南部とまではいかないが、東部の夏もそれなりに暑い。
朝から既に20℃を超える、そんなある日。


ループ&ループ




「暑いんすけど」


書類を取りに来たハボックは、机に向かってペンを動かしているだけで汗だくになっている上官に据わった目で言った。


「私だって暑いに決まっている」


ペン先をばきっと折って、同じく据わった目でハボックを見る。
互いに重い軍服は着ておらず、ハボックはタンクトップ、ロイはワイシャツというラフな姿。
軍服は一応夏でも対応できるような作りになっているのだが、それでも今日には耐えられない。
それ程この部屋の気温が異常であることを示している。
それでもまだカラッとした暑さであることがせめてもの救いである。


「何か涼しーくなるようなことってないっすかねー…」


ロイから書類を受け取って確かめながら呟くハボック。
書類が少し湿っているのはロイの手の汗の所為だろうか。


「そんなものがあったら当にやっているな」


言いながら新しい書類に嫌々手を付け始める。
本当はしたくないのだが、暑いからといって止めてもこの暑さがどうにかなるわけがなく。
少しでも気を紛らわせようとこうして泣く泣く仕事をしているだけである。
夜になれば少しは気温が下がるのだがな、などと心の中で愚痴っていると、ふと思い出したことが。


「…そうだな、思い当たらんでもないが」
「何かあるんすか?」


ロイが顎に手を当てながら言ったことに、ハボックは期待の声を上げる。
それにロイはにや、と何か企んでいそうな笑みを返しながら。


「まぁ今、というのは無理だがな。夜の楽しみに取っておけ」
「…?」


出張で夏でも涼しい北部に出張に行っているホークアイ以外、ロイの側近達は偶然にも、皆本日は残業で、終わるのは九時以降となっている。
となるとその後の楽しみ、という所だろうか。
正直大佐がそういう顔をした時はろくな事じゃねぇんだろうけど、と思いつつも、ハボックはこの暑さを忘れられるならそれでいいと言い聞かせ。


「じゃあ他の奴等にも声掛けときましょうか?」
「そうだな」


残業終了後、ここに集合ということで話が付いた。











「…で、俺らにも声掛けたってワケ」


数時間ほど前にエルリック兄弟が東部に着いたと連絡を受けて、重要な話があるから来いなどと大袈裟に言い、二人を司令部へと来させたロイは、少しの悪気もなさそうにただ笑っている。


「どっこが重要な話だよ。急いで来て損したぜ…」
「まぁいいじゃないか。楽しいことは少しでも大勢で味わった方がいいだろう?」


そんな名目で集まったハボック、ブレダ、ファルマン、フュリー、エド、アル、そしてロイの七人。
暑さを忘れられる楽しいことがある。
そうロイに言われて集まったのはいいものの、一体何をするのかは一切知らされていない。


「で?何すんだ?」


エドの言葉に他の面々もそろそろ教えてくれてもいいじゃないか、との声をロイに浴びせ、ようやく。


「暑さを忘れ、心の底から涼しくなれる事といったら、一番適した事があるだろう」


ロイは偉そうに腕を組み、口の端を上げて笑いながら。


「肝試し」


そう言った途端。


「えぇぇえ!?」
「またっすかぁ?」
「この間似たようなことやったばっかじゃ…」
「というか物理的なことではないんですね…」


フュリーからは恐怖にも似た叫びが、ハボックとブレダからは呆れた声が、ファルマンに至っては現実的な意見を述べるなど、周りから一気に非難の声が上がる。
それは流石に気に触ったのか、ロイも嫌そうな顔をして。


「何だその言い草は。聞いてきたのはそっちだろう。私はそれに提案してやっただけだ」


自分の言い分を述べ、被害者だと言わんばかりに堂々としている。
別にどうでもいいぞ、と言っておきながらも、やらないとなるとどうせ何か理由を付けてやろうとするのがこの上官であることを皆がよく知っている。
特にハボックは、昼に見たロイの笑みには絶対何かあると踏んでいる。 となると。


「…やりましょう…!」
「ってやんのかよ!?」


エドのツッコミも聞かず、あの怖い系が大の苦手なフュリーですら何故か分からないがこんなにやる気を出しているんだ、残りの三人が乗らないわけにはいかない。


「…フュリー曹長が言うなら…なぁ、」
「やるしかないよなぁ…」
「そうですね…」


というか、ただ単に後々の上官の八つ当たりが怖いだけだったりするのだが。
何はともあれ、東方司令部メンバーの参加は決まった。
残りは。


「エルリック兄弟は?」


ということでハボックが聞く。


「えー俺は面倒だし…」
「でも兄さんさっき暇潰しには丁度良いって言ってたじゃん」
「それは肝試しするなんて知らなかったからだろ?」
「結局暇なことには変わらないけど」


微妙なやり取りに、参加したくないエドと、参加させたいアルの意識が感じ取られる。


「…お前は俺に参加させたいのか?」
「うん」


だって兄さん、暇だと『暇だ暇だ』って煩いんだもん。
頭の回転が速いエドは、それが言葉を変えればウザイということに直ぐ気付いて、苛立ちが込み上げ。


「あー分かったよ!参加してやるよ!そん代わりアルもだかんな!」
「え、ぇえ!?」


その発言にアルは焦って兄にすがるが、聞く耳も持たない。
と。


「ではこれで、全員参加が決まったわけだ」
「「「「「「あ…」」」」」」


結局はロイが満足するだけだということを、皆が忘れていた。











そういうわけで、開催されることとなった肝試し。
フュリーの必死の頼みで、今回は二人一組のペア制となった。
しかし一人余るわけで、あまった人物は一人で、というある意味罰ゲーム的な役回りとなるという事で意見が一致。
あとは一番重要なペアの相手。
ここは一番やる気のない、幽霊や怪奇現象など平気そうなエドが標的となるわけだが。
取り合いになるのは目に見えているため、ペアは不公平のないようにくじで決めることに。
そしてくじを引いた結果。


