まだ雪が残る今日この頃。
学校の一大行事とも呼べるそれは、開かれた。
寒い体育館を暖める為にたかれた数個の暖房器具。
式が開かれる直前にそれは消され、音は止む。
その周りに並べられた多数の椅子には、今から入場する人達を待ち侘びる両親たちと、在校生の皆が座っていた。
前に置かれた空席も、同じようにして座る人物を待っていた。
そしてある先生の一声で。
俺たちは入場した。
卒業祝い
神聖な式が終わって教室に戻れば、担任の最後の話がある。
親たちを待って始められた話は、卒業式には当たり前の、これからも頑張れというような内容で。
当たり前の内容を言われるくらいなら、少しでも俺たちを感動できるような言葉でも掛けて欲しいものだ、などとエドは頬杖をつきながら思った。
とはいえ上に上がっても、他の小学校一校と合わさるだけで、この顔ぶれは変わらないからか、エドには殆ど悲しみなど込み上げては来ないだろうが。
むしろ中学に上がれば、少しはマシな授業が期待出来るだろうかと、今から少し楽しみなくらいだ。
だが周りの皆、特に女子の面々はやはり雰囲気に敏感というか、涙を目に浮かべる者が多い。
親も我が子達の巣立ちが嬉しいのか、感動している人が多い。
(ま、俺んトコは相変わらず来ないけど)
両親が共働きで忙しいアルの両親でさえ今日は来ているが、エドの家は相変わらず誰も来ない。
義父は勿論来てくれる訳などない。
前日に祝いの言葉と、プレゼントが届いたということは、一応は可愛がってくれてるらしいが、仕事をほっぽってくるような人ではないのだ。
しかしそこは自分の信念を貫いているんだ、と思えて密かに憧れていることだから、咎めはしないが。
そしてもう一人の家族はといえば。
以前の授業参観のような心臓に悪いことがないよう、そして一応重要なことだからロイには話はしたが、今日はどうしても時間が作れないらしく。
今朝もごめんと謝られたが、俺としては正直有り難かった。
正装して来られようものなら、倒れるものが居たっておかしくはない位、カッコいいのだから。
男の俺から見ても、言えるほど。
でも正直、少し残念な感情はある。
が、そんなことを正直にロイに言った日には、何をされるか分かったものではない。
実は既に。
『今日の式には行けないけど、夜は空けてあるから』
二人だけで、祝おう?
などという約束をしてたり、いや、一方的にされてたりする。
否定するわけにも、否定する理由もない俺は、断る術など持っていない訳だから、大人しく交わすしかなかったが。
気になるのは、その時の楽しそうな笑顔。
(…嫌な予感が、する)
思い出しただけで、眉間にしわが寄る。
担任の話より、俺にとっちゃそっちが気になるんだ。
「抜けらんねェよなぁ」
「流石にね」
ぽつりと言った言葉に、アルも暇なのか、同意を含むような口調で言われた。
(気になる…)
一度思い出してしまったものを気にかけるなという方が無理だ。
とりあえず。
今夜までの辛抱だ。
ただいま、と既に聞き飽きた声が聞こえ。
「お、帰って来た」
エドはいつもよりも少し豪華な盛り付けの皿を並べていた手を止め、玄関へ向かった。
「おかえ、」
お帰り、という言葉は途中で途切れ、ロイの胸の中に消えた。
抱きしめられたと気付いた時には、腕は背中に完全に回ってて。
「ただいま」
「…おぅ」
「卒業おめでとう」
「どーも」
しかも自分の事以上に嬉しそうに言われてしまっては、突っぱねられないじゃないか。
声は不機嫌に出してはいるものの、きっとこの人には分かってんだろうな。
ホントは俺も嬉しいんだってさ。
ここまで感情が筒抜けっつーのもどうかと思うけど。
「まずさ、」
「?」
飯、食おうぜ?
