special privilege







「クラウド、出来たか?」


岩が連なり、見事に自然な更衣室となっている場所で着替えているクラウドに、ジタンは岩陰から声を掛けた。


「…ああ」


無機質を感じさせる声だったが、了承が取れたため、ひょっこり顔を覗かせる。


「そんな顔するなって。折角の美人が台無しだろー?」


振り返った顔は眉間に深い溝を作っており、綺麗なドレスに似つかわしくなく、ジタンは思わず苦笑する。


「台無しでいい」
「ったく、強情なんだもんな」


自らを否定するクラウドの発言に、頭の後ろで腕を組み、溜め息と呆れた声を混ぜて軽く吐いた。
しかしそんな顔や発言をしても、今のクラウドはいつも以上に美しさが際立っていた。
所謂女装アイテムを、クラウドは皆にせがまれて身に着けて終わったところだ。
薄手のシルクのドレスはクラウドの細さと体のラインを主張させ、スリットから覗く足は白さを強調している。
腕も足も決して細くないし、女性のものではないと分かってはいても、女性の格好をすることにより、普段以上に中性的な容姿に磨きが掛かり、女性以上の魅力を生み出しているようだった。
そんなクラウドの見目麗しい様子に、ジタンは満足げに笑みを浮かべる。
この姿を一番に見られる権利を勝ち取ったことはかなり大きい。
バッツやティーダと絡み始めるとまともにじっくり見ることは出来ないと思うと、今のうちに焼き付けられるだけ焼き付けようと、頭から足の先まで視線を滑らせるジタン。


「あ、髪の毛適当にやったな?ボサボサじゃん」


滑らせた視線で気付いた、クラウドのプラチナブロンド。
普段はわざわざ整えなくとも手櫛だけで自然な綺麗な形が出来上がるらしいが、今は適当に付けたエクステの毛先が好き放題跳ねている。


「別にこんなの、」
「だーめ。ほら座って」


クラウドの両肩に手を伸ばし、力を入れて地面に座らせる。
勢いのまま思わず横座りになったことで、ドレスが綺麗に円を描いて広がった。
その時、足の付け根ギリギリの所まで見えつつあることに気付いたジタンは、このスリットはちょっと深過ぎるな、とあざとくチェックし、他の面々に気付かれないよう牽制しようと心に決めた。
そんなことを考えつつ、クラウドのブロンドを慣れた手付きで梳いて整えていく。


「…慣れているんだな」
「まーね。好きだし、こういうの」


クラウドの何処か感心したような言葉に、ジタンはクラウドの柔らかで綺麗な髪に触れられる特権という、小さな喜びを噛み締め、気付かれないよう優しく笑った。


「よしオッケー!」
「…ありがとう」


不本意ながらも、控えめにお礼を言う律儀さを忘れないクラウドに、どういたしまして、と声を掛けながら手を取り、立ち上がらせる。
髪を整えている間に履いたハイヒールによって、身長は割り増しされていたが、他の面々に比べればやはりまだ若干低いとも思える。
尤も、ジタンからしてみれば十分見上げる高さだが、今の特権を思えば気にはならなかった。
そして掌をクラウドに差し伸べ。


「ではお手をどうぞ、お姫様?」
「やめてくれ」


言いたかった言葉を口に出すと、照れ気味で困ったような表情と溜め息混じりの拒絶を示すクラウド。


「何で男が男にエスコートされなきゃならないんだ」
「だって今クラウド、どう見たって女だし」


文句を吐けば、ジタンに当たり前のように言われる。
反論しようにも咄嗟に言葉が出ず、詰っていると。


「それにそんな高いヒールでさ、ちゃんと歩けないだろ?」
「…平気だ」


更に正論を説かれ、先程の言葉に言い返すタイミングを失ってしまった。
その上正論をぶつけられては、少し俯いて小さく抵抗するしかない。
平気だと言ったからには、自分で平然と歩く様を見せなければと、数歩歩いてみたものの。


「っ!」
「うおっ」


慣れないヒールではやはり無理だったらしく、ジタンに支えられて事無きを得たが。
支えてくれた腕は思っていたよりも力強く、自分の情けなさと、それには当てはまらない何かで、クラウドは頬が暑くなるのを感じた。
それにしても、絵に描いたような何てベタな状況。


「ほらな?だからつかまれって」


もう拒否する理由も権利もない、と諦め。


「じゃあ…頼む」


口を少し尖らせつつも、差し出された掌に左手を乗せた。
表情は晴れないようだが、素直に従ってくれたクラウドに優しく笑みを向けて。


「光栄の極みにございます」


空いている手を胸に当てて、頭下げるジタンに。


「ばか」


浴びせるは可愛い罵声。
ただただ嬉しさが増していくのは、きっと気のせいじゃないし、おかしなことでもない。
だってこんなに嬉しいことなんて、ない。








「大丈夫?」


ジタンに支えられて歩くも、歩き難いことは変わりないらしく、何度か危うい場面がある。
支えるジタンも気が抜けず、何度も声を掛けて確認する。


「…ああ。でも…」


先ほどから見せるクラウドの少し困った表情は、どうやら歩き難さにかかっているものではないらしい。
聞けば。


「…恥ずかしい」


とのこと。
見ている人物は限られているとはいえ、羞恥は収まらないようだ。


「えー、でもアナザーのスコールよりかはマシだろ?」


咄嗟のフォローで言った比較対象は、クラウドの目を丸くさせた。
そして直ぐに口元を隠す。


「……まあ確かに、あの容姿でエスコートされるよりは…」


そうなった場合を思い浮かべたのか、クラウドの頬に朱が走ったのを、ジタンは見逃さなかった。


(うわ、自分で言っといてちょっと焼ける)


二人が好き合っているのは知っている。
尤もお互い気付いてないみたいだから、言ってはやらない。
そんな義理もないし、しゃくだし。
何よりこの現状が面白いし。


でもきっと。
好きだと言っても、スコールにはこんな簡単にはなびかなかっただろうと思う。
スコールには簡単に許しはしないけど、俺になら許してくれる。


(これは、俺の特権だ)


使わない手は、ないだろ?











2009/09/07
スコールはその辺に居ますw
てか87←9…?いや今日は97の日だから!
こういうのはジタンの役得というか、特権だと思うのです^^
ああでもアナザースコールでエスコート話も書きたいな^^^^

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