最近仲間、と言えるかどうか定かではないが、コスモス側に加わったシャントットの命により、素材集めに奮闘する日々が続いていた。
小さいながらも有無を言わさぬ迫力と実力を合わせ持つ所為か、あのウォーリアでさえどうにも逆らえず、必然とウォーリアに逆らえない面々も従うしかない状態で、今日に至っている。
毎日パートナーと探す舞台を変えて気分転換を図らせて、シャントットなりに気を遣ってくれているようだったが、気遣われる側は結果的に行うことの内容は変わらないため、大した転換にはなっていなかった。


「クラウド、そっちはどうだった?」
「居ないな」


そんな本日の振り分けの一組、フリオニールとクラウドは月の渓谷へ飛ばされていた。
一先ず分かれイミテーションを探すが、最近は出現率が低く、探しても見付からないことが多くなっていた。


「イミテーション狩りに、あいつ等なりに怯えてるんじゃないか」
「かもしれないな…」


クラウドのしれっとした言葉に苦笑するフリオニールだったが、あまりに的を得ている言葉に内心笑えなかった。
此処最近のコスモス陣のイミテーションに対する執念は強固なものになっており、隠れるのも無理はない。
元々存在自体は不確かなものだが、そういった感情は人並みにあるんだと、変なところで同情する。


「だが何も収穫がなければ、またブチ切れをくらうことになる…」
「あれは酷かった…」


クールなクラウドの表情が、思い出しただけで顔が歪む程、その時の光景はまるで地獄絵図のようだった。
集中攻撃を食らったバッツが生きていることを不思議に思うくらいに。


「何にしても、1つでも持って帰らないと…―――っ!?」


フリオニールがそう発しながら一歩を踏み出そうとしたとき、小さな地響きを感じ、咄嗟にグッと膝に力を入れ、思い切り地を蹴って飛び上がった瞬間。
地面から無数の刃が吹き上げるように出現した。


「ぐっ!」
「クラウド!」


反応が遅れたクラウドは、顔こそ両腕で覆って避けは出来たが、足や腕に無数の赤い線が走り抜けた。
滞空していたフリオニールは即座に敵の位置を把握し、重力と闘志によって増したスピードを纏い、一瞬で一掃した。
運よくライズした素材を手にすれば、それはシャントットが捜し求めていたリストにあるものの一つであり、一先ずこれで咎められることはないと肩の荷を下ろし。


「大丈夫か!」
「…ああ、」


膝を付いたクラウドに駆け寄れば、今負った無数の傷から薄っすらと赤いものが浮き出ていることが分かる。


「平気だ、傷は浅い」


数こそは多いものの、傷自体に致命的なものはなく、クラウドの声もいつもの淡々とした口調のままだったため、フリオニールは安堵の息を吐いた。
しかしよく見れば、数ある傷の中、右腕に一つだけ傷口が変色していることに気付いた。


「っ、フリオニール?」


つ、と触れてみれば、クラウドは微かに顔を顰めた。


「まずいな、いくつかの刃に毒が仕込んであったのか、」
「…俺は、何ともないが…」
「毒が回っていないだけだ」


傷が負ったばかりな上、浅かったのが幸いしてか、まだ傷口以外に影響は出ていないようだ。
だがそれも時間の問題。


「あまり動くなよ、動けば回りが早くなる」
「ああ、」


立ち上がろうとしたクラウドを引き止め、フリオニールは制止を促した。
過去こんな手を使ったイミテーションは居なかった為、毒消しは普段から持ち合わせていなかった。
それはクラウド自身も知っている。
尤も毒消し自体は拠点に戻れば有るのだが、月の渓谷からは遠過ぎる。
故に。


「応急処置をする」


フリオニールは何もしないよりマシだと、一度ポーションで口をゆすぎ、念のため傷口にもポーションをかける。


「っ、」


沁みるのか、クラウドは刺激に目を細める。


「痛いかもしれないが、我慢してくれ」
「え…」


言うと、クラウドの腕持ち、傷口に口付け毒を吸出し始めた。


「っ馬鹿、お前まで…っ、」
「毒には多少耐性はある、心配するな」
「っ、」


クラウドは肩を掴んで止めようとするが、自分以上に力強いフリオニールを制止することは出来ず、傷口に感じる脈と熱を誤魔化すしかなかった。


「そろそろいいか」


唇を離すと、再びポーションを傷口に数回かけ、口をゆすいで応急処置を終えた。


「素材も手に入れたし、一先ず拠点に戻ろう。多少回ったとしても、毒消しを貰うまで酷いことにはならないと思う」
「悪い…、」
「気にするな。さあ急ごう」
「ああ」


申し訳なく謝るクラウドを明るい声で後押しし、手を掴んで体を引き上げた。
フリオニールの手を借り、クラウドは膝に力を入れて立ち上がろうとした。
しかし、左足に違和感を感じて上手くバランスが取れず、再び体は崩れた。


