時々、これは夢なんだって分かるような夢がある。
俺が見ていた夢は、そんな夢だった。


母さんが俺に笑ってくれて、父さんも俺に笑ってくれて。
二人一緒に、俺に手を差し伸べてくれている。
俺もその笑顔に楽しくなって、嬉しくなって両手を伸ばした。
けれどその手は母さんと父さんの手を掴むことはなく。
ふっと二人は消えて、俺は床に手を、膝を付いた。
何が起こったのか分からなくて、顔を上げれば、明るかった周りの色が段々と暗くなって。
煌々と照らしていた明かりは小さくなって、先にある何かを照らす。
すっと目を細めて見たのは、倒れている人が、二人。
俺は直ぐに分かって、立ち上がって駆け出した。
けどいくら走っても近付くことは出来なくて。
逆にどんどん遠くなって。
母さん、父さんと叫ぶ声は、届かなくて。
ただ、二人が消えていくのを見ているしか出来なくて。
力の限り走っていた俺は、疲れから足を絡ませてしまって地に伏せてしまう。
直ぐに前を向いても、二人は凄い速さで俺から離れて行って。
まるで、もう帰ってこないと示されているようで。
俺はあらん限り、叫んだ。




twinkle,twinkle






――――っ!!!」


かっと開いた目に入ったのは、薄暗い部屋の天井だった。
額、背中、体中に汗を掻き、俺は胸までかけた布団をぎゅっと握り締めていた。


「…はぁ、…は、…は…」


息を止めていたような苦しさが、体に残っていた。
多分、夢の中で苦しんでいる間、暫くまともな呼吸をしていなかったんだと思う。


(……分かってる、けど…)


夢だって分かってるけど。
それでも、俺にとって。
これは、現実なんだ。


「……、」


そう現実を意識した途端、広い部屋に寂しさを覚えた。
もう感じることの出来ない温もりを、今味わっていたからだろうか。
広い広い部屋。
ロイ兄が、大きくなっても快適に過ごせるようにと俺に用意してくれた部屋。
この部屋よりも小さいけど、まだ父さんと母さんが居て、俺もまだもっと小さかった頃。
時々、川の字になって寝ていたことを思い出した。
俺が怖い夢を見て眠れなくて、部屋で一人月を見上げていた時、父さんは俺がそうやっていたことを見ていたかのように、眠れないのなら一緒に寝るか、と部屋に入ってきて。
俺を抱き上げて、居間に戻って、母さんにも一緒に寝ようって言って、三人で眠ったんだ。
それが暖かくて。
嬉しくて。


「……」


だから今、思い出したら辛くて。
俺はこの部屋に居たくなくて。
足を床につけた。











「……、…」


廊下に出て、ぺたぺたと裸足で向かったのは隣の部屋。
ロイの部屋だ。


「…、」


足を止めて、じっとドアノブを見る。
一度手をかけようと腕を上げたものの、ノブには触れず下ろしてしまった。
そのノブを名残惜しく見詰めながら、またぺたぺたと自分の部屋の前まで戻って、今度はノブに手をかけた。
けど、捻らないまま腕を下ろして、またロイの部屋まで歩く。
そんな行動を、何往復かした時。
腕を上げて触る前のノブが、勝手に動いて。


「っ、」


俺はびくり、と肩を揺らしてドアが開くのを待った。
だって中から出てくるのは一人しかいないから。


「…やっぱり」
「…」


それに心の何処かで、俺はそれを期待していたから。
きっとロイ兄はにっこりと笑って、ドアを大きく開いて。


「…おいで?」


そう言って、手を差し伸べて俺を迎えてくれるんだって。
でも。


「……」
「…エド…?」


勘違いは、されたくなかったから。


「別に…、一人で寝るのが、怖いからとかじゃ…ねェ、から…」


ただ。


「…分かっているよ」
「…、」


俺は顔を上げた。
ロイ兄の顔は、俺の全部を分かってくれているような、そんな顔で。
この人は、俺を子ども扱いしない。
かと言って、大人の扱いをするわけじゃないけど。
でも、言い訳がましい理由を聞くようなことは、自分からさせない。
それは俺を分かってくれているからで。
だから安心して、この人に気を許せるんだと思う。
俺の怖かったことを、知ってくれているから。


「…うん…」


小さく呟いて、俺はロイ兄の服の裾を掴んだ。











「…なぁ、」


一緒の布団に入れてもらって、向かい合って俺に腕枕をしてくれているロイ兄に、顔を上げずに問うた。


「…ん?」


寝かけていたのか、数拍置いて答えてくれた。


「…何で…俺が部屋の前にいたって、分かったんだ?」
「…あぁ…」


もぞ、と身じろぎをして、俺の頭の下に置いていた腕を曲げて、俺の頭を抱いてくれて。


「足音が…したから、かな…」
「……ふぅん…」


それっきり。
エドワードは黙ってしまったが、本当は、足音なんてしなかった。
ただ何となく、エドがいるんじゃないかって。
そう思ってドアを開けたら、本当に居たんだ。
それが私とエドにとって、どういうものかは分からないが。


(…一人で寝るのは、慣れただろう…)


ただ。
そう言おうとしていた続きはおそらく。
一人で居るのが、怖かったからだと思う。
両親を失ってから、まだ日は浅い。
それを押さえろなんて、誰が言えるだろうか。
幸せだった日々は、もう戻らないというのに。
だから私は、この子の全てを受け入れてやる。
そう決めたんだ。
と、決意を新たにした時。


―――嘘つき」
「…え…」
「足音なんて、しなかっただろ」


エドは顔を上げないまま。


「分かるよ、俺も…」


前にも一度、同じこと。
父さんが、言ってたから。


「俺歩いてないのに、足音が聞こえたって、言って…」


でも、嬉しかったんだ。
気付いてくれて。
俺のこと、分かってくれて。


「…まぁ、今回は…本当だったけど、な」


そう漏らすと、もぞもぞと私に体を寄せて。
きゅ、と服を掴んで、眠る体勢に入った。


「……」


もしかしたら。


(…押さえるなんて器用な真似、この子には出来ないのかもしれない)


いや、不要なのか。
この子は、既に新しい道を見つけている。
時々立ち止まりはするが、振り返ったりはしない。
全てを、前へ向ける力を持っているんだ。


(…強いな、)


純粋な子供が持つ、一番強いもの。
大人になっても、それを忘れないでいてほしいと願う。
そして規則正しい寝息を立て始めたエドの、私のシャツを握る手の上に、自分の手を重ねた。


(…大丈夫、私は)


傍に、いるから。
心の中でそう言って、手を外し。
手を重ねたまま、それを伝えるように優しく、抱き寄せて。


「…お休み…」


良い夢を、と。
額に、キスを贈った。





END.


05/06/21
30万ヒット、ありがとうございました!!
沢山の方に支えられ、沢山の気持ちを頂いた幸せの数字だと思います…!
その幸せのお礼に少しでもお返しできたら、と捧げさせて頂きます!
上記日付から1ヶ月ほどフリーとさせて頂きますので貰ってやって下さい!

作品はアンケで半数近い割合での義兄弟となりました☆
初心に帰り、エド10歳です。
元ネタは結構前に友人から頂いた、眠れないといってロイと一緒に寝るエドから!
しかしウチのエドはそういう子ではないので(苦笑)こういう流れとなりました。
でも幼いので温かい目で見守ってやって下さい…!

では本当にありがとうございましたvv


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