憶と実年齢が伴っていないと。


「今思えば、その4年分はある人の記憶で埋めてもらっていたが、…全てを思い出したとき、俺にその4年は、存在していなかった」


重い、言葉だった。


「分かるか?子供だった自分が、起きたら大人になっていたんだ」


信じられないだろうと言わんばかりに、クラウドは少し微笑っていたが、笑える言葉に取ることなんて出来るわけがなかった。


「体格も記憶も眠る前と変わらないのに、起きたら時間だけが過ぎていて…」


それを思い出すことに、どれだけの痛みが伴っているのか。
自分に分かるわけもないが。


「自分が存在していなかった4年の間に歳を取ったと、どう信じればいい?」


ただ、その事実はとても重く。


「記憶もない、過程もない……あるのはただ、結果だけ」


悲しいことが伴っていたんだということだけは、痛いほど伝わってきた。


―――俺は、これからも暫く、見た目は歳を取らない。恐らく、30を越えても今と変わらないだろうな」
「何故…」
「そういう細胞を埋め込まれて、4年間眠っていたんだ」


何も、言えなかった。
だが見た目を、童顔を指摘されるのが嫌な理由が分かった気がした。
自分の外見、いや存在自体が、その時のことを嫌でも思い出させる要因になっているのだ。


「歳は、生きて来た分だけ積み重なる。焦って望むものじゃない」


望まずして歳だけを取ってしまったクラウドの言葉の重み。


「その歳で実力を認められることは凄いことだ。だからこそ焦る理由は分かる」


年齢が足枷になることを、クラウドは知っている。
それに比べたら、年齢だけが足枷になっている自分の言葉は、背負っているものは、何て軽いものなのか。


「でも、それは足枷じゃない。生きている重みなんだ」


だから、これくらいは受け入れなければならない。


(受け入れられなければ、お前には、並べないな)


そう思った途端、足枷が本来の重みを取り戻したような気がした。
心地良い、重みを。





「…クラウド」
「…悪い、説教みたいになった」
「いや、」


聞けて良かった。
それは、口にはしなかったが。


「一つ聞いていいか」
「ん?」
「俺は、アンタに肩を並べられているか?」


言うと、クラウドは驚いたが、直ぐにふっと微笑って。


「随分と、先を歩かれている気がするけど?」
「…そうか」


クラウドの言葉に、スコールも小さく小さく笑った。





立ち上がり、去ろうとすると。


「スコール」


クラウドが呼び止めた。
振り向くと。


「誕生日、おめでとう」
「…!」


今まで見たこともないような微笑で、その言葉を口にしてくれた。
自分ですら、今言われるまで忘れていたことだけに驚きが大きかったが、それ以上に。
嬉しさが、満ちている。


「お前はちゃんと、一歩ずつ進んでくれ」


重みを感じる、祝いの言葉だった。
クラウドだから言える言葉。
クラウドだから感じる、一歩という重み。
その全てが今の自分にとって。
最高の言葉だった。


「…ああ」


今日という日を。
目を細め、閉じ、噛み締める。


クラウドの微笑みと共に。











2009/08/23
後付なお祝いの言葉…です…(爆)
もとは年下で歯痒い感を出したかったのだけど、誕生日と紐付けられたので!←
何はともあれおめでとうスコール!!
こんなのがお祝いで申し訳ねー!(爆)

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