幼いながらに読んだ難しい推理サスペンスの本。
その一説に、犯人が殺して欲しいを請う台詞があった。


頼む、殺してくれ。


と。
俺はそこを読んだ時に。


何で殺して欲しいなんて請うんだよ。
だったら自分で死ねばいいのに。
手を汚して、それで自分を殺してくれだなんて、一体何考えてんだか。


って。
その時は気付かなかった。
その言葉に隠された真意を。
かと言って別にあの日、思い出したわけじゃないんだけど。
ただ今なら分かる。
犯人が請うた、真意が。




茨の海






ただ純粋に願っていた。
もう一度母さんに会いたい、と。
笑顔が見たい、と。


それを支えに俺たちは貪欲に錬金術の知識を欲した。
蒸発した父の書斎に入り浸り、ランプ一個を俺とアルの間に置いてその明かりを頼りに、毎晩寝ずに知識を詰め込んだ。
正直、錬金術という高度な知識をただのガキ二人で独学で学ぶには限界があった。
だから師匠に出会えたことは本当に幸運だと思った。
分からなかった部分が分かって、持っていた他の知識と繋がった時、本当に嬉しかった。
師匠との修行は辛かったこともあったし、分からなかったこともあった。
でもそれでも頑張れたのは、俺たちの目的があったからで。
目的というより、ただ幼いながらに純粋に思っていたこと。
普通の子供が、普通に思うこと。


もう一度、また俺たちと一緒に笑ってくほしい。


ただそれだけだった。
それだけだったのに。


俺たちは気付けなかった。
もう一度、なんて願ってはいけないことを。
願っても、叶わないことを。
努力でそれを埋めることはできないということを。
人の力では、できないということを。


どうして気付かなかったんだろう。
もう一度、なんて。
二度とないのに。








錬成陣に俺たちが手を置けば、大きな練成音と共に風がおきた。
俺たちは高鳴る感情を抑えて、目の前に現れる母さんを待った。
でも。


「…兄さん、何か変だよ……」


先に異変に気付いて声を出したのはアル。
それに俺も周りを見た。
風が、黒い影を纏っている。
そしてそれが、アルの左手に絡み付いていくと気付いた時には、もう遅かった。


「アル!!」


名を呼んで俺はアルに駆け寄ろうと、立ち上がろうとした瞬間。
左足からバキ、という鈍い音が聞こえた。
見れば、すねの辺りから分解されていくように足が実体を失っていく。
消えて、いく。


(リバウンドだ!!)


瞬時に悟った。


「兄さん!兄さん!!」


アルの声に、手を伸ばした。
アルも俺も手を伸ばしているのに、黒い風が邪魔をして届かない。


「アル―――っ!!」
「兄さ、」


手が届くと思ったのに、アルの姿は消えて。
アルの声は途切れて。
次に目を開けた時。
俺は扉の前に、いた。








――――――っっ!!!」


現実世界に意識を戻された俺は、物凄い激痛に左足を押さえた。
けど俺はここに居ることを証明している。
なのに。


「…アル、アル!アルフォンス…っ!」


アルは、居ない。


「こんな…こんなはずじゃ…!」


どうして俺だけ此処に居る?
どうしてアルが。


「助けて…」


無意識に出た言葉。


「誰か…母さん…!」


無意識に錬成陣を見た。
居たのは、いや、あったのは。
人、成らざるもの。


「うそだ…ちがう……こんなの……」


違う。
こんなのを望んだんじゃない。


「アル…」


俺の所為だ。
俺の。
全部俺の。


「…っ!」


そこからはもう無我夢中で。
止血をして、近くにあった鎧を倒して、中に印を書いた。
血で濡れた指で。


「返せよ…」


俺の弟なんだよ。


「足だろうが!両腕だろうが!」


心臓だろうがくれてやる。


「だから!返せよ!!」


俺の命なんか。


「たった一人の弟なんだよ!!」


いらない。














――――


どうして。
どうして俺は生きているんだ。
いらないって。
いらないって言ったじゃないか。
俺の命なんかいらないって。
なのに何でアイツは腕一本しか持っていかなかったんだ。
全てを捧げてでも俺はアルを返して欲しかったのに。
どうして、腕だけ。


――――…)


どうして生きているんだ。
アルをこんな体にしておいて、どうして。
罪を犯しておいて、どうして。


「…っ!」


―――…?)


