「でっかい家だな」
「……まぁ、な」
家に着いて、そういえばアル以外友達を連れてきたことがない、と思い出した。
原因は言わずともこの家の主代理であって。
きっと義父だったら歓迎すると思うんだけど、義兄の独占欲といったらそれはもう行き過ぎだと言っても過言ではないくらいだ。
尤も、それを許してしまっている俺にも責任はあるんだろうけど、今はそれは置いといて。
「いわゆる御曹子とかいうやつ?」
「いや、それは兄貴の方」
「どういうことだ?」
とりあえず、俺の現状を説明しないと。
「何つーか、俺ここの子供じゃねェからさ」
「え?」
「養子ってやつ」
言って、養子ということもアル以外に言ったことがないことを思い出した。
家に友達を呼ばないってことは、この家を見られることもないわけだし、つまり話す必要もないわけで。
まぁ近所の奴らは勝手に俺が御曹子だと思い込んでるらしいけど、別にこの際変わらないかな、とか思ってほっといたりしてる。
(でも何か、やっぱ親しい奴には本当のこと知っといてもらいたいっつーか…)
何というか、隠し事をしてるみたいで。
後ろめたい訳じゃないけど、ある程度事情を知っておいてもらった方が自分としても気が楽で。
「それはまた凄い境遇だな…」
けど普通、驚くよな。
実際アルもそうだったし。
「でもまぁ、お前はお前だし」
(…あれ?)
気にしない様子で笑ったロードを見て、何処となく引っ掛かった。
アルも同じようなことを言って笑って見せたけど、あの時のアルとは何処かが違うような笑みだった。
ロードもアルも驚いてた、それに違いはないんだけど、その時点でも何かが違ってた気がする。
上手く言えないけど何かが、引っ掛かるような。
まるで。
「そか?ありがとな」
何かを、知っているような。
トラブルメーカー 3
「案の定、中も凄いな」
「まー期待外れじゃねェだろ」
はは、と笑って周りを見回すロードに言って、先導して自室まで案内する。
ドアを開けて入れば、今度は俺の部屋を見回して。
「イメージしてた通りだ」
「何だよそれ」
「エドって物に執着しないだろ、」
「そりゃ、まぁ」
部屋にあるのはベッドと机とパソコンとテレビ、コンポくらいだが、どれもこれもシンプルなデザインで統一してある。
基本的に生活できればそれでいいという無意識な考えが、こういう必要最低限の部屋を生むらしく、アルも同じこと言ってたっけ。
ロイに買ってもらう時も、もっとデザイン性のあるものにした方がいいんじゃないか、とか言われたけど、俺は持ち前の意地でこれがいいんだ、と押して。
結構気に入ってるんだけど、皆が皆言うことは同じで、気分は良くない。
「一応、本への執着はあるんだけどな」
「らしいな」
本だけは、貴重なのが揃ってる、と言って三つほど連なっている、天井まで届くくらいの本棚の前に立って物色しながらロードが言った。
まぁ俺らしい、って言われるのは嫌いじゃないけどな。
「っと、忘れるとこだった、何の本だっけ」
ロードが本を手に取って読み始めるのを見て、本来の目的を思い出した。
こういうのも遊びに来たって部類に入るんだろうが、一応用があって来たわけだし。
「あぁ、これ」
ロードも忘れていたのか、言いながらポケットからタイトルの書かれたメモを出して、俺に渡す。
「えーっと、これは……あった」
本棚別にジャンル分けしてあるから、比較的簡単に見付かった。
整理整頓が好きだという性格が、こういう時に役に立ってくれる。
「ありがとう、助かった」
持っていた本を先ほどと同じ位置に戻して、今度は受け取った本を読み始めながら。
「そういえば、さっき言ってたこと」
と、切り出してきた。
俺が目を丸くして何のことだと聞けば。
「この本、知り合いのコネ、って言っただろ?」
「あぁ」
「そのコネって、親父さん?」
「あー…」
ここにある大抵の本は義父に買ってもらったものが多いだろう。
正確には俺の好みを考えて、義父が勝手に送ってくるといった方が正しいが。
けど、今ロードが持っている本は。
「これは兄貴に頼んだんだ」
苦笑しながら言った。
俺は滅多にロイに強請ったりはしない。
欲しいものは何でも言いなさい、とか言われてるけど、一応小遣いも貰ってるわけだし、その小遣いも多分きょうびの高校生よりは多い金額だと思う。
だから殆どのものは小遣いで事足りるし、元々今時の高校生が欲しがるようなゲームとか漫画はあまり興味がないから滅多に買わない。
勿論欲しいと思ったものもあるけど、大抵アルが持ってたり、他の奴が持ってたりするから、遊びに行けば事足りるし。
実は毎月いくらか余ったりするのが正直なところで。
(けどこの本は…)
この本が欲しいと思ったとき、別に小遣いがなくなったわけじゃないけど、日本ではもう絶版になっていて金があっても買えない状態だった。
翻訳はされていないから、アメリカではまだ売っていると思って、アメリカに居る義父に頼もうかと思った。
頼んでいたらきっと喜んで送ってくれたんだろうけど、その時はどうしても直ぐに読みたくて。
義父に頼んだら多分三、四日は掛かるから、だから俺はロイに頼んだんだ。
頼んだ時、滅多に頼みごとをしない俺だから、ロイは相当驚いてた。
けど直ぐ嬉しそうな顔をして、笑って分かった、って言った。
そして次の日、今度は俺が驚く番だった。
何たって、昨日の夜言ったのに、次の日の夕方にはもう俺の手に頼んだ本が乗せられたんだから。
何か嬉しいというよりは驚きの方がでかくて、本とロイとを交互に見ていたら。
――驚くより、笑ってくれた方が私としては嬉しいんだが?
