大総統と国の秘密を知ったロイ。
大総統と国に逆らったエドワード。
二人の犯した過ちという正義は暫くは黙認されていた。
そのおかげで何食わぬというには変わり過ぎ、悲惨と言うには普通過ぎる日々を送っていられた二人。
だがそれは長くは続かなかった。
アメストリスの南に位置する国、アエルゴとの本格的な戦争が始まったからだ。
以前からアエルゴとは小競り合いが堪えなかったが、数十年大きな争いには至っていない。
だが今回、理由は不明だがアメストリスが本格的な宣戦布告をした故に、国を大きく巻き込んだ戦いへと発展してしまったのだ。
そして、その火の粉は確実に二人に降り注ぐ。
「待っていたよ、二人とも」
大総統から直々に呼び出され。
「さて、大方分かっていると思うから単刀直入に言おう」
火の粉は炎へと変わる。
「最前線に立ち、敵部隊を殲滅してもらおうか」
断る権利などあるわけがない出来るわけがない、大総統の勅命によって。
「期待しているよ」
後押しされた言葉は、二人には祝福の言葉にしか聞こえなかった。
二人の華麗な死に様を称える、祝福にしか。
自由の代償という生き方
勅命から数日も経たないうちに、ロイとエドワードは国境に降り立った。
既に日は沈みかけていた。
任務遂行は明日、日の出と共に。
それだけを伝えられ、二人を乗せてきた車はその場を去った。
運転してきたのは後方支援部隊だったが、それは名目的なもので、舞台は二人が下ろされた所から数キロは軽く離れている位置に配置されている。
二人の攻撃から被害を受けない距離を計算したのだろう、全く関わるつもりがないと直ぐに理解できた。
しかし見張りがつかないだけ、任務遂行に関しては信頼はされているらしい。
尤も、信頼するしない以前に、二人には遂行という道しか残されてはいないが。
勅命を断った時点で命はない。
ならば、と二人は決めたのだった。
二人が下ろされたのは、国境付近にあった任務地に一番近い町。
その町の人々は既に避難したようで人の気配はなく、建物が閑散しているだけだった。
日が、もうすぐ沈む。
この辺りには明かりがないため、二人は暗くなる前に一晩を凌ぐ家を決め、身を潜めた。
日が沈んだと同時に、ロイが用意してきたランプに明かりを灯した。
毛布などは持ってきてはいなかったが、この時期の夜はさほど冷え込むことはないため、その家にあった布団で十分だった。
持ってきた非常食で腹を少し満たし、二つあったベッドに向かい合うように座る。
「―――これが自由の代償ってやつ?」
エドワードが伏目がちに、ふと自嘲気味に呟いた。
自分の信念ってやつを貫いた代償か、と。
「――自由…と言えるかは分からないが、好き勝手やった代償ではあるな」
ロイもまた自嘲的な笑いを込めて言った。
そして少しの間の後。
「―――エド」
「何」
「本当に、死に行くか」
ロイが問うた。
「……」
エドワードは視線を上げず、また答えもしなかった。
直ぐに答えられなかったのだ。
このまま明日を迎え任務を遂行すれば、確実に死ぬ。
だが勅命を断ってあの場で殺されるより、足掻くことを互いに選んだ。
それはロイも分かっていることだ。
何故今更問うて来るのか分からなかったし、その言い方はまるで生きる選択肢があるように思ったからだ。
「死を、自由と捉えることも出来る。その場合、自由の『代償』ではないがな」
死は、何ものにも縛られない。
そんなこと、分かってる。
そしてそれは、自分にとっては逃げるような道であることも。
「アンタは……ロイは、どうなんだよ」
意図の見えないことを聞いてくるロイに、エドワードが視線を投げ掛ければ。
「お前がそれを望むのなら、共に死んでもいいと思った」
「…本気?」
なんて馬鹿げた答えだ、と馬鹿にした笑いを込めて返したが。
「本気だ」
ロイの顔と声は本気そのものだった。
エドワードは笑いを浮かべるのを止め、問いに対して、またロイの言葉に対して真剣に向き合った。
(俺は…死ねるの、か?)
死に行くことに抗えるものなら抗いたい。
だが、無理な話だ。
大総統は二人の『確実な死に場所』を作ったのだから。
普通の人間ではない二人が確実に死ねる状況は、それは壮絶なものだろう。
死は避けられない、分かっている。
誰よりも、自分たちが。
でも。
「―――…俺…は、」
死ねない。
「…生きる、」
自由になる。
「生きることが、俺の自由だ」
そうだ、生きることこそ何よりの解放。
「…そう言うと思った」
「分かってて言っただろ」
ふっ、と、らしく笑ったロイに、じとりとした目を向けた。
だが言われなければ忘れたままだっただけに、感謝はしなければならない。
突きつけられた現実に自分の主軸が曲がっていたらしく、自分を忘れていた。
そう、どんな逆境でも立ち向かう自分という生き方を。
「一応、確認はしておかないとな」
「何で」
まぁ助かったけど、という言葉は飲み込んで。
「生きる意志は、何ものにも勝るんだ。そう簡単には死ななくなる」
「悪足掻き、ってこと?」
「良く言えば、な」
「何だよそれ」
ははっと自然に笑いを零し、少し重くされてしまった場を元に戻した。
悪足掻き。
悪くないと思った。
自分らしいと思った。
「…ロイは?」
「勿論、生きる」
聞き返せば、予想した答えが返ってくる。
「お前がそれを望んだからな」
「その言い方、俺が死ぬって言ったら死のうとしたのかよ」
「まあな」
「アンタの生死、俺に委ねるとか重いんだけど」
「そう言うな」
ロイは口角を上げて笑みを作りながらおもむろに立ち上がり、エドワードに影を作り。
「お前と死ぬのも良いかと思ったのは本当だ。だが…」
唇に軽くキスを落とし。
「お前と生きる方が良いな」
そのまま覆い被さるように、エドワードをベッドへと横たえた。
ここまでされて悟れないほど、もう子供じゃなくなった。
それほど、体を重ね合った。
「…明日、早いんだろ?」
体を伝う手には抵抗しなくとも、憎まれ口だけはどうにも止められなかった。
「そこそこな」
「全力出して戦わなきゃってのに、こういうことすんだ」
ふっ、と意地悪染みた笑みを零せば。
「必要なことだろう」
返って来るは、思いのほか真面目な反応で。
「はぁ?」
笑みとは一転、怪訝な表情と声を出せば。
「互いを高め合うことは」
「…あぁ、」
それはまた思いのほか、正論だった。
(まぁ、そうだな)
必要だよな、そういうの、って。
「じゃあ、仕方ねぇか」
今日は、真面目な反応と正論に絆されてみようか。
待っている明日に、備えて。
翌朝。
二人は任務遂行予定地に向け歩いていた。
「一つ、聞いておく」
まもなく予定地に着くということころで、ロイが口を開いた。
「何?」
「お前は、躊躇いなく人を殺せるか?」
そうして、エドワードに重い問いを投げ掛ける。
「…」
「情報によると相手は十万を超える。一人一人を殺さぬようにと気遣っていては、お前が死ぬぞ」
「―――……」
過去、エドワードは人を殺したことがない。
それは自分の中で人体錬成と同列の最大の禁忌として在った。
ロイもそれを知っている。
だからこそ、問うてきたのだ。
禁忌を犯す覚悟があるのかと。
「人を殺す覚悟は、」
「あるよ」
しかし結論に至った時間は短かった。
エドワードはロイの目を見て、はっきりと言った。
「…いつ、覚悟を決めた」
「勅命を受けた時」
少なからず、その時に予感していたんだ。
もし意地でも生き残る道を選んだのなら、人の命を奪うことは避けられないだろうと。
覚悟は、既に在る。
「…簡単に決めた訳じゃ、ないだろう?」
「そりゃあ、な。でも…俺も向こうも、命を懸けてるんだ」
戦いなんて、名ばかり。
名の付いた戦の影にあるのは、無数の命。
互いに、戦いに行くんじゃない。
「俺たちは、命のやり取りをするんだ」
ロイが見詰めたエドワードの瞳には、確実な覚悟が宿っていた。
「…そうだな、」
そんな瞳に、ロイはふんわりと優しい笑みで答え、前を見据えた。
(それでこそ、お前だ)
自分が認めた、お前という生き方の未来を、見据えて。
任務遂行予定地は小高い丘。
軍勢はその下に広がっており、まるで黒い海のようだった。
二人は、一歩を踏み出し。
「エド」
「ロイ」
黒い海を見据えたまま、互いの名を呼び。
「「生きろよ」」
それを合図に、同時に黒い海へと飛び込んだ。
俺たちは戦いに行くんじゃない。
死にに行くんじゃない。
自由を掴みに行くんだ。
俺たちは。
生きる為に、行く―――。
07/12/23
遅いにも程があるのですが、やっと50万ヒットお礼話UPできました…!
激久々のロイエドは、自分の中での正当な感じのロイエドになりました。
互いに認め合って、同じ位置に立ってる二人が、生きる為に戦う。
甘いのとかシリアスなのとかも良いけど、こういう感じがやっぱ二人って感じがします。
…タイトルはCC臭が漂ってますが、間違いないです、はい(´∀`;
それにしても自分、まだロイエドを書けると自負していいですかね…(苦笑)
ブラウザでお戻り下さい。