cloud smiles 〜 ep.8





「怒っているのか」
「普通怒るだろう」


スコールに問われても足を止めることなく、簡潔に答えだけ返して、クラウドは先を行く。
後ろからスコールがついて来る足音も、クラウドが止まらない限り続くだろう。


「そうなのか」
「…」


いや怒る怒らないは個人差があるだろうが、それでも大半は自分と同じ行動を取るだろうと、クラウドは自ら言い聞かせた。
自分は自覚がないから不本意ではあるが、鈍いと人から言われることが多々ある。
ふと、スコールも同類なのではないかと思った。
鈍いというか、何処か、何か足りないような感覚だが。


(それにしたって、)


いくら怪我したとはいえ、太股を少し切られただけだ。
それなのにスコールは皆の前でクラウドを横抱きにして運んだのだ。
当時、回復魔法を使える物の魔力は底を尽き掛けており、ポーションの持ち合わせもなかったが、合流した他の仲間の力を借りて、怪我は既に消えている。
故にクラウドは居た堪れなくなったその場から直ぐに離れたのだが、スコールが追い掛けて来た。
追い掛けて来て何を言ったかと思えば、怒っているのか、だ。
怒るだろう、皆の前であんな。
その場に居なかった仲間も、当事者にバッツが居たのだから、もう絶対に聞かされて知っているに決まっている。
その事実を考えると、更に怒りが湧き上がる。


「俺は男だ。しかも体格も殆ど変わらないのに…」


軽々と持ち上げられたことを思い出し、クラウドは顔を顰めた。


「クラウドの方が全然細い」
「…気にしてるんだから言うな」


その言葉に足と止めずには居られず、肩越しにじろりとスコールを睨む。
自らの体の貧弱さは誰よりも自分がよく知っている。
しかしお前はそれでいいんだと、何故か必ず言われることが不本意で、いつからか反論はしなくなった。
それでも黙っているのは受け入れているようで耐えられないため、制止はするが。


「…悪かった」
「……いや、」


頑固だと思っていた奴から素直にそんな言葉を聞くとこちらの調子が狂い、一瞬目を見張り、思わず否定してしまった。
スコールはこんなに素直だっただろうか。
依然、我を通し続けて困らせたとバッツから聞いた。
1人勝手な行動も多く、その癖文句ははっきりと言うとも。
それは裏を返せば、素直過ぎるからだとも考えられる。
己に正直に生きているからか。


(…羨ましい、な)


それは自分には絶対持ち得ないものだった。


(素直に、なれていたら)


昔、あの時。
好きだと、アイツに。
伝えられたかもしれなかった。


(もう、叶わないけど)


クラウドは沈みかけた精神を頭を振って浮上させ、スコールに向き直り。


「…気遣ってくれた気持ちだけは、受け取っておく」


これくらいなら、と。
今の自分に言える精一杯の言葉と、微笑みを贈ると。


「やっと微笑った」


そう言うと同時に一瞬で間合いを詰め、クラウドの頭引き寄せて。
キス。


「…っな、」


思わず口を開いてしまい、そこから入り込んできたものがスコールの舌だと気付いた時には、既に自分の舌を絡め取られた後だった。


「…っ、」


くっついた体の間に腕を入れて、スコールの体を押し返そうと試みた。
体は僅かに離れたものの、繋がっている部分が離れる気配はなく、またすぐさま腰を抱かれ離れた距離を詰められてしまったため、無駄な行動に終わる。


「っふ、…っ」


混ざった吐息が口の端から漏れる。
一体今、どうなってるんだ。
気になったが、目なんて開けられなかった。








―――っお前…っ!」


漸く解放された頃、息は既に上がっていた。
言葉を発し難いことこの上ないが、それでも言わずには、聞かずにはいられない。


「何を…っ!」


口元を手の甲で抑え気味に、息と声を荒くして問えば。


「したいと思ったんだ」


そんなあっさりした答えが返ってきた。
最初に湧き上がった困惑と怒り。


「仕方ないだろう」


次に唖然。


「お前の微笑みにはどうあったって惹かれるんだ」


最後は、羞恥だった。


「馬鹿だろう、お前…っ!」


馬鹿、バカ、ばか。
自分こそ一つ覚えみたいに、それしかぶつける言葉が思い浮かばない。
ああ、どうにかしてくれ。
コイツも。
俺も。











2009/08/16
スコールだけ明らかな贔屓ww
そしてちょっとこれだけクラウド視点と、異色になってます^^

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