そう笑って言ってた時の顔を、今でも覚えている。
「何かあの時は、逆に驚かされたなぁ…」
らしくもなく、ロードが居ることを忘れて思い出に浸っていた俺はぽつりと呟いてしまった。
音楽も何もかけていないこの部屋の中では、小さな声も通ってしまって。
「え?」
「あ、」
当然、ロードにも聞こえている。
「あー…はは、いや、これ強請った時んことを思い出してちょっとなー、」
誤魔化すつもりが、何か正直に言ってしまった。
自己嫌悪に陥ったところで言った言葉を訂正できるわけもない。
けど多分、話したところで別に恥ずかしい話じゃないと思う。
でも、自分がどんな表情で話すのか、予想がつかないのが怖いというか、無意識に惚気っぽい話になってしまったらどうしようというのが一番の要因で。
こういう時、ロイを好きだという自覚を忘れたいと思う。
とにかく、そんなボロを出すくらいなら話さないのがいい。
言ってしまったのは仕方ないし、こうなったらもう笑い通すしかないと腹を括る。
しかし。
「…優しいんだな、君には」
「あー、あぁまぁ……?」
ロードの笑顔と共に出てきた言葉をさらっと流そうとした時。
俺はおかしい部分があることに気付いた。
「君、には…って…?」
「俺が頼んだ時は、嫌だって即答されたんだけどなぁ」
え、何?
「まぁたまにしか会わないのに、いきなり会社に押しかけて頼み込んだのもいけなかったとは思うけど、」
何言ってんだ?
そう聞きたいのに、口を挟む隙がない上に、自分の口が動かない。
「それにしたって言い方ってのもあると思わないか?」
なぁ、エド?
問われて、俺はようやく声を出した。
「…ロー、ド…お前…、ロイのこと、」
知って?
言い終わる前に、ロードはまたにっこりと笑って。
「知ってるよ」
「っな」
そこからはもう、完全にロードの独壇場になった。
「アイツの家族構成とか知ってる?」
「…いや、」
父と母が居るということ以外、全く聞かされていない。
でも義母についても聞いたのは義父からで、それでも亡くなったということ以外知らない。
そういえば俺、親戚はおろか、アイツの元の家族のことも、アイツ自身もよく、知らない。
「何だ、話してないのか」
「…、」
言われて思い知らされて、悲しくなった。
居た堪れなくなった。
同時に、知っているロードが羨ましいと、疎ましいとさえ思った。
が。
「俺は、アイツの父親の兄弟の息子」
いわゆる従兄弟だな。
「……従兄弟ぉ!?」
「そう」
羨ましいとかそういう感情は何処へ行ったのやら、一瞬で吹き飛んだ。
(そ、そりゃ知ってるよな、従兄弟なら嫌でも情報とか入ってくるしな、)
そう思ったら、羨ましいと思っていた自分が急に恥ずかしくなった。
何か、ロードに嫉妬してたらしく。
顔が赤くなってくのが分かって、俺は顔を逸らしたんだけど。
「…嫉妬?」
「うっせぇ!」
気付かれてしまったと思ったら、反射的に俺は顔を戻して怒鳴った。
と、目が合った途端、にっこりと笑って。
「可愛いな」
とか言われて、何か言いようのないものが背中を走った気がする。
「…なぁ」
「ん?」
「ロイに似てるとか言われたことないか」
「あぁあるよ」
不本意だけど性格も顔もね。
「……」
ああそうか。
どうりで似てると思った。
態度、顔、そして口調と言うこと。
血縁なら全部納得がいく。
でも性格ならまだしも、顔まで似てるってのはどうなんだろう。
まるで同い年のロイに色々言われてる気がしてならないんだけど。
(…って、待てよ)
ということは。
「…もしかして、ロード、前から俺のこと…」
「知ってたよ」
「な!」
またさらっと言われた。
「いいい何時からっ」
