クリスマスっていう特別な日に、そういうことをするってことは。
つまりそういうことであって。
それを知ったかと思うと、急に怖くなった。
でもそれは行為が、とかそういうんじゃなくて。
ただ。
クリスマス
『…明日、言うよ』
そう言ったアイツの顔と声と言葉が頭から離れなくて。
寝ようと思って床に就いてからも心意がどうのとか考えていたら、結局寝付けなくて。
ふと時計を見たらもう6時で、朝がきてしまっていた。
「……」
むくりと上半身を起こせば、部屋の冷えた空気が背中からひしひしと伝わってくる。
目は覚めていたものの、頭がぼーっとしていたのは変わりなく、部屋の温度がいい眠気覚ましになった。
「…あー…朝メシ…」
別に顔を合わせるのが嫌という訳ではないが、やっぱり昨日の今日では合わせづらいものがある。
だからと言って、朝食を作らないわけにもいかないし。
これをネタに何か言われんのも嫌だし。
昨日のことが会話に出たところで、普通にしてればいいだけだし。
まぁ、俺が普通にしてられるかどうかは分からねぇけど。
などと言い訳じみたことを脳等に起きつつ、エドは腕を目一杯上に上げながら欠伸をして。
ふぅ、と大きめに息を吐いてから、ベッドから降りて着替え始めた。
「じゃあ、行ってくる」
「おぉ」
朝食を終えエドにそう言うと、ロイは座っていた椅子の隣に掛けてあったコートをさっと着て、鞄を取るとダイニングを出て行った。
見送るのはいつもここで、玄関までは行かない。
にしても。
「…表情にも出さなかったな…」
広げられた食器を重ねながら呟いた。
おかしい、と少し思った。
前日にああいうことがあった次の日には、大抵何かしら思い出すように差し向けてくるのに。
特に柔らかく笑って自分も余韻に浸りつつこっちを見られた時には、嫌というくらい覚えている所だけだが鮮明に思い出してしまって、朝からこの顔で学校へ行けって!?とか責めたこともあった。
だが今日はどうだろうか。
昨日、俺にとっては余計な知識だが、多少なりとそういう行為をしたわけだが。
今朝はそんな行動は一切なく、平和そのものの朝食のひと時だった。
しかしそれが逆に、何か変な感じがして。
「…何か、違和感…」
ふと。
それは今日という日に関係が?と頭を過ぎった。
昨日はイヴで、今日はクリスマス。
俗に言う、恋人たちの日。
(…恋人…?)
引っ掛かるフレーズ。
俺に縁がある言葉じゃないけど。
でも、アイツに関係のある誰かに当てはまるフレーズだと考えたら。
(…何か、ムカつく)
居ないとか言ってるのは、もしかしたら建前じゃないのか?
義弟に悟られて、からかわれるのが嫌だからとか。
それこそ、俺には関係ないことだからとか。
「…でも嘘を言ってるとも、思えねェし…」
真剣だとか、本当のことだとか。
それくらい毎日見てるんだから分かる。
それに何より。
「…一度も、嘘。…付かれたこと、ねェし」
恋人が居ないってことは信じる。
信じるけど。
俺が何で、『恋人』ってフレーズを考えると引っ掛かるのか。
アイツが何で昨日じゃなく、わざわざ今日何かを言おうとするのか。
そして何でアイツが、何を分かってないって言うのか。
「…疑問は、尽きないな…」
この数日で確実に増えたため息を更に増やして、エドは流しの水道口をひねった。
と。
そうこう考えている間に。
「―――って、あ゛!?もう五時ぃ!?」
あれから昼食も取らずに、ずっとソファに座って先程の疑問を追及していたのか。
ふと見た時計が五時を知らせたばかりだというのにようやく気付いたエドは。
「やべー、やべー!飯作ってねーし!」
ぎゃーぎゃーと一人でパニックになりながら台所に走って冷蔵庫を開ければ、今度は。
「つか、プレゼントも結局買ってねーじゃん!!」
何故冷蔵庫を開けて気付いたのかはこの際触れず。
ともかく、ロイが帰ってくるまでに夕食だけは作らなければならない。
今だ考えつかないプレゼントを買いに行ってロイと入れ違いになるより、豪華な夕食で暖かく迎えた方が嬉しいだろうと開き直り。
「仕方ねェ…!」
腕まくりをし、包丁を握った。
ガチャ、と大きめの玄関のドアを開ければ、ふんわりと好い香りが玄関にまで届いてきている。
ロイはその香りに表情を緩め、静かにドアを閉めた。
何時もならここでただいま、と声を上げてエドが迎えてくれるまで待つのだが。
