待ちに待った修学旅行!という雰囲気が漂う行きのバスも新幹線の中で、教室に居る時と変わらず頬杖をついて窓の外を見ているのは。
「エド」
「何」
「お前ずーっと窓の外見て何が楽しいんだ?」
ちらりと呼ばれて横目で見れば、少し呆れた顔をしたロードが俺の顔の位置まで同じく顔を出して、窓の外を見る。
「特に良い景色とも思えないけど」
そんなことを言いながらさり気に体をくっ付けてくるのは何なんだろうか。
とりあえずその点は気に留めないようにして、俺はしれっとした顔を向けながら。
「お前の方を見れば何か変に喜んだ顔するから、窓の外見るしかねェだろ」
「何だそれ」
「こっちが聞きてェよ…」
と、そんなやり取りをして顔を向けていれば、案の定。
「…ほら、何なんだよその笑顔…」
「あ、俺笑ってる?」
言葉にまでそれが出ているのに、自覚が無いのはおかしいだろ。
「いやほら、1日目の夜は二人部屋だろ?」
「っ、」
「それで喜ぶなって言う方が無理な話だと思うけどな」
今度はにやり、という擬音がぴったりな顔で俺の顔を覗いてくる。
しかも密着度が高くなっていくのはどうしたものか。
唯一の事情を知る頼みの綱のアルは、俺の座っている席からかなり遠い位置にあり、助けを求めたくても求められない状態で。
(誰かこのアイツにそっくりな馬鹿をどうにかしてくれ!!)
今の俺には、心の中で叫ぶことしか出来なかった。
修学旅行1日目夜
こうなった始まりは、1ヶ月以上前のバス、新幹線、部屋決めの時。
「えー、バスの席、新幹線席、そして一日目の夜泊まるホテルが二人。二日目、三日目の泊まる宿は六人と決まっているのでー、まぁ俺が決めてもいいんだが、やっぱ気の許せる奴とがいいよな」
というわけでこの時間をやるから、自分たちで決めてくれーという担任の言葉で、皆が一斉に席を立つ。
エドワードもそれに便乗して、向かうはアルフォンスの席。
空いた隣の席に座りながら、エドワードは当たり前のように言う。
「なー、俺ら一緒でいいよな?」
「うん、僕は別に」
「よっしゃ決まりっ」
アルフォンスからの了承の言葉を貰って気を良くしたエドワードは、そのまま昨日読んだ本の話題を出して、互いに余った時間を潰していた。
その話題で思った以上に盛り上がってしまい、担任が一回目に言った、決まった奴から言いに来い、という言葉を聞き逃してしまっていたのが全ての発端だった。
「おーい、決まった奴から言いに来いよー?」
「あ、言いに行くんか?」
「みたいだね」
席を立って担任の座る教卓を囲んでいる輪に入る二人。
そしてアルフォンスが言おうとするより先に仲の良いクラスメイトが。
「あ、アル、お前も決まってねェなら俺ら一緒でいいんじゃね?」
「え?」
さらっと言ってきた辺り、アルフォンスとエドワードが既に決めていたことを知らないようだったので、エドワードは遮って言おうとすると。
「待てよ、アルとは俺が…」
「え、エド?エドはもう決まってんぜ?」
「はぁ?」
言われて、エドワードは素っ頓狂な声を発しながら、決定済みの名前が書かれた名簿を見る。
と、エドワードの名前と一緒に書かれているのは。
「…ロード…!?」
「あ、書いといた」
名前を呼べば、後ろから声が聞こえた。
ばっと反応して振り返ると、肩口から顔を覗かせて一緒に紙を見ていて、しかも。
「アルはどうするんだ?」
アルフォンスに笑顔がそんなことを聞く。
その顔は他の奴にとっては悪気の無い笑顔に取れるかもしれないが、アルフォンスにとっては勝ち誇ったもの以外の何でもなく。
流石にそれには良い思いをするはずないアルフォンスは。
「…それは勝手に決めたんだろ?」
だったら無効じゃないの?と笑顔の中にも突き刺さるような冷たい情を向ける。
こういう駆け引きは得意分野だった。
が。
「話を聞いてなかったのか?担任は気の許せる奴、って言ったんだよ。別に俺とエドは気の許せない同士じゃないんだから、問題はないだろう?」
「勝手に決めたことに関しては問題あると思うけど?」
ロイに似ているのは顔と性格までならず、言葉巧みな部分に関しても似ているのか、アルフォンスに引けを取らない。
流石にこんな公に言い争いをされるのは良い気分じゃない、というより恥かしいエドワードは。
「そもそも担任が一回目に言いに来いと言った時に行かなかったのくせに」
「そうやって話の矛先を変えるのは頂けないね」
「っあー!いい加減にしろって!!」
