特別な意味もあれば、軽い意味もあるし。
俺はそんなに深く考えたことなんてねェけど。
アンタにとっちゃ、特別な意味の方が強いってことだろ。
だからって、そんなに態度で示さないで欲しいんだけど。
でも、よく考えれば。
It is childish.
「だから、覚えてねェんだって…」
「君が覚えていなくとも、私ははっきりと覚えているんだが」
だめだこりゃ。
と、エドが脱力したのは大佐執務室のソファー。
机を挟んで向かいのソファーで踏ん反り返って、何処となくピリピリとした雰囲気を作り出しているのがロイである。
何故ロイがこんな状態にあるかと言うと、今日の二人の会話の始まりから遡ること、一日。
つまりは昨日の出来事が原因なわけで。
昨日、何故か東方司令部ではいつのもメンバーで酒盛りが開かれていて。
偶然そこに居合わせたエルリック兄弟は、酔っ払った面々にハメを外せと散々騒がれ、結局エドだけその酒盛りに参加したのだが。
兄のストッパである弟のアルが、居てもどうせ飲めないから、と理由をつけて先に宿に帰ったのが間違いで。
調子に乗ったハボックやブレダがエドにがばがばと飲ませるもので。
エドも思ったより美味しいと感じた酒に、これまた調子に乗ってコップに注がれた液体を一気に近い勢いで飲み干すものだから、それに感化されてまたハボックとブレダが、と堂々巡りになり。
仕事の関係で皆より一時間ほど遅い参加となったロイが来た頃には、既にエドは出来上がった状態になっていたのだ。
ロイとしては、軍人としての立場を考えれば本当は注意すべきなのだが、別に未成年の飲酒に五月蝿く言うつもりはなかった。
この子はどうやって疲れを癒すのだろうか。
そう思うと、むしろ酒が入って少しでも軽い気分になり、日頃の疲れを潤してくれるのなら、と歓迎するくらいだ。
そう、歓迎したかったのだが。
「あ、たいさぁ」
部屋に入った途端、とろんとした目を、しかも上目遣いで向けられて。
頬はほんのり上気していて。
体からは余計な力が抜けている所為か、いつもと違い雰囲気や物腰が柔らかくて。
更に気分が良いのか、顔は常に緩んで、楽しそうに笑っている。
「…」
以前一度だけだが、同じ状況に陥った記憶があるが。
気のせいだろうか、以前より全てにおいて艶が増しているような気がしてならない。
ロイは常日頃エドに敏感で一瞬で気付いたわけだが。
最初からのエドの変化を見てきたのなら流石に奴らももう気付いているだろう、と視線を向けてみれば。
「んだよエド!大佐なんてほっといてよ!もっと飲めって!」
「おー」
さも楽しそうに、もっと言えば幸せそうに酒を注いで、嬉しそうに肩なんかを寄せている。
エドもそれに抵抗せず、言われるがままにコップを煽っている。
さっきも思ったように酒を飲む分にはなんの問題もない。
だが、こうして仕事で参加が遅れた上官に労いの言葉の一つもなく、構うのは皆エドだけで。
しかも先程挙げたエドの容姿を存分に味わっているとなれば。
エドに真っ当とは言い難いが、確かな恋愛感情、愛情を持っている身としては耐えられるわけがなく。
だからといっていきなり声を張り上げるというのは流石に流れからしてどうかと思われたので、何とか押さえて。
「エド」
「?」
敢えて二つ名ではなく名前を呼んで、隣にどかっと腰を下ろし。
エドが両手で包むようにして持っているコップをさっと取り上げて。
「今日はもうやめておきなさい」
「あ!なにすんだっ!」
そう言えば、抗議の声が部屋に響き。
そして、取り上げられたコップを追いかけるように伸びるエドの手の片方を絡め取り、ため息を付くロイ。
「流石に飲みすぎだろう…」
「へーきだっ!まだおれはのむんだよ!」
そうは言っても、舌が回っていないのは明らか。
酔っ払っているとはいえ、一応自我は残っているらしい。
しかし重要なのはそこではない。
人によっては笑い上戸や泣き上戸という癖があるが、エドはどうなのだろうか。
以前はそうなる前に止めに入ったものの、今回は結構な時間が経っている。
果たしてエドは悪い酔い方をしないのだろうかと心配でならない。
誰かに聞こうにも、中尉が居ない今、まともな自分を保っているのは見た限りエド本人しか居ないわけで。
見た目は酷く酔っている様子はないので大丈夫だとは思うが、と半信半疑でエドに問いかけようとした時。
「ったく、大佐は固いっすねー…ほら、エド」
「お!さんきゅ!」
見兼ねたハボックが新しく酒の入ったコップを差し出してやれば、エドはそれを嬉しそうに受け取ると。
何の躊躇いも戸惑いも疑問もなく、ハボックの頬にキスをした。
「!!?」
その光景を目の当たりにしたロイの頭は一瞬でパンクしそうになり。
それでも何とか堪えて、無言でエドを引き剥がし。
「?たいさ?」
「…そろそろ、帰ろうかエド」
何、と訴えるエドはこの際無視し、ひょいと肩に担ぎ上げた。
が、エドはまだ飲み足りないのか、嫌だ嫌だと首を振って、下ろせとまた訴える。
しかしここで退けば、どうなるか分かりきったこと。
どうせまた見せ付けられるに違いない。
一体どれだけあの行為を繰り返していたのかと思うと、全員を殴り倒しても足りないくらいだ。
とにかく今は二人きりになりたい。
「…私の家に、これよりも美味しい酒がある」
私の家で、飲み直そう。
肩越しにエドと視線を交わして言えば。