体が、揺れた。


「何だあの有様は!」


罵声が、聞こえた。


「何を作った!」


ああ、そうか。
俺があんなものを作ったから。
俺の罪を裁きに来たのか。
でも、裁きなんていらない。


「ごめんなさい…」


何、言ってんだアル。


「ごめんなさい…許してください…」


いらない、俺。
許しなんかいらない。
裁きなんていらない。
ただ、俺は今。


死にたい。


両手を合わせようとした瞬間、俺は心の何処かで死を願った。
アルをあんな体にしておいて、生きることなんてできないから。
死にたかった。
死に、逃げたかったんだ。
だから、アイツは俺を生かすことを選んだ。
罪を背負って、苦しんで生きろと。


でも今の俺には、生きる資格さえ、ない。


なぁ。
アンタ、軍人なんだろ。
アンタは、俺を殺せる?
俺を、殺してくれる?


殺してくれよ、俺を。


「ただ私は可能性を提示する」


―――え…)


可能性なんて。
俺にはいらないものなのに。
アンタは、何を言ってるんだ。


「このまま鎧の弟と絶望と共に一生を終えるか!」


絶望と一生を終える。
一生、を。


(俺、は――


俺はまだ、生きている。
アルも、生きている。


「元に戻る可能性を求めて軍に頭を垂れるか!」


俺はまだ、何もしていない。
前を向いてもいない。
立って歩いてもいない。
ああ、足がないんだっけ。
でも、地べたを這い回ることくらいできる。


(まだ、何もしていない…)


――――決めるのは、君たちだ」


生きる資格は、ない。
けど俺は可能性を提示してもらった。
だったらその可能性に縋って、罪を背負えと与えられた生に縋ってでも。
生きたいと、思っていいだろうか。


「来るでしょうかあの子達」
「来るさ」
「たいそうな自信ですね。あのエドって子、再起不能のような目をしてましたけど」
「そうかね?」


(…必要なのは、強い意思…)


「あれは―――


焔の点いた眼だ。














俺は生きる。


「アル、もう少し我慢してくれな。…俺が元の身体に戻してやる」
「うん、その時は兄さんの身体も一緒にだよ」


俺は馬鹿だ。
アルをこんな身体にしたままじゃ、死ねないよな。
死んで逃げることなんて、最初から許されてなかったんだ。
責任は取らなきゃならない。
だから俺は何が何でも生きる。
それが俺の存在理由だから。
そして。











「よう中佐」
「君がもたもたしてる間に大佐になってしまったぞ」


覚悟はできたのかね?


(…必要なのは、強い意志と)


そして、覚悟。


「なんなら尻尾も振ろうか?」
「よろしい、ならば連れて行こう」


アンタは。
俺がそう言った時、冗談だと思って笑ったけど。
それでもいいと思ったこと、知らないんだろうな。


(俺に焔を点けたのはアンタだ)


そして強い意志と覚悟を引き出したのもアンタだ。
アンタが居なかったら、俺は今此処に居ない。
生に執着させてくれたこと、俺は感謝している。
だから、アンタは知らなくてもいいけど。


「中央へ!」


アンタの為になら、いつでも命を懸ける強い意思と覚悟があるということ。
それを抱いて俺は、生きるから。








END.


05/08/19
突発キリ番333333を踏んだ相良栞様のリクエストで、
エドがロイに向かって「殺して欲しいんだ」と言わせて欲しい…とのことだったのですが…
な、何と言いますか消化しきれていないにも程があり過ぎて申し訳ありません…!(爆)
ロイエドにもなりきっていません…ギリでロイ←エド…(自滅)
殺す殺さないは任せて頂いたので、死ネタが鬼門の私は当然殺さない方向で…。
そして私の中でエドはロイには絶対面と向かって上の言葉は口には出さないという変な了解があるといいますか(爆)
そんな理由で心の中で言う、ということに…。
あと殺して欲しいと思う=命を懸ける、と曲解してしまったのですが…。
ああもう駄作で本当に申し訳ありません…!
こんなのですが少しでも喜んで頂けたらそれだけで!
相良様、リクエストありがとうございました!!


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