「知ったのはアイツの父親がエドを引き取った時から」
「ってつまり初めからじゃねェか!」
別に怒ってるとかそういうんじゃなくて、ただ一度上がったテンションは戻らないってことで。
「でも顔は知らなかった」
同じ高校に入ったというのだけは知っていたけど、顔は知らないから今の今まで話しかけられなかったんだ、と続けた。
「え、じゃあ何で…」
「数週間くらい前」
エドが、俺に話しかけてきた日の、少し前。
俺もロイにこの本について聞いてたんだよ。
「…へ」
「でもさっき言った通り、俺は一掃された」
その時嫌だという言葉と一緒に言われたのが、『私も一冊しか見つけられなかったし、それにこれには先約があるから』。
「『大切な、先約がね』って、嬉しそうに」
俺の知らない所でそんなことを言ってたんだ、とか俺も嬉しいっていう感情は今は押し込めて、つまり俺とエドは同時期にこの本をアイツに強請ってたということになる。
とはいうものの。
「けど、そのことで俺とどう繋がるんだよ」
パーツが少な過ぎて、話を全て組み立てられない筈だ。
そう思ったが、実際ロードはこうして組み立てているわけで。
「その時、俺は既に『義弟に執心だ』ってことを知ってたから」
「は、」
「ああいう顔をする時はそうなんじゃないかって思ったんだ」
だから、俺はその義弟の顔を見てやろうと思って、この家の前で張ってたんだ。
「家には来たことはないけど、場所は知ってたからな」
「…それで、帰ってきたのが…」
「エドだったわけだ」
どうしてそこで嬉しそうに笑うかな。
「じゃあさっきこの家に驚いたのは…」
「ごめん、嘘。中に驚いたのは本当だけど」
「この数週間、俺と話してた時も」
「ああ、アイツのことは知ってた」
「今日ネットでこの本のこと調べたってことも」
「あのメモは数週間前から持ち歩いてた」
「……」
何かもう、ここまでさらっと言われると、怒る気力も失せる。
「…嘘、ついてたのは…謝る、」
俺が黙っているのを、怒ってると思ったのか、少し沈んだ顔を向けてくる。
「…いいよ、怒ってねェし」
元々怒っていたわけでもないし。
むしろ、この間からのつっかえが取れてすっきりした気分だ。
「…ありがとう」
「やめろよ、照れ臭ェ」
と、少し顔を赤らめて笑ったのがいけなかったのかどうなのか。
「…実はさ」
「ん?」
開いていた本を閉じて、切り出したことに耳を傾けようとした。
だから、ロードが近付いてきたことにも何の疑問もなくて。
「何…っ!?」
俺の直ぐ後ろにあったベッドに押し倒されるとは思わなかった。
「何、何すんっ」
「もう一つ、黙ってたことがあるんだ」
俺の抗議を遮って、かけていた眼鏡を取って。
「ここに来たのは、本を読みに来たってのもあるんだけど…」
本心はこういうこと、してみたかったから。
「…ぇ」
何言ってんだって思った。
こういうことって、何。
してみたいって、何を。
頭の中でそんな言葉を繰り返してはいたけど、何となく、予想は付いた。
ロイがベッドに押し倒すっていったら、することは一つ。
つまり、似ているロードがやることも。
「…アイツから、奪ってみたくなった」
「…っ!」
一つ。
「ただいま」
玄関を開けていつものように声を発するが、返事はない。
「…?エド?」
迎えに出てくれない義弟の名を呼びながらリビングの扉を開けるが、姿はない。
「…自室かな」
一緒に居るのは専らリビングだが、エドが一人の時は部屋に篭っていることが多い。
元々今日は遅くなると連絡をしておいたから、部屋にいるんだろうと思い、日課の抱擁を求め階段を上がり、エドの部屋の前まで来てノックしようとした。
が。
『…、…っ!』
『……、』
(…!)
