それは願望が表れる、とはよく言ったものだが。





Escort







螺旋階段の下。
スコールはSeeDの制服に身を包み、手摺りに背を預けながら左手の腕時計を見た。
予定時間から2分が過ぎていることに気付き、まだかと言わんばかりに眉を寄せて上を見上げれば。


「……」


カツン、と甲高いヒールの音が響くのが聞こえ、やっとかと型の力を抜いた。
しかし足音の感覚は長いもので、降りてくるのを待っていては予定時間の範囲内に間に合わないと、スコールは足早に螺旋階段を駆け上がり。


「手を貸せ」


ヒールの足音の人物に、数段下から手を差し出した。
しかし、その手を見たまま一向に動く気配はなく。


「どうした、手を貸せ」


少し怪訝な声で再度言えば、ぶすっとした表情で視線を逸らし。


「…嫌だ」


ただ一言そう漏らした。
それは数時間前散々聞いた言葉で、スコールは呆れの溜め息交じりに。


「此処まで来てまだ言うのか。いい加減諦めろ」


任務だろ、と駄目押しを加えれば、また押し黙るしかない。





―――数時間前。
スコールの班にある任務が言い渡された。
これから行われるパーティに出席し、重要参考人とされる人物から、情報を得ること。
メンバーはスコールを筆頭に、ゼル、サイファー、アーヴァイン、セルフィ、リノア、そしてクラウド。
任務を請け負うことに頷いたスコールは、戦力・判断力・そして性格諸々を考慮し、担当を振り分けたのだが―――





「だからって何で俺が女装しないといけないんだ…」


クラウドはこめかみに指を当て、盛大な溜め息と共にそう吐き、自分の格好を再度噛み締める。
鮮やかな紫色の所謂イブニングドレスに、艶のある綺麗でシンプルなハイヒール。
ドレスは背中半ばまで開き、スリットも深く入れられている。
元々線の細いクラウドだったが、流石に肩幅を露出してはバランスが悪く、最悪性別を感づかれてしまう為、そこはストールで隠し、誤魔化す。
髪の毛は、綺麗なプラチナブロンドにあったバンスを付け、後れ毛を演出してアップにし、うなじを強調させる。
こんな格好、クラウドにとって恥以外の何ものでもない。


「リノア達には他に適任な位置に着いてもらっている。お前は後ろで動くには目立ちすぎるからな。逆に人目を集める役の方が適任だろ」


こちらからターゲットに向かうより、ターゲット自ら赴いてくれた方がリスクも最小限に済む。
そんな尤もな言い分に、クラウドは何も言い返せなかった。


「…それ、は、分かったが。エスコートはお前じゃなくたって…」


最後の抵抗の割に、語尾は弱々しい。


「アーヴァインは絶対ボロが出る。ゼルも向いてない。感情のまま動くサイファーなんてもっての他だな。…あと言いたいことは?」


そこにつけ込むように、スコールは止めを加える。


「………ない」
「そうか。じゃあいい加減、手を貸せ」
「……」


敗北したクラウドは渋々手を伸ばし、スコールの腕に回した。
そして漸く螺旋階段を降り切り、パーティ会場へと続く廊下を歩き出した。
廊下にはパーティ参加前の談笑をする人々であふれていたが、その全てが真ん中を行く2人に視線を向けずにはいられなかった。
それほど2人の歩く姿は、美しい動く絵のようだった。


「俯くなよ。顔を上げろ」


ふとクラウドに視線を向ければ、クラウドは足元ばかりをみており、スコールがそう促すが。


「…別に、いいだろ」


俯いたまま顔を背ける。
その態度にスコールは眉を寄せ。


「良くない。明らかに沈んでいる顔でパーティに出たところで、得られる情報も得られない」
「……っ…」


任務の失敗だけはクラウドも避けたい。
故にスコールの言葉に後押しされて顔を上げてみるが、直ぐ下がってしまう。


「さっきから何なんだ」


足を止め、問い詰めるようにクラウドに向き直ると、ぽつりと理由を口にする。


「…お前が、視界に入ると、何か、変だ」
「は?」
「顔が、熱くなる…」


その理由にスコールは一瞬呆気な顔をするが、直ぐに真顔に戻し、額を押さえて溜め息。


「…なんだ、そんなことか」
「そんなことって、」


食って掛かろうとしたクラウドの腰に手を回すと、半ば無理矢理大きな柱の影に連れて行き。
その柱に背中を押し付けられたかと思えば。


「な、」


キス。


「…っ」


思わず開けてしまった口に、容易に入られてしまったスコールの舌。
押し返そうにも、こうなってクラウドが勝てたことは一度もなかった。


「…っ……馬鹿、口紅つくだろ」


既に遅いとは思っても、一応相手の面目を保つ為に言ったのだが。


「付かないタイプのだから平気だ」


つまり、このコーディネートはスコールがしたということで。
今のようなことも計算して考えたのかと思うと、そのことだけで頭が痛いというのに。


「続きは後でな。勿論、その格好のまま」


そう言って額に唇を寄せるこの男。
これ以上、頭痛の種を増やさないで欲しい。


「……任務が、無事終わったら、な」


そんな思いとは裏腹の言葉を吐き。
クラウドはスコールの頬を包んで、自ら唇を寄せた。





























それは願望が表れる、とはよく言ったものだが。


―――……という夢を見たんだ」
「…スコール……」


それを真顔で、しかも本人に報告する奴を、クラウドは初めて目の当たりにし。


(俺に一体、どうしろと…?)


視線を逸らす以外に、何も出来なかった。











2009/11/11
時代背景は一応8ですが、未プレイなので色々目を瞑ってやって下さい…。
公式CPはまるっと無視して87!←
とりあえず、
女装クラウド、SeeD衣装のスコールにエスコートされるの図。
を、夢オチで\(^o^)/

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