「ほんとか?」
「あぁ、嘘は言わん」
本当に元々美味しい酒は腐るほどある。
嘘ではない。
酒があるのは嘘ではないが、飲み直そうというのは本音ではない。
ただの、誘い文句であることを、今のエドは気付かないだろう。
後で何を言われてもいい。
「じゃあ、いく」
エドとの、時間が欲しい。
ハボックたちの講義を受けながらも、そういった理由でエドを連れ帰ったはいいが、エドは家に着いた途端に寝入ってしまい。
二ケ月にも渡る長旅から東方司令部に着いたと知っていたロイは、起こしてまで情事に及ぼうなどとは思えず、結局その日は終わってしまい。
何も聞けずに終わってしまい。
翌日となる今日、エドと一緒に出勤し、今に至るわけで。
「で?一体誰に何回、キスを?」
「アンタ俺の話聞いてんの?」
覚えてねェっつの。
酒を飲み始めた頃の記憶しかないのに、そんなに細かい所まで覚えているわけがない。
それでも聞くというのだから、見当違いである。
それこそ少尉たちの方が酒に強んだから。
「そんなに知りたきゃ、少尉たちに聞けばいいんじゃ…」
などと呆れ気味にそっぽを向いて言えば、視界の端に映る顔は益々苦いものになり。
「聞けるか、そんなこと」
思い出しただけで殴りたくなるというのに。
と、聞き逃せない言葉が聞こえて。
「はぁ!?」
何言ってんだこいつは。
別にそんな深いキスじゃなかったということは、大佐の態度で大体感じ取れる。
それこそ深いものだったら、大佐の思考からして殺すとか言い張りそうだ。
だが頬に、軽いものだというのだから。
「つか、そんな気にすることでもさぁ」
そんな、怒らなくても。
ぽそっと呟けば、今度はロイがそれを聞き逃さず。
血相を変えて立ち上がって。
「気にするだろう!!」
「な、」
エドが何だよ、という暇もなく。
「いくら酒で記憶がないとは言え、君が私以外にキスした事実は変わらない!それも私の目の前で!
私が君を愛していると分かり切っていて、そんなことを言うのか!?
気にするなと言う方が無理だ!」
と矢継ぎ早に言われ。
目を丸くして見ているのに気付いたのか、はっと我に返ったロイは。
「…あー、すまない…」
つい声を荒げてしまった、と額に掌を当てて顔を半分隠しながら、またソファに腰を下ろした。
それから少し無言の時間があって。
その間にエドは少し、後悔していた。
自分だって、大佐が目の前でそんなことをすれば、ぶち切れるに違いないのに。
それを、そんな気にすることでも、なんて言って。
そりゃ、気にするよな。
それだけ、好きだって言ってるようなもんなのに。
「…」
エドは照れ隠しに口を少し尖らせつつ、すっと立ち上がってロイの居る反対側へ行き。
ロイの座っている隣に腰を下ろした。
ロイも気付いたのか、額に当てていた手を取って、エドを見る。
「…あー、その、なんだ…」
呟きながら、そっぽを向いて。
小さい声で。
「ごめん」
と、言った。
もっとちゃんと主語と修飾語をつけて言えればいいんだけど。
今の自分の気持ちを伝えられる言葉は、それしか浮かばなくて。
「…ごめん」
もう一度、呟けば。
エドには見えていないが、ロイは少し、優しく笑って。
「…少し、大人気ないことをしても、いいかな」
その言葉に、エドが疑問符を浮かべて振り向くより早く。
ロイが、エドの体ごと自分に向けて。
エドは気が付けば、顎を掴まれて口を開かされて。
「んん゛っ!?」
そのキスは舐めるとか触れるとか、そんな優しいもんじゃなくて。
勿論軽いもんでもなくて。
食われるかと、思った。
口というか、唇ごと、食われるかと思った。
それくらい大佐の口が、大きく覆い被さってきたんだ。
「んーっ、」
でも結局、最後はやっぱり深く、優しい。
甘いもんに変わるんだけど。
「―――っにすんだ、テメェ!」
「言ったじゃないか、大人気ないことをしてもいいかって」
「言っただけだろうが!俺は許してねーぞ!!」
口を介抱された矢先。
ぎゃいぎゃいと講義をするエドに気圧される気配もなく。
エドが顔を赤らめていたというのもあるのだろうが、それ以上に何故か満足そうな顔で。
「しかしなぁ…」
あんな顔で謝られては、私も謝らずにはいられないしなぁ。
さらっと言われたが、何かが引っかかる。
「って、ちょっと待て」
「何だ?」
「アンタ、いつ謝った?」
そうだ、俺は一言も謝罪の言葉なんて受けてないぞ。
問い詰めれば。
「謝ったじゃないか、キスで」
「…」
またあっさりと言われて。
「あー…」
何。
あー、そゆこと。
つまりアンタの謝罪は、行動で示したってわけ。
「って性質が悪ぃんだよ!!」
結局、仲直りしたのかどうか定かではない前に。
喧嘩したこと自体、定かではないのだが。
俺は何かまた。
やられた気分だ。
END.
04/12/17
まずは20万ヒット、本当にありがとうございました!!vv
こんなに大きな数字には縁のない奴なので、本当に舞い上がっております!(爆)
そんなテンションの中書き上げた話ですが。
正直大佐の「大人気ないことをしても〜」の台詞を言わせたいが為に書いた話です(笑)
他は後付なので変な構成になってしまいましたが(滝汗)
大人気ない大佐、書けて楽しかったです(笑)
ではでは!これからも宜しくお願い致します!
ありがとうございましたvv
ブラウザでお戻り下さい。