怖い笑顔のやり取りの間に何とか割って入れば、双方から何やら不満の声が聞こえてくるが、それも何とか宥めて。
「…先生、俺このままでいいから…」
「そ、そうか…?」
「お前も、アルと同室ってことで頼むよ…」
「あ、あぁ…」
「あ、あとお前らも三人グループだったよな?代わりと言っちゃアレだけど、六人部屋は俺らと頼むよ…」
「あぁ…、」
一応エドワードの大人な部分に助けられ、その場は丸く収まった。
アルフォンスとロードが席に戻った後、アルと同室になったクラスメイトからは大変だな、という労いの言葉をもらい。
担任からはモテるなーというふざけ半分な言葉をもらったが、正直担任の言葉にエドワードは怖いものを感じた。
勿論決して自意識過剰なわけではなく、あんなやり取りを公衆の面前でやらかしてしまっては、クラスメイトに変な印象を与えてしまうのではと思うのが普通だろう。
今の時代、何やらこういう男同士の何とやらには奥が深いものがあるらしい。
そういう点でも、そしてロードの思惑もエドワードに色んな意味での苦労と疲労を与えてしまったようで。
朝、学校集合から駅までバス、そこから新幹線に乗り、予定の駅まで着いたら、そこからまたバスに乗り、ようやくホテルに着いた。
部屋に入ると、エドワードは荷物を投げ自分の体もベッドに投げた。
「あー…疲れた…」
一日目は元々移動だけで使ってしまう予定だったと言っても、ずっと座りっぱなしというのはやはり疲れる。
「晩飯まで一時間、自由だそうだ」
「あ、そ」
「何だよ、朝から素っ気ないな…」
ロードが気を遣って色々言ってくるのは分かるけど。
「…そういう態度取る原因、分かんねェの?」
「?」
エドワードは怒りを含ませた顔を向けて。
「お前今日、俺を独占して離してくんなかっただろ!」
ロードは窓際にしたのを良いことに、エドワードをトイレ以外でそこから動かそうとしなかった。
トイレもロードが一緒に行くという形で、実質今日傍を離れた時は片時も無く。
「流石に俺だって嫌気がする!」
言い切って、がばっと体を起こしベッドから降りると鍵を持って出て行こうとする。
「おい、何処行く…」
「アルんとこ!晩飯も直で行くからな!」
ロードの言葉に答え終わったと同時に、ガチャン、と扉が閉まった。
「……はぁ、」
静かになった部屋にため息を漏らして眼鏡を外し、ベッドに背を預けて、眼鏡を持ったまま前髪を掻き上げる。
「少し、やり過ぎたか…」
だが学校で楽しそうに話し、頼るのはアルフォンス。
家でも常に一緒に居るのは従兄弟のロイ。
どっちにも入れない俺の気持ち、お前には分からないだろう?
「けど、またとない機会なんだから…」
少しくらい、楽しませてもらわないと。
その言葉を声に出さない変わり、ロードは口元に笑みを浮かべた。
「エド」
「…何」
夕食が終わり部屋に戻った二人。
エドワードはといえば相変わらず素っ気ない態度でベッドに逆向き突っ伏し、ベッドの足元側にあるテレビを見ている。
「アルの所、行かないのか?」
エドワードとは逆に、ベッドの頭部分に背を持たせて聞くと、エドワードの頭が少し動いた。
「…お前は、行って欲しいのか?」
「まさか」
顔を向けて言われ、笑顔で返した。
けどそれは、ロードの精一杯の強がり。
そして、賭け。
「さっきアレだけ啖呵切ったから、俺の顔なんて見たくないのかと思って」
「そりゃそうだろ」
「その割りに、動く様子がないみたいだな?」
そう言うと、エドワードはまた顔をテレビの方に戻してしまった。
「エド?」
「…アルは…」
「ん?」
「アルは、普通理不尽なことに関しては退こうとしないんだけどさ」
一瞬で理解は出来ないが、理不尽という言葉に席決めの時のことだと悟る。
「珍しく何で退いたのかと思って、聞いてみたら…」
普段ロードが一人だから、って。
「…?」
「お前、俺以外に話しかけようとしないだろ?」
それなのに俺はアルばっかと話して、お前一人にしてたから。
「だから修学旅行くらい、譲ってやるんだってよ」
「エド…」
そしてにっ、という笑顔をロードに向けて。
「ま、そういうことだからアルの顔を立ててやろうってことで、仕方なく付き合ってやるよ、お前に」
「はは、仕方なく、ね」
俺が笑ったのは、気付いてくれたのがエドワードじゃなかったのか、ということと、アルの変な親切にで。
それでも、こうして独占できる時間を貰えたのは正直嬉しいから。
「ま、そういうことにしておこうか」
「…って、何でこっち来るんだ」
