cloud smiles 〜 ep.9





高いところがあれば登る。
それはもう習性とも呼べるほど、ジタンにとっては日常だった。
今日もここらで一番高い枯木の上に登って、辺りを一望していると。


「ジタン」


下から控えめな大きさで名前を呼ばれた。
声のした方に視線を移すと、クラウドが自分を見上げていた。


「おークラウド」


自分に声を掛けるなんて珍しいと思ったが、そういえばよくつるむバッツ、ティーダ、スコール以外はこの習性を知らないのかもしれない。


「そんな所で何をしているんだ?」


興味持ってくれてんのかな。
そう思うと、少し心躍って。


「な、クラウドも登って来いよ」


にかっと笑って、クラウドを誘った。
唐突な誘いに一瞬目を見開いたかと思えば、少し視線を外して考え込んでいる。


(あー、やっぱ普通は嫌だよなあ)


クラウドと似た属性のスコールも以前誘ったが、いい、と一言で制して行ってしまった。
考え込んでくれているだけ、クラウドはスコールに比べて断然優しいと、ジタンはクラウドに対する株を上げた。
そういえばクラウドとあまり会話したことがない。
1対1で話したことも、ない。
バッツたちとの会話でもクラウドの話題もあまり出ないし、クラウドのことを知らないのも無理はないのか。
だからこうして、クラウドの小さな優しさを知ることが出来ただけ良かったと思ったとき。


「…分かった」
「え」


まさかの返事が返ってきた。
外していた視線を再びクラウドに向けると、拙いながらも登ってくるクラウドが目に入った。


(マジ?)


絶対にこういうことをする奴に見えないのに。
案の定木登り経験が低いらしく、危なっかしい動きばかりが目に付き、ハラハラする心を抑えられない。
今更いいからとも言えず、ただ登っている様子を見ていることしか出来なかった。
それでも抜群の運動神経のおかげか、ジタンの居る位置まで登り切った。


「大丈夫か?」
「ああ」


最後に手を差し伸べ、クラウドを同じ枝まで引き上げた。
自分は決して力強くないが、それでもクラウドの体はあまり力を入れずとも簡単に引き上がった。
思わず軽いんだ、と言いそうになったが、今吐くには無粋な言葉かと思い飲み込んだ。


「凄く高いな」
「ここらじゃ一番だからな」


見下ろし呟いたクラウドは、ただ感嘆しているだけのようだ。
これで高い所は駄目なんて言われたらどうしようかと思ったが、だったら最初から登らないかと杞憂に終える。


「ところで何をしていたんだ?」
「ああ、この景色見てた」


問われ、ジタンは真っ直ぐの方向を指差した。
クラウドは登りきって初めて、ジタンの指す方向と辺りを見渡すと、すっと息を呑んだ。


「凄い…」


一望出来る聖地は、普段戦っている時では見られないもので。
輝く粒子、水面の煌き。
素直に述べられる言葉は、ただそれだけだった。


「な、キレーだろ?」
「…ああ」


同意の言葉を聞いて、ジタンは声の方へ視線を移す。
するとそこには、見たこともない表情をしたクラウドが居た。


「微笑ってる…」
「え?」


思わず口を開けて漏れた声に反応して、クラウドがジタンを向くと。


「クラウドの微笑った顔初めて見た!すげーキレイ!」


クラウドもまた見たことのないジタンの迫力に、肩を張って思わず体を引いてしまう。
キレイ、キレイと感動し喜び笑う様に、ただただ困惑するばかり。


「何、言って、」


何度も言われたその言葉は、クラウドにとって嫌悪の対象以外何物でもなかったが、これ程純粋には言われ慣れていない故に、顔に熱が集まっていく。
耐え切れなくなって視線を外せば、ジタンは距離を詰めて顔を覗き込んだ。


「なあなあもっと微笑って!」
「微笑えと言われて微笑えるか!」


右手の甲で顔を隠そうとするクラウドの白い肌が、全体的に薄っすらと色を帯びていく。


(駄目だ、もうこの景色、見れないや)


それ以上に何度も見たいものを見付けてしまったから。
こんな景色よりよっぽどキレイでカワイイものを。











2009/08/16
クラウドの笑顔に純粋に感動しそうだなと思って。

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