エドはロイの胸から顔を上げて言った。
雰囲気ぶち壊しってことで、チャラにしとくから。
エドの作った食事を一通り楽しんだ後。
「そういえば、父さんからのプレゼント、何だったんだ?」
「あー、あれな」
ロイの入れた紅茶を両手で受け取り、カップを包むように持って飲んでいると、ふと聞かれた。
一週間前、電話で何が欲しいかと聞かれていたことはロイにも話していたが、これが欲しいと父に言ったところまでは話してはいなくて。
だが昨日父からの国際便が届いたのはロイも気付いていたようで。
「英語だけで書かれてる本、一度読んでみたくてさ」
数冊面白そうなのが欲しいって言ったんだ。
そう言うと、ロイは口に入れた紅茶を噴き出しそうなのを堪えて、見開いた目を向けて。
「洋書が読めるのか!?」
「え、まぁ」
エドのさらっとした返事に、また驚く。
まさか理数系に秀でているだけでなく、英語まで出来るなんて。
一体何時の間にそんな知識を得るのか、不思議でならない。
「でもさー、十冊も送ってくれるとは思わなくてさ、一晩じゃ読み終わんなくて」
「当たり前だ」
それは現地の人たちでも無理だと思うが。
という台詞は敢えて口には出さなかったが。
「それにしても、本だったのか…」
「何?どーかしたんか?」
聞かれて、ロイは椅子の横に置いておいた鞄から一冊の本を取り出して、机の上に滑らせるように置いて。
「じゃあこれはいらないかな?」
私からのプレゼントなんだが。
そう言われ置かれた本を見れば。
「…っえー!?」
以前から欲しいと思っていたが、それはもう手に入らないと諦めていたもので。
「これ、絶版になったやつじゃ!?」
「そう。だが友人に当たってみたら、偶然持っている奴がいてね」
少し高かったが、譲ってもらったんだよ。
笑顔で言ったが、既にエドの視線は本にのみ注がれていて。
「うわー!わー!マジ嬉しー!!」
だがこうして心底喜ぶ顔を見られるのだから悪くない。
「ありがとな!!」
そしてその顔を私にも必ず向けてくれるというのだから、また嬉しくて。
決して照れ隠しではないのだが。
それは好きな子を苛めたいという衝動に似ていて。
どうもつい。
「…もう一つ、あるんだけどね」
欲しいかい?
「え、まだ何かくれんの?」
エドの目は輝いたまま。
「エドが欲しいっていうんなら、あげるよ」
その目に向かって言うと、また嬉しそうに。
「もらえるモンはもらう」
そんな風に言うから。
どうもつい。
「じゃあ、あげようか」
余計なことを言ってしまうらしい。
「って、何だよこれぇ!?」
「何だって、欲しいっていうから」
あげようとしてるのに。
さらりと言われては、組み敷かれている側としてはどうしたらいいか分からない。
エドはあの後、笑顔のロイにひょいと横抱きにされて、何故かロイの寝室に運ばれて。
運ばれている間、足をバタつかせて抵抗してはみたものの、こうも体格が違うと全く歯の立たないものだろうか。
ベッドに下ろされても、ロイは抵抗する隙も与えてくれなくて。
こうして今に至ったりする。
「まさか、あげるって…」
流石にここまでされれば、多分鈍いであろう自分でも分かる。
「そう、私を」
「っ!」
いざはっきりと言われると、体が固まってしまう。
(つまり、ロイは俺とそういうコトを望んでるわけで…)
正直、もしかしたらそういうこともあるんじゃないかとは思ってた。
だって男どうしてあんな深いキスとかって、明らかに変じゃんか。
ある程度は覚悟はしてたけど。
でも、こんなに早くその日が来るなんで、思わないだろう!?
俺はまだ十二だぞ!?
そんなことを考えている間にも、アンダーシャツの下を、ロイの手が滑る。
「っ、」
その瞬間に上がりそうな声は何とか堪えたけど。
シャツを捲られて、胸の赤いところをいきなり舐められたら。
「ぅあ!」
そりゃあ声も上がるだろう。
だから俺は目一杯抵抗するのに。
「っや、だ!…やだ、つって、…!」
そんなにねっとり舐められたら、抵抗することも出来なくなる。
「…あぁ、泣かなくていいから」
自分も分からない恐怖に、いつも間にか涙を流してたらしい。
気付いたロイが、俺の頬についた涙の跡を追いかけて消してくれるけど。
それすらも、俺には恐怖を煽る要素でしかなくて。
でも強がりを言わずにはいられなくて。
「…っ泣いてなんか、ねェ…っ!」
「…悪かった、意地悪し過ぎたよ」
「だったら止めろ!」
「……それだけは、出来ないな」
「何で…っ!」
困ったように言うロイを責めると、また困ったように。
「だって、君が欲しいから」
どうしても今日。
欲しいから。
「…っ、」
何で、そんな風に言うんだよ。
俺が断れないってこと、知ってて言うのかよ。
自分じゃ認めないつもりだったのに。
俺がアンタのこと、好きだって知ってていうのかよ。
「…アンタが、欲しがって、どーすんだ…」
性質が悪い。
ホント、性質が悪い。
「俺の、卒業祝いなんだろ…っ」
そんなアンタを好きな俺も。
「俺が、もらうんだかんな!」
相当性質が悪いけどさ。
「エド、」
エドの発言に驚いたのか、ロイの手は止まったまま。
それが居た堪れなくなったのか。
「〜〜っ何だよ!俺が!俺から!欲しいっつってんのに!!」
くれない気か!?
