現在の時刻、六時半過ぎ。
本来ならばエドもロイもようやく起きてくる時間帯なのだが、本日はもう食卓に朝食が並んでいる。
「帰りは?」
「あぁ、いつもと変わらないよ」
夕飯も家で食べるよ。
ロイは左手で味噌汁の器は持ったまま、箸を持った腕の力を抜いて言った。
エドもそっか、と卵焼きを頬張りながら答えた。
とある日常風景
昨日の夕食時。
「明日、朝早いから」
と、ロイは目の前で同じく夕食を食べているエドに言った。
「は?何で」
箸を止めて理由を聞けば。
「早朝から重要な会議が入ってしまってね。いつもより早く出ないといけなくなった」
話す間も端の動きは止まらず、色とりどりに盛り付けられた皿に手をつけていく。
その所為か、喋る言葉は時々こもって聞こえた。
「んじゃあ朝食も早いんだな」
目覚まし、いつもより早くかけとかねェと。
エドは噛んでいた物を飲み込んで言うと、ロイの手はようやく止まり。
「いや、朝は何処かで買うからいいよ」
「何で」
「何でって…唯でさえいつも朝食を作るために早く起きているのに…」
基本的に、この家が雇っている家政婦には掃除しか任せていない為、洗濯、食事は二人でやることになっている。
だがいつも定時で上がってくるのが不思議なくらいの、大会社の社長をやっているロイにそんなことを任せられるはずがなく。
エドもエドで、普通の中学生ならば7時くらいにようやく起きて、顔を洗って、出来ている朝食を食べるだろう。
しかしこの家には朝食を作ってくれる人が自分以外に居ないわけで。
だから必然的にエドがやることになっているのだが、それはロイがエドに強制したことではない。
唯でさえ早く起きて、半分自分のために朝食を作ってもらっている身としては、これ以上早く起こすというのも申し訳なく、否定したのだが。
「別に今更じゃん」
つか、俺早起きが苦だなんて思ってねーし。
「だが、」
そんな風に卵焼きをもう一つ頬張って言われたら、甘えたくなってしまう。
こっちは君を少しでも休ませてやろうと思ったんだが。
「いーよ。アンタ何時に出んの?」
味噌汁の器を口元に持っていったせいで口元は見えないが、確かに了承の言葉を言われて。
しかも上目遣いときたら、私限定だが断れるわけがないだろう。
「……七時前には」
「じゃ六時前には起きねーとだなー」
エドの中ではあっさりした会話で終わったのだろうが、ロイの中ではそうはいかず。