「クラウドっ?」
「くそ…足が…」
「見せてくれ」


クラウドが抑える手を除ければ、破れた箇所から覗く白い肌に、黒い色が広がりつつあった。
おそらく毒の類が同じだと思うが、既に少し時間が経っているため、先ほどよりも侵蝕が進んでいるようだ。
遅いかもしれないが。


「吸い出す」
「え、」


そう言い切ったフリオニールに、流石のクラウドも焦った。
何せ、左足の太腿の内側だ、吸い出すということは。


「クラウド、横になれるか?」
「フリオニール、待っ…」


制止も虚しく、肩を押されて仰向けに押し倒される。
そしてすぐさまクラウドの足を掴み、左足の太腿の内側にある傷口に吸い付くフリオニール。
ズボンが大きく切れていたのが幸いし、フリオニールは純粋に吸い易い、と感じた。
吸われる感覚に、クラウドの体が弾む。


「…っ…!」
「すまない、我慢してくれ」


痛みに耐えていると思ったのだろう。
確かに痛みは感じるが、それ以上に羞恥が上回っている。
顔に、声に出したらフリオニールに気付かれてしまう。
良心で行ってくれているこの状況に、羞恥など必要ない。
触れて、吸われて、離れて、そしてまた触れて。
クラウドは顔を腕で覆い、フリオニールのその繰り返しを耐え抜いた。
先ほどと同じく最後に口をゆすいだが、一回多く含んだポーション。
それを口からゆっくりと傷口にかけられた。


「っぁ、」


油断していただけに、少し声が漏れてしまった。


「これで大丈夫だ」


少し息の荒いクラウドだったが、フリオニールはそれにも声にも気付かず、いつもの笑顔を向けてくれる。
毒が少し回っているとでも思ってくれているのだろうか。


「立てるか?」
「…ああ、」


この時ばかりは鈍感で本当に助かったと思い、今度こそ手を借りて、クラウドは自分の足で立ち上がった。

















皆と合流し、クラウドが毒にやられたことを伝えると、一緒に居たフリオニール以外全員に詰め寄られた。
そんな面々にフリオニールの応急処置で助かったこと、だがまだ毒を抜いていないことを告げ、毒消し持っているバッツに手当てをして貰うため、二人は仲間から少し離れた水辺に移動し、腰を下ろした。


「何処やられた?」
「腕と、足だ」


言いながら、傷口を見せるクラウド。


「右腕と……え、内もも?」
「ああ」


バッツの言葉に頷けば、目を見開かれる。


「…フリオニールさ、応急処置どうやった?」


言えば勘の良いバッツは絶対気付く、いやそれ以前にこの様子では既に気付いているだろう。


「……傷口から毒を、吸い出してくれたんだが」


しかし事実以外に応急処置の方法なんて浮かびもせず、クラウドは少し間を置きながらも答えた。


「…内もも、も?」
「ああ」
「口で?」
「…ああ、」


頷く声が段々と小さくなっていくのは気のせいではない。


「それってさ、フリオ、気付いてないの?」
「…気付いていたら、普通に接していれるわけないだろ」
「ああ、そりゃそうだよな…」


バッツみたいに、フリオニールはそういう思考回路には敏感ではないから。


「しっかしな〜…」








「それってすげー卑猥な状況じゃねえ?」
「え…」


ジタンに応急処置の話をしていると、唐突にさらりと言われた言葉で、自分が行った行為の状況をフリオニールは思い出す。


(クラウドを、押し倒して)


顔が。


(内腿に)


段々と熱を持ち。


「……〜〜〜っ!!??」








「……言うなよ…」


バッツに言われ、再び思い出したクラウドは顔赤らめた。


「フリオも普段は変に純情なくせに、ちゃっかりしてんなあ」
「…ちゃっかりとか言うな」


気付いていなかったから、敢えて言わなかったのに。
言ったら。


「ま、とりあえず毒消しますか」
「頼む…って、バッツ」
「何?」


内腿の傷口に顔を近付けようとするバッツの額を、クラウドは手の平を押さえて制する。
するとニヤッと口角を上げて笑い。


「俺だって治療しようとしてるだけだろー?」
(どっちがちゃっかりしているんだか…)


そんなクラウドの呆れた心の声を掻き消すようなフリオニールの大声が、辺りに響き渡った。


(言ったら、きっと今みたいな大声を上げてたんだろうな…)








言わぬが花








WRITE:20100207/UP:20100525
多分沸いてたんです、自分の頭の中が(爆)
でもフリオのイメージはこんな感じで固定されているという←

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