叫べば、ロイは。
「…ごめん、」
今、あげるから。
そう言って嬉しそうに笑って。
俺に、口付けた。
「…ん、」
キスされたと実感する前に、もう舌が入ってきた。
ここまできたらもう抵抗も何もない。
俺はもらうんだから、後は受け入れるだけ。
「…ぇ、ぁ…」
唇が離れて、ロイの視線が下の方へ向く。
エドもそれを追いかけるようにして下を見れば、手がズボンのベルトに掛かって。
照れる間もなく外されて。
緩くなったズボンをするっと下着ごと下げられた。
「…っ、」
後戻り出来ないところまで来たんだと、思い知らされる。
でも不思議と、嫌じゃなかった。
ロイだと思うと、嫌悪感なんて少しもない。
だけど。
「―――っ!!」
体を下げられて、自分のを口に含まれれば、流石に何か怖さとは違うものが込み上げてきて。
「っぁ、…っ、は、…は、」
夢精経験はあっても、自慰経験などないエドには、物凄い衝撃だろう。
一瞬で、熱い感覚が中心に集まる。
どうやったら、この熱を開放できるのだろうか。
「…イって、いいよ?」
「…っ、わ、かんな…っ」
分からない。
教えて。
「っ、」
膝は立てられてロイに向かって開かれて。
漏れる声を抑えるようにして口元を手の甲で隠して。
瞳には生理的な涙を浮かべて。
そそられない、訳がない。
「…抑えなくていいから」
込み上げてくる感覚をせき止めようとしないで。
素直に、従うんだ。
「…ん、」
ぎこちなく頷いたということは、伝わったのだろう。
「…あ、ぁ、ぁ、あ、」
声も抑えなくなった。
短くなる吐息。
それがエドの限界を物語っていた。
抑えるなと言った手前、こちらもそれを抑える訳にはいかない。
強く、吸うと。
「や、も、だ、…っあ、あ、ああ、あぁ…――――っ!!!!」
幼いなりの、精液が口の中に放たれて。
ごくんと躊躇いもなく飲み込むと、飛びそうになった意識を必死に繋ぎ留めながらも睨む義弟がいて。
「…っ、今、飲ん…」
「飲んだね」
「な、」
これ以上赤くなり様がない分、溢れた涙で羞恥を示されたが。
「…コレ位で恥ずかしがっていたら…」
この先はどうする?
つい、と手を後ろにやって。
「うーっ、」
そしていよいよ指を入れようとした。
瞬間。
トルルルルルル、
「「!」」
ベッド際にある電話が鳴り出して。
雰囲気を一気にぶち壊した。
その音に脱力をしたロイだったが、此処で止めては自分が辛いと、続けようとしたが。
「出ろよ」
「…しかし、」
「出、ろ!!」
エドが体を少し回して、受話器を取ってしまったものだから、出なければならなくなってしまって。
自分が面倒だからとベッド際に置いたのをこれほど後悔したことはない。
ともあれ、渋々電話に出ると。
『あ、社長』
「…ハボックか…」
声の主は自分の会社の部下だった。
出来る方だとは思っていたが、タイミングは悪いと今分かった。
『何すか、その声は。携帯にいくらかけても出ないんで、家の方に電話したんですけど』
「…で?」
こうも美味しい所で寸止めされるのは本当にイラつく。
早く話せと言わんばかりに不機嫌に答えた時。
「―――っ、」
「あ、エド!」
自分の下に居たエドは、いつの間にか服を着直して、ベッドから降り。
引き止める間もなく逃げ出すように部屋を出て行ってしまった。
そんなことを全く知らないハボックは。
『?社長?聞いてますかぁ?』
こっちも急いでるんだ、と急かすように言うが。
「…貴様…」
『え、』
思った以上に低い声で返ってきたのには流石に何かを感じて。
「…お前、死ぬほど働きたいらしいな」
『は、いや、そんなことは』
一言も。
そう言うより早く。
「よし、明日から一週間出勤時間は朝の6時から夜11時。勿論残業手当なんぞ出さん」
『はぁぁ!?ちょ、待って下さいよ!?』
何でいきなりそんなことになるのか。
一体電話の向こうで何があったのか。
せめてそれを教えて欲しい。
いや、願わくば前言撤回して欲しい。
「私の楽しみを奪った代償はでかいぞ」
『そんな…』
労働基準法もあったもんじゃない上司命令に、用件も告げることも忘れるハボックだった。
そしてエドはと言えば。
「流されるにも程がある…」
自己嫌悪に陥りつつ、電話に貞操を救われたことに安堵していた。
が、少ーし残念な気がするのは、黙っておこう。
END.
04/11/23
って寸止めー!!(爆死)
すいませ…!思った以上に話が長くなって、最後までやったら収集が…(滝汗)
あ、続き物で書けば良かったのか…(爆)
でも完結してしまったので、完全に一線を越えるのは次辺りで…!
んでハボックが出てきましたが。
ロイの部下ということで働いております。
いずれ重要な役所になる…予定?(爆)
ブラウザでお戻り下さい。