「「「「「何で」」」」」


司令部メンバーとアルが見る先は。


「鋼のとか」
「…えー…」


嬉しそうなロイと、嫌そうなエドがいる。
絶対仕組んだんだ。
そう皆の心が一つになっていると気付き、明日から大佐に当たる風はもっと冷たくなることだろう、とアルは一人心の中で合唱した。
さて順番とペアは次の通り。
1.アル、フュリー。
2.ブレダ、ファルマン。
3.ロイ、エド。
残ったハボックが四番目に一人で、となる。


「何で俺!?」
「運がなかったな」
「そんなっ…」
「では夜も更け、月も出ていないという最高のシチュエーションが揃ったところで、早速やるか」


ロイは一言だけ労いの言葉を言うと、さっさと進行を進めてしまう。
哀れとしか言いようのないハボックに、皆で合唱。











一番手、アル、フュリー。


「良かったー、アルフォンス君だと心強いよ」
「そ、そうですか?」
「うん、だってそんな格好しているからね。幽霊の方が逃げていくよ」
「でも僕、こういうのって大の苦手なんですけど…」
「え」
「…」
「…」


二人が行って数分もしないうちに、叫び声が聞こえてきたのは言うまでもない。





二番手、ブレダ、ファルマン。


「この間やったばっかだからなー。あんま怖いとかねぇな」
「それに場所も同じですからね」
「まぁこっちにとっちゃ都合が良いつったら良いんだけど」
「あ、ではまた怪談でも話しましょうか?そんなに怖くはないですが」
「……いや、いい…」





そして三番手。


「何かさ、皆がまたかーとか言ってたけど、前も肝試しやったのか?」


暗い倉庫の道なりを歩きながら、エドは問うた。


「あぁ、似たような事を数週間前にね」


そう言って第十三倉庫の怪などと呼ばれていた話をエドに話し、その結末を聞いてけらけらと笑う。


「うっわ、下らねー」
「そう、下らないことだよ」


アンタも災難だったな、とロイの方を向いて言った時。
近くの草むらでガサリ、という音があたりに響き。


「う」


エドはびっくりして、ある程度空けてあったロイとの距離を一気に詰め、おそるおそる後ろを確かめる。
そのエドらしからぬ様子に驚いたロイは目を開きっぱなし。
こんなことで怖がるような性格だっただろうか。
ロイの知るエドは、自分と同じく現実主義で、怪奇現象の話を聞いても平然としているはず。


「怖い、のか?」


理由を知りたくて、直入に聞くと。


「な!ちげーよ!!」


そう叫んだ時の顔は何故か心なしか赤く。
それを指摘すると、エドは益々赤くなる頬を隠しながら、何かに観念した様子で。


「…いつもならさ、気ぃ張り詰めて、ああいうのに結構敏感になるんだけどよ…」
「?」


続く言葉はどんどん小さくなるが。


「アンタが、傍に居るって思うと…何か…安心しちまって…」


安心する。
確かにそう聞き取れた。
だが理解するのに珍しく時間がかかってしまって。
それにエドがそんな台詞を言ってくれることなど、一年に一度あるかないか。
だから逆に。


「…って、何でアンタが照れるんだっ!!」
「いや…」


免疫の少ない私の方がやられてしまったらしい。
これは、何と言うか。
嬉しいとかそういうのを通り越して。
至福を、感じた。


「あー、ったく!とにかく早く進もうぜっ!少尉が来ちまう!」


目を合わせられない位なのか、あさっての方向を向いて言う。
それもまた嬉しくて。


「エド」
「っ、何…」


思わず名前を呼んで。
少し先を歩いていたエドに近付いて。
自然に左手を取った。


「!」
「もし何かが出てきても、見せ付けてやろうじゃないか」


いけしゃあしゃあとした台詞だったが、いつものように偉そうな物言いではないのにエドは気付いて隣のロイを見上げると。


「…恥ずかしー奴…」


薄暗くてよくは見えなかったが、幸せそうに笑う顔が広がっていて。
ふざけんな、とか言って振り払おうとしたことも忘れてしまって。
そう言って、ただ握り返すことしか出来なかった。








しかしゴールする時までその手を放そうとしなかったのには流石にどうかと思われ。
しかも逆に力任せに体を引き寄せられる始末。
だから思わず機械鎧の手の方で殴って気絶させてしまって。
そんなロイを担いでゴールしたのもまた恥ずかしく。
ゴールに着いた途端、もうぜってー肝試しなんてしねぇ!と叫んだ声が、辺りに響き渡っていた。





その頃のハボックもまた。


「くっそー、俺だってもうやらねぇぞ!!」


エドと同じような言葉を吐き出していた。





END.


133333番を踏んで下さったイツキさまのリクで、
ロイエドで、『第13倉庫の怪』の後にエルリック兄弟と東方司令部のメンバーで肝試しをする話でした☆
このリクを気に、ぶっちゃけ初めてこの話を読みました(爆)
アニメではホントに結構削られてたのを今更に知る…(死)
そして人物が多いと比例して話も長くなることが判明です(今更!)
ちなみにタイトルはマイブームなアジカンで。
えと、こんな感じになりましたが(汗)イツキさま、気にいって頂けたら嬉しいです!
ではリクありがとうございましたvv


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