「え?」
笑顔で俺は、エドワードの居るベッドへと上がり、ごろんと仰向けにして組み敷く形をとる。
「何でって、折角機会を貰えたんだから、有効に使おうかと」
「いや、待て」
「エドが仕方なく、っていうのは気に掛かるところだが、俺はできるんなら構わないし」
「できるって何がだ!」
叫びに、ロードは眼鏡を外して。
「何って…ナニ?」
「…っ!!」
エドワードがロイの、そういうことを目論んでいる時の笑顔に似ていると思った時には既に遅く。
「とりあえず、今日は無礼講ってことで」
「っざけん、ぅ、」
怒鳴ろうと思って開いた口にロードの口が重なった。
「…、っ…ん、」
そういえば口にキスするの初めてか、と冷静な頭の中に反して、舌は激しく動く。
それは余裕のない証拠なのかもしれない。
「…は、…ぁ、」
「…思ったより、甘いもんなんだな」
キスって。
口を解放しても顔を引かず、唇が触れそうな位置で呟くと、エドの顔が赤くなる。
「っ離せよ、」
「無理。火がついた」
エドの動きを封じる為に、キスをしている最中で力の弱っているうちに両腕は拘束済み。
耳元で楽しそうな雰囲気をさせて、そんなことを囁けば。
「っアイツと同じこと言ってんじゃねーよっ」
寄りによって比べられたくない奴と、比べる一言。
「…へぇ?」
じゃあ少しでも、違うことしてやらないとな?
と、企んだ笑顔を向けてやると、間近の顔が焦った顔に変わる。
「…え、」
「こういうのは比べられるのは誰だって本意じゃないだろ?」
「俺は比べてなんてっ」
「エドはそのつもりでも、俺にはそう聞こえた」
顔の位置をずらして、首筋に跡を付ける。
白い肌にくっきりとしたうっ血を。
「っ馬鹿、跡付けんな!」
「頑張って言い訳するんだな」
それも一箇所じゃなく、何箇所も。
「っ、」
「あぁ、ここが好き?」
「っちげーよっ」
だが言葉に反して、正直に跳ねるエドのカラダ。
「…嘘」
「っぁ、」
「まぁ嘘をついた所で、反応は変わらないし。それに…」
少しくらい嫌がられた方が、燃える。
「…っ」
どこまでも、ロイと似たようなこと言いやがって。
だからなんて思いたくない。
力の限り抵抗できないのは。
「…っく、そ、…っぁ、あ、」
「…それにしても…」
何ていい声を出すんだ。
正直なところ、途中で止めようと思っていた。
少し触れれば、満足するんだろうと。
だが考えは甘かった。
こんなに、エドのカラダが甘いものだなんて。
「…エド…」
「っや、め…、」
「…エド…っ」
と。
エドワードの息が溢れる室内に、携帯の着メロが響いた。
「…ぁ…」
とろんとした目を携帯に向け、音に惹かれるように手を伸ばすエドワード。
手は抵抗が少なくなった辺りで、解放していた。
小さなピッという音がして、通話ボタンが押されたことに気付き。
「…って、出るのかよ」
「俺にかけてくる奴っていえば、一人しか居ねェ、だろ、」
「あぁ、」
俺と同じこと言ってる奴、か。
「…はい?」
『…息が荒いな…』
かすかに漏れてくる声は疑っているようだ。
まぁ何かと聞きなれれば、感付きもするだろう。
「はぁ!?き、気のせいだろ!」
『…そうか、そういうことか……エド、ロードに替われ』
「ぇ」
そりゃ、通話ボタンを押してから俺らの会話を聞いたのなら、分かるよな。
エドが俺に渡そうとするより先に、携帯を取る。
「はい?」
『ロード、貴様帰ったら覚えていろ』
「飛んで来ないんですか?」
『良かったな、私が仕事に追われていて』
「そうですね、助かります。では」
通話を終了するついでに、電源を切り、使っていないベッドへ携帯を投げて行為を再開しようとするが。
「ってオイ!」
「中途半端はカラダに悪いだろ?」
「っざけんなー!!」
どうせ帰って痛い目に遭うのなら、やるだけのことはやっておいた方がいいと思ったものの。
流石にエドワードは一筋縄にいかないようで。
お預け状態で、一日目の夜を終えた。
END.
05/08/01
えーと申し訳ないのですが続きません(爆)
何故ならこの展開は二人部屋でしかできないということで、タイトルは続きそうな雰囲気ですがご了承下さい…!
元々匿名で修学旅行というリクエストを頂いたので、
何気に人気のあるらしいロードをからましてやろうということで思いついた話です。
シリーズ更新の要望も嬉しい限りです!v少しでも楽しんで頂けたら本望!
それにしてもロードの口調が定まりません!(爆)
ブラウザでお戻り下さい。