今日はダイニングキッチンの方からぱたぱたと、何やら忙しなさそうに響くスリッパの音が微笑ましくて、日課を我慢して家に上がり、キッチンに繋がるリビングのドアを開ければ。
「あ、うわ、もう帰ってきたのかよ!」
「ただいま」
想像通り、キッチンの中を細かく走り回るエドがいて。
そこでようやく顔を見て言えば。
「お帰り!悪ぃ!も少し待ってくれ!」
一番にお帰りとは言って貰えたものの、軽く会話の一部として流されてしまって。
だがそれでも、自分の為にこうして一生懸命準備をしてくれているのだと思えば。
「いや、構わないよ」
少し早くあがってきたからね、と優しく声を掛けてしまうんだから。
忙しいながらに部屋の飾りつけも頑張ったのか、所々にクリスマスを思わせる飾りが見られた。
ツリーは数日前からロイが買ってきて、既に光が灯っている。
そんな雰囲気の中、エドが急ぎながらも丁寧に作った料理を他愛ない会話と共に堪能した後。
テレビの音量もそれなりに、互いが斜め前に来るような九十度角のソファに座りながら。
ロイはソファの影に隠してあった袋を出して。
「メリークリスマス」
「え」
エドに差し出せば、エドは目を丸くしながらそれを受け取り、開けてみなさいという声に急かされて中に入っている箱を取り出してみれば、目に入ったのは見慣れた携帯メーカーの文字。
「…携帯?」
「クリスマスプレゼント」
「うわ、え、マジ?」
気づいた途端に早く見たいと言わんばかりに箱と格闘を始めるエドを、暖かく見守るロイ。
「っわー!すっげ!これ一番新しいやつじゃんか!!」
「そう、先日出たばかりのね」
「え、マジで貰っていいんか!?」
エドが箱を抱えてロイを見上げれば、ロイは笑って。
「あぁ、ただ名義は私になっているからあまり使い過ぎないように」
「おー!うっわー!」
「私の番号も既に入れてあるから、何かあったらそっちに…って、聞いていないな」
目を輝かせて携帯の画面に釘付けになるエドに、ロイはよっぽど嬉しいんだな、と自分のプレゼントは間違っていなかったということにホッとしていた。
以前、親友のアルが携帯を買ったということを聞いていたロイは、クリスマスにはこれを贈ろうということを既に決めていたのだ。
これだけ喜んでくれたら、贈った身としてはこれ以上のものはない。
「うわー、マジ嬉っしい!ありがとな!あり、が…」
「…エド?」
が、お礼を言った途端、エドの顔がどんどん曇っていく。
そして遂には携帯を置いて。
一転した表情と俯いていく顔に、ロイもまた体を少し屈めて覗くように問うと。
「…ご、めん、」
「?」
「…俺、何も用意、してねぇ…」
小さな声で、申し訳なく言われ、ロイは目を驚いた。
「そんなこと、気にすることでも…」
「気にする」
俺ばっかり、貰いっぱなしっての、嫌だし。
遮ってそう言えば。
「馬鹿、子供は貰って当たり前の立場だ」
「でもさ、」
それでも引かないエドに。
「こうしてクリスマスにプレゼントを一方的に貰えるのは、子供の特権だ」
特権を今使わずしてどうする?
大人になって貰いたいと思っても、貰えないんだから。
「私も子供の頃には、それこそ沢山強請ったしね」
「…アンタも?」
「勿論」
特権を使える時に使えるだけ、使ったから。
そう言うと、エドはふっと噴き出して。
「…そっか。なんだ」
「そう、軽く考えていいんだよ」
ただプレゼントを受け取った時の、さっきみたいな心からの嬉しそうな表情。
それさえ貰えれば、私は構わないんだから。
だが、エドがそれで納得というか、素直に頷くとも思えないのは知っているから。
「…でも、エドがどうしても、私に何かをくれるって言い張るんなら」
「ん」
言葉に乗ったのか、その続きを待つエド。
その目は少し嬉しそうに見えて。
その目を見たら、これから言うことが少し卑怯にも思えてしまうが、どうしても欲しかった。
きっとその言葉は、自分が言うより、言って貰った方が絶対嬉しいから。
「…私は、エドからの」
これは多分、口が上手くなった。
「本当の、気持ちが欲しい」
大人の、特権。
少しずる賢い、大人の。
「…は?それって、どういう、」
一瞬の間を置いて、エドが問おうとした声を遮って。
「エドは私のことをどう思っているかと、聞いてるんだ」
その声は、思いの他優しかった。
でも。
(どう、思ってるかって、)
聞かれたって、分からないことだってある。
俺にとっては第一に義理ではあるが兄であり。
義父がいない間の保護者であり。
(そんで…?)
それだけじゃ、カラダなんて繋がない。
嫌だったら、本気で殴ることだってできた筈なのに。
「……じゃあどうして、大人しく抱かれるんだ?」
「っ、」
丁度悩んでいた所をピンポイントで問われて、びくりと体が跳ねる。
どうして。
どうして、どうして。
(どう、して…)
悩んだ末に出る言葉は、一つ。
それは、俺が知らなかった感情だったけど。
「そ、れは…」
何だろう、一度分かると何で知らなかったのかって思う位。
「俺が…アンタを…」
あっさりと、言葉が湧いてくるんだ。
「好き、だから…?」
でも疑問形は、まだ完全な確証がないから。
何だろ。
何かが、足りない。
何か、一方的な気がして。
「…本当に?」
「う、ん」
「…本当に私のことを?」
「おぅ」
「…それは本当に私の、」
「っ何だよ!疑うんだったらアンタはどうなんだよ!!アンタは俺のこと、」
自分で言って、何故か自分が唖然とした。
何で、アンタに聞かなきゃならないんだ?
俺のことなんて義弟としか思ってない筈なのに。
義弟。
不思議と、その言葉が重く圧しかかる。
その言葉が、俺とアンタとの間に大きな溝を作っているようで。
でも。
「…好きだよ」
「ぇ…」
「…好きだ、好きだった…最初から」
エドを初めて見た時から。
「笑っていいよ。こんな、一回りも歳の離れた子供に」
それも、義理とはいえ弟に。
そう呟いた時の表情は、何処か少し申し訳なさそうで。
でも俺は全然。
「っ笑わねェ!」
笑うわけなんて、ねえっつの。
俺は。
俺だってアンタが好きで。
アンタも俺が好きで。
それが分かったことが。
「嬉しいんだかんな!」
マジで、ホント。
「エド、」
「笑うなら、アンタの方だろ!」
何か、凄ェ顔が真っ赤になってんじゃねーのかな。
「何か、そんな…感じはしてたけどさ!」
でも、言わずにはいられないっつーか。
「それでも、アンタと…そーゆーこと、しても、気付かなかったし!」
言い訳したかったし。
気付かないで、悪かった、みたいな。
「あーもー、くっそ、恥ずかしいんだ畜生!」
ガシガシと頭を掻いて視線を逸らした所為か。
掻いていた手に伸びた手に気付かなくて。
「あー、ぇ、う、」
取られたと気付いた時にはもう遅い、というのは、何時も遅いと思ってから気付く自分が、恨めしい。
「…っ、ん、…」
薄く目を開けたら、相手はもう俺の方のソファに体重をかけていて。
あれ、まさかとか思ってたら、目を閉じている間に重心移動があったのか、背中にソファの感触があり。
やっぱり!と俺は解放された口を開いて。
「っわ、おい、ちょ、待っ!」
「嬉しい、嬉しいよ、エド」
「っ!」
するりとシャツの間を、肌に添って入ってきた手。
その手の主は、柔らかに、本当に嬉しそうに。
「最高のプレゼントだ」
勿論、エド込みでね。
「〜〜っ、」
その手は、どんどんと自分の深い位置に入ってこようとして。
自然と息が上がって、体が反応を始める。
でも何か。
何かいつもと違う。
前と違う。
「っ、く、…ぁ、っつ、」
前はこんなじゃなかったのに。
「は、ぅ、…あ、ぁ、…っ」
体の何処を触られても、こんなに声なんて上がらなかったのに。
全部で、感じなんてしなかったのに。
おかしい。
俺、どっか変わったか?
何か、あったっけ。
考えて思い当たることと言ったら。
「…好きだ…エド、…エドワード…」
あぁ、そっか。
「―――エドワード…」
俺が、認めたからだ。
自分の気持ちを。
「…っ、嫌だ…、」
だからって、こんななるなんて思わなかった。
こんな、感じやすくなるなんて。
嫌だ。
「嫌だ…っ!」
「…エド…?」
首を左右に振って抵抗をみせるが、それが弱々しいものだということに気付いて、ロイが名前を呼ぶと。
「嫌だ…ヤだ、こんな、こんなん…」
こんな自分、嫌だ。
分かってしまった。
こういうことを、この日にするということを。
クリスマスっていう特別な日に、互いに告白をして、そういうことをするってことは。
「駄目だ、」
それを知ったかと思うと、急に怖くなった。
でもそれは行為が、とかそういうんじゃなくて。
ただ。
「アンタを…っ、もっと、好きになっちまう…!」
それが、怖かった。
そう言うと、ロイは目を見開いて俺を見た後。
優しく笑い、俺の首筋に顔を埋めながら。
「…構わない」
私も、その方が嬉しい。
その方がいい。
それがいい。
「でも、」
俺は男で、アンタも男で。
俺は弟で、アンタは兄で。
「そんなこと関係ない」
私は、君しかいらない。
「エドだけでいい」
こんなに近くに感じるのは、エドだけでいい。
ロイはそう言って、体を下げてエドのを口に含んだ。
「…っあ!っつ、ぁ、」
舐められて。
弄られて。
嬲られて。
口と共に、手は後ろの方にまで及んで。
「っは、…は、ぁ、あ、」
両方を一気に弄られるのは初めてで。
気が、狂いそうだった。
「…エド…」
呼ばれて、固く閉じた目を開ければ。
目の前の男は昨日、いや、ついさっきまでとは違った人に見えて。
「…ぁ、」
気持ちが繋がってから、体を繋ぐということ。
それがこんなに、嬉しいことだなんて。
「…っ早く…!」
そう思うと、もう我慢できなかった。
俺は夢中でロイを掻き抱いて。
自我は殆ど手放してたけど、それでも羞恥心はあるから顔は見られないようにって掻き抱いたのに。
「…分かった…」
ロイは小さく顔が見たい、と言いながら俺の腕を外し、目と目が合ったと思ったら。
「―――っっ!!」
何を言う間もなく、貫かれた。
そこからはもう、覚えていないというか。
思い出したくないというか。
何度も何度も体の位置を入れ替えられたりして、結局貫かれて。
経験の少ない俺には、本当に酷で。
いつ意識を飛ばしたのかは、完全に思い出せないところにあった。
「…う」
目を開けて身じろぎをした瞬間、鈍い痛みが腰に響いた。
その微かな動きにロイが気付いて。
「おはよう」
と言ったものだから、あぁ朝なのか、と悟った。
場所はロイの部屋のベッドに移動していて、更に体もベタ付きがなくなっていたことに、また自分の覚えていない間に色々してもらったんだと知る。
「…はよぉ」
何か、しゃくだ。
そりゃ、散々無理させたのはこいつだけど。
だからって。
「何で、俺が寝てる間に後処理やるかなー…」
「挨拶の次がそれか?」
余韻の欠片もない、と少し落ち込むロイ。
少し身じろいだからか、腕枕をしてくれていたことも知った。
「や、だって何か、嫌だから」
「自分の寝ている間にされるのが?」
こくん、と頷けば。
「だが意識があったらあったで抵抗するだろう」
「そりゃー、な」
「じゃあどっちがいい」
そしたら、寝てる間の方がマシだ。
「……寝てる間」
「そういうことだ」
でもしゃくだ!!と一人で葛藤を始めたら。
「だが、いいクリスマスになったなぁ…」
「やらしい発言」
「事実だ」
はぁー、とエドは長いため息を付く。
いい加減、こういうことがある度調子に乗るのを止めて欲しい。
大きな子供がいるよ、ここに。
「ところでエド」
「何」
「もう一つ、強請ってもいいかな」
「あーもう、好きにすれば」
今更何を言われたって、昨日ほどのことなんてないんだと割り切って、適当に返事をすると。
「いい加減、アンタと呼ぶのは止めてくれ」
「は?」
「私の名前は?」
一体何だ、今度は。
「何だよ、急に…ロイ・マスタングだろ」
「そう、ちゃんとした名前があるんだ」
だから、名前を呼んでくれ。
「…へ」
「そうだな、ロイか…昔みたいにロイ兄で…」
「って、何で…!〜〜!」
叫べば腰に響いて、言葉が続かないじゃねーか。
「折角互いの想いを確かめ合ったんだ。アンタじゃあ気持ちがこもっていない」
「……」
脱力、力を込めるの繰り返しで、いい加減にして欲しいのはこっちだ。
何処が子供の特権だよ。
アンタがそんな子供っぽくてどーすんだ!
嫌だ、こんな大きい子供!!
でも、ま。
名前くらいならいいか、とか思ったのは内緒で。
だけど、ロイ兄、ってのは勘弁だな。
もうそんな歳じゃねぇし。
ロイ。
ロイねぇ。
じゃー仕方なく。
それにしといてやるわ。
END.
04/12/20
何書いているんでしょう、自分…(凹)
いい加減、新婚っぽくなるこの話をどうにかしたい(痛)
そして結果的にやっぱりこうなるんだーっていう安易な感じに自己嫌悪(死)
にしても夜をメインに、とか思っていたのに…所詮こんな俺です…許して下さい…(爆)
ひー!もう言い訳はしません!メリークリスマス!!(逃/爆死)
ブラウザでお戻り下さい。