キミノウタ〜Continuation of dream








両親の築いた国は、西の隣国の手に掛かり、墜ちた。

『貴女が生きてさえいてくれれば、国はきっとまた蘇ります』
『だからその希望を託すのです』

長老や大臣たちの意を汲み、姫であり事実上国のトップであるクラウドは、幼い頃からの無二の存在であり騎士団長であるジタンと共に、後ろ髪を惹かれる思いで東へと向かった。
途中、西の隣国の部隊に何度か追われたが、二人は無事に東の隣国へと辿り着いた。
元々クラウドの国と東国とは両親の代から親交が深く、密かに亡命した二人を暖かく迎え入れてくれたことに、クラウドは自分の身分も気にせず、深々と頭を下げた。

―――感謝の意を忘れてはならないよ。
―――感謝を伝えることに、身分なんて関係ないの。

王と妃の教えと心は、クラウドの中に生きている。
それを彷彿とさせる凛とした姿に、ジタンは何度心打たれただろう。
そんなクラウドの意思を知ってか知らずか、東国の王は二人に王宮の一室を貸すと申し出てくれたが、クラウドは断った。
クラウドの身分は高貴であるとはいえ、亡命の身。
そして自国を落とした西の隣国に自分たちの存在と情報を漏らさないためにも、王宮に居る訳にはいかない。
だが身を置く場所を提供して頂けるならと、クラウドは城下町に一軒家を貸して欲しいと申し出た。


王に手配して貰った家は、一階建てでリビングに部屋が二つ。
扉を開ければ、大きめの部屋と小さめの部屋で。


「姫、こちらに…」
「こっちでいい」


ジタンが当然のように大きめの部屋に手を向け言うと、クラウドはジタンの横を抜け、小さめの部屋へと入った。


「ですが、こちらの部屋の方が狭いのですよ?」


クラウドを追い、ジタンも部屋へと入る。
快適に過ごしてもらいたい故の配慮だったが、ジタンの思いを知っていてわざと備え付けのベッドへ勢い良く腰を下ろすし。


「狭い方がいい。広いのは…好きじゃない」


行動の大きさに反して小さな声で呟くと、ジタンはハッと息を呑んだ。


「…分かりました、…仰せのままに」


一人に広い部屋。
それは王と妃が亡くなった頃の城の記憶を呼ぶのかもしれない。
奇しくも、また一人になってしまったことを嘆き、ジタンは窓の外に視線を向けたままのクラウドに頭を下げ、部屋を後にした。


再度東国の王へと謁見しに向かったジタンが夕方家に戻ると、部屋に居た筈のクラウドが、今度はリビングのソファで窓の外を眺めていた。
言葉にし難かったが、自国の城が完全に墜ちたと、東国の王から聞いたことを伝えると、クラウドは心に感じた大きな痛みを一瞬表情に表しただけで、すぐさま膝を抱え、顔を伏せた。
それからずっとリビングのソファで膝を抱えたまま。
その日の夜。
クラウドは夜が更けても部屋で眠ろうとはしなかった。
重鎮達の死亡の知らせはなかったが、恐らく近々必ず入ってくるだろう。
それを待っている訳ではないと分かってはいるが、その時を考えると。


「…そろそろ、お休み下さい」


眠れない、だろう。
だが眠らなければ体が持たない。
ここ数日満足な睡眠も食事も摂っていないだけではなく、クラウドの食は元々細い。
ただでさえ日頃の悩みの種でもあったことが、此処へ来てそのつけが目に見えるようだった。


「…いやだ」


項垂れたまま答える声はか細く。
細く白い首が露になる。


「姫」
「敬語」
「え…」


呼べば即答され、驚いた。


「敬語、やめてくれ」


自分はもう姫じゃないし、お前も騎士じゃない。
くぐもった声で、それはいじけているようにも聞こえた。


(こちらは心配しているというのに…)


思わず呆れて息が漏れてしまう。
苦笑しながら答えれば。


「…もう、癖ですね」
「…直せ」
「努力致します、あ、」


今度は自分の言葉にふっ、と噴き出してしまい、思わず口を隠して背けた顔で、そっとクラウドを伺うと。
いつの間にか顔を上げてこちらを睨んでいるクラウドに、ジタンは柔らかな微笑みを向けた。
しかし、クラウドの表情は再び沈む。
沈んで、また俯く。


「…ジタン」
「はい」


顔を埋めはしなかったため、はっきりと聞こえた、名を呼ぶ声。
返事をし、クラウドの傍に方膝を着くと。


「…手を…」


小さな声で。


「手を、握ってくれるか…?」


震える声で。


「…今日だけで、いいから……朝が来るまで、ずっと…」


異国に、一人。
自分を築いてくれたもの全てを失っても尚、気丈に振舞う様は変わらない。
それがクラウドの美しさと強さであり、弱さでもある。
王と妃が亡くなって以降、わがまま、弱音を一切見せなくなった、否見せられなくなったクラウドの、それは精一杯の甘えだった。
ジタンは返事をするよりも、クラウドの横に座り、膝を抱えている右手に自分の右手を重ね、力強く握り。
冷えた手に、温もりを分ける。


「…、」


すると強張っていた体が解け、膝を抱えるのを辞め、隣のジタンの肩に、控えめに頭を預けた。
ありがとう、とは言わなかった。
ただ温もりを確かめるように、クラウドはジタンの手を握り返した。











求めたのは、確かな温もりだけ。
繋いだ手を、離さないで。











「…手だけで、満足?」
「…?」


クラウドはその声に顔を上げると、目の前にジタンの顔があり。
あ、と思ったときには口の端に優しいキスを落とされ、右腕で抱き込まれた。
勿論、左手は繋いだまま。


「っジタ…」
「もっと、素直になっていいのに」
「…無理だって、分かってるんだろ」
「…うん、」


知ってる。
だから。


「俺が、素直になるよ」
「え…」


抱き込まれて肩に埋まった顔を上げると、視線が絡む。


「俺は抱き締めたい時に抱き締める。キスしたいときにキスをする」
「何、言って、」


言われながら、額にキスを受けた。


「俺はいつだって、クラウドの傍に居るから」
「ジタン…」
「素直になれ、とは言わないけど、」


耳元で紡がれる言葉。


「けど、だから安心、していいんだ」


力、抜いていいんだ。
そんな風に耳元で優しく言うのは。


「…ずるい…」


呟きながら、空いている右手をジタンの背に回す。


「何が?」
「こんな時だけ、敬語じゃない…」
「ああ、そういえば」
「でも」


嬉しい。
その言葉は小さく、直ぐに消えてしまったけど。


「俺も、嬉しい。クラウドが素直だ」


ジタンの耳にはしっかり届いたようだ。


「…馬鹿」


今言える最大の言葉を伝えれば、お返しと言わないばかりに。
額、目尻、頬。
そして。


「…愛してる」


唇へ、くれた。
愛の囁きという花束と共に。















2月のオンリで無料配布した話でした。
ってうはああああ盛大に恥ずかしいお話すいません…!!
色々酷いものですが;
このお話を書くキッカケを下さったれきさんに最大の感謝を込めて…!!



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