聞こえるのはエドの声だけではなく。
ロイは何かを感じて咄嗟にドアを開いた。
「…っな!」
目の前に飛び込んできた映像は、愛しい義弟が誰かに押し倒されている図で。
これで頭に血が上らない方がおかしい。
「っロイ!?」
「え?」
いち早く気付いたエドがロードの体を退けつつ叫べば、ロードもつられてエドの視線の先を見る。
「あぁ、お邪魔してます」
色んな意味で邪魔をしていると上手く聞こえるのは多分、俺だけだと思う。
案の定ロイは凄い形相で。
「何が邪魔しているだ!さっさと退け!」
叫ぶものの、ロードは怯む様子もなく。
「良いところなんで、無理ですね」
「っな!」
と、視線はロイに向けたまま俺の頬にキスを落とすし。
「貴様…っ!」
「ロード、頼むから煽るのは止めてくれ!」
この矛先が向くのは俺なんだよ。
「ロード?…お前、何故ここに居る」
俺が名前を呼んだからか、怒りの表情は変わらないが少し感情を抑えてはくれたらしい。
「何故って、エドに誘われたからですよ」
「馬鹿!ややこしくすんな!」
俺はこの場を納めたいから抑止したのに。
「…否定しないんだな、エド?」
「え!?いやだからそれは!」
勘の良いロイの所為で、逆に俺が煽ってしまったらしい。
ああ、馬鹿は俺の方だった。
「それは後で聞こう。とりあえずお前はさっさと帰れ」
目が据わってるんですが。
異様な空気が部屋を包む。
「…仕方ないか、」
このまま続けたら後が怖いし。
そう呟いて、ロードは俺の上から退いてくれたが。
「じゃあエド、続きは今度、コイツの居ない学校で」
「は!?」
何意味深な台詞を残して部屋を出て行こうとするんだ、と叫ぶ間もなく、ロードは開け放たれたままのドアの前に立っているロイの横を通ろうとすると。
「…残念だが二度はないぞ」
「分かりませんよ」
貴方と俺は、似てるんですから。
「……行け」
「お邪魔、しました」
何を言っているのか俺には聞こえなかったが、それを気にしてられるのはほんの数秒で。
ロードがドアを閉めた途端、ロイがベッドに座っている俺の所にまで早足で来て。
「っ!?」
今度はロイに押し倒されて、何かを言う間もなく口を塞がれた。
「…ぅ、ん、む、…ふ、…」
どのくらい、口の中を荒らされただろう。
舌の感覚が麻痺してきたあたりで、ようやく解放されて。
「…は、ぁ、」
「…どこを、触られた」
「…っ」
低い声が、俺の首筋を撫でていく。
「…触られて、ねェ、よっ」
「…嘘はよくないな…」
「っ嘘じゃねェって、」
本当だ、何かされそうになった直前にロイが入ってきたんだから。
と、俺の服と皮膚の間を動いていたロイの手が止まって。
「…頼むから…」
顔を俺の胸に埋めて。
「頼むから、私を壊さないでくれ…」
「ぇ…」
それって、どういう。
「嫉妬と怒りで殺してしまいそうになる…」
「な、何言って、」
「本当だよ」
現に、ロードに対してそう思った。
と、ロイは苦しそうに、辛そうに目を閉じて言った。
「……ご、めん…」
何か居た堪れなくて思わず謝ったけど、俺、悪くないんだよな。
けど、ロイが俺にどれだけ入れ込んでるのか、それは嫌でも知ってるから。
俺が居なくなったら多分、壊れるってことも。
「…ロードにはきつく言っておかないとな」
俺の気持ちを悟ってか、ロイの声が元に戻った。
何か、俺も落ち着いてきた。
「俺が言っとくよ」
「ダメだ、また襲われる」
「何で」
「私と似ているから、分かるんだよ」
ロイの方も自覚があるんだ、と今知った。
同時に。
「…やっぱ、俺ロイのことあんま知らないんだなぁ…」
「え?」
俺を組み敷いたまま、少し目を見開いて見詰める。
「…ロードに色々聞いたけど、それでも知らないことが多いんだって思って、さ」
「エド…」
「な、教えてくれよ」
アンタのこと、色々。
「…勿論」
ああ、やっと微笑ってくれた。
やっぱアンタは、微笑ってる方がいいよ。
ま、口には出せないけどな。
「だがとりあえず、」
「?」
「まず私が、教えてもらわないとな」
「は?」
何かあったっけという顔を向けると。
「ロードに何を言われて何をされたのか」
「…な、」
こいつ、俺の言ったこと信じてねェな。
俺はそんなに信用がないのか。
そんなに信用されてないのか。
ムカつく。
「〜〜〜っ、」
畜生、全部ロードの所為だ。
(あンのトラブルメーカー、明日学校行ったら覚えてろよ…!)
「さぁて」
次は何してやろうかな?
家から出たロードは楽しそうな微笑を浮かべて、エドの部屋のある方を見上げた。
その顔もロイが何か良からぬことを企んでいる時の顔に似ているというのは、エドは知らないままである。
END.
05/05/03
ロイ出番少なくて申し訳ない…(爆)
でもロード、書いていて楽しかったです…!
今後もどんどん出していきたいです!何たって眼鏡ですから!(ぇ)
ではお粗末さまでした…!
ブラウザでお戻り下さい。