それは。


「んじゃ、確かに渡したからな」
「あぁ」


とても。


―――さて、」


他愛のない話。





trifling







「…何で居んの」
「偶然だね、鋼の」


東方司令部の執務室でロイに報告書を渡したエドワードは、先日手に入れた情報と過去の情報とを照らし合わせるために、同司令部内にある書庫に足を運んだ。
特に急ぐわけもゆっくりと歩いたわけでもないが、扉を開けるとそこには先ほど対面した上司が居た。
確かに書庫の鍵を借りようと一端受付まで足を向けたが、それにしても何故自分より先にこの男が此処に居るのか。


(偶然…?)


エドワードは向けられた笑顔に半疑したが、実際書庫に足を運ぶ回数は自分よりも多いのかもしれないと思い、それを口に出すことを止めた。
そうだ、でなければ自分より先に此処に居ることなど有り得ないのだ。


(まぁ、いいけど)


とにかく今は成すべきことを成さなければ。
そう思い必要な文献を読むだけ読み、いまだ何かしらの文献に目を通しているロイに。


「じゃ、行くから」
「あぁ、また」
「おぉ」


一声掛け、エドワードは司令部を後にした。























「って、何でまた居んだよ?」
「また君か」


今度は図書館で、ロイが既に何冊か抱えているところに鉢合わせた。
エドワードは先日から目を付けていたが貸し出し中だった文献を読みに来たのだが、朝から夕方まで司令部で執務に追われっ放しの身の癖して、まだ昼時にこの男に限って図書館に居るなどおかしいと思った。
今度こそ偶然じゃないだろうと思い問いただそうとしたとき、抱えている文献の背表紙に目が行った。
それはどれも統一されたジャンルのタイトルだった。


(考え過ぎ…なのか?)


だが仕事に必要な資料ならば、中尉が揃えに行く筈だ。
しかし中尉も手が放せない状況にあるのならば、この行動は考えられなくもない。
尤も、エドワードが此処に来ることは誰にも言っていないのだ、分かるはずがない。


「偶然は重なるものだなぁ」


そうだ偶然だ。
これは偶然なんだ。
そう自らに言い聞かせ、読みたかった文献を探した。
そして読み終えた頃には既に館内にロイの姿はなかった。
そこで声を掛けて帰ろうと思って探していた自分に気付き、少し恥ずかしくなり、誰が気にしているわけでもないのに、急ぎ足で図書室を出た。























エドワードはふと思った。


「…っ今度こそ、偶然じゃねぇだろ!」
「何を言ってるんだ。君は自意識過剰だな」
「何ぃ!?」


偶然は何処までが偶然で、何処からが故意なのかと。


「じゃあ何でタイミング良く俺の泊まってる宿の前に立ってるんだよ!」
「あぁ、君たちは此処に泊まって居るのか?初耳だ」
「な、」


納得されたような言葉を返され、エドワードは返答に困った。
エドワードが図書室から泊まっている宿に帰ると、軒先にロイが立っており、流石にこれは偶然じゃないと踏んで言葉を放ったものの、呆気なく否定されてしまったのだ。


「じゃ、じゃあ何で大佐は此処に居んだよ、」


普通に聞いてみるしかないだろう。


「約束をした女性がこの宿の前を指定してきてね。今その女性を待っているところだ」
「…あ、そ、」


これは本当に偶然らしい。
何だか怒鳴り散らした自分が恥ずかしくなった。
しかしこの恥ずかしさを昇華しなければ引き下がれない。


「ったく、ここまで偶然が続くと嫌がらせみたいだぜ」


そう自嘲気味に小さく吐いた言葉がロイにも聞こえたのか。


「嫌がらせとは心外だな」
「あ?」
「そっちこそ、偶然じゃないと言ってきたということは私が君を追っていたとでも言いたいのか?」
「っ、」


エドワードを、否エドワードで遊ぶような楽観的な口調で返してきた。
エドワードの台詞の裏を返した言葉、つまりは本心を追求され、顔に熱が集まっていくのを感じた。
此処まできたら何が何でも発散するしか収める手立てはない。
こうなったら売り言葉に買い言葉。


「こういうのを何と言うか知っているか?頭の良い自意識過剰の最年少国家錬金術師君?」
「っテんメェ〜っ!」


血管がブチ切れそうなほど頭に血を上らせ、思いっきり握った鋼の拳をお見舞いしてやろうと、振りかぶろうとした瞬間。


「あっはっはっは!」
「っ!?」


いきなりロイが腹を抱え、大声で笑い出した。
今までそんな笑い方をしたところを見たことがなかったエドワードは、思わず目を見開いて固まってしまった。
爆発寸前だった怒りも、おかげで萎えた。
だがその笑いは一向に止む気配がない。
一人笑っているのも気味が悪いし、いい加減再び腹が立ってきた。


「オイ、いつまで笑ってんだ」


少し苛立たしげに制止すれば、漸く息を整えようとする。


「はー…あー、すまない、つい、な」


笑い声は止んだが、顔はまだ笑ったままだ。
しかしその顔が嬉しそうなのは気のせいだろうか。
だがそんなこともうどうでもいい。
とにかくもう関わりたくなかった。


「あっそ。んじゃ思う存分楽しめよ!」


だから捨て台詞を吐いて、さっさと部屋に帰ろうとしたのに。
背中を向けた途端。


「嘘だよ」
「……は?」


思わず振り返させられた。


「本当は君に逢いに来た」
「っ、」
「約束なんて、嘘だよ」


一体、今度は何を言い出すんだ。


(俺に、逢いに来た?)


約束が嘘で、俺に逢いに来て。
じゃあ、まさか。


「……書庫も、図書館でも、」
「君の行動範囲はある程度限られているし、どう動くかも大体把握していたからね。先回りなんて造作もないさ」


それはつまり、本当は。
偶然じゃ、なくて。


「…っテメ、やっぱり…っ!」


自分が言ったことは全部正しかったのに、コイツの嘘に三回とも嵌められたってことだ。
例え自ら嵌って行ったとしても、今回は俺の所為じゃない。
全部、恥ずかしかったのとか全部。


「まぁ落ち着け。折角だから食事に行こう」
「何が折角だっ!!」


お前の所為だっ。














07/02/12
原点に戻って、何か他愛ない話を書きたいと思って出来ました。
意味通りホント取り止めのない…(苦笑)
改めまして、50万ヒットありがとうございました!v
此処まで充実して日々やってこれたのも、一重に暖かく見て下さった方のおかげです!
緩くぬるーい話ですので、そんな感じを感じ取って貰えたらそれで十分です(笑)
何はともあれ、まだまだロイエド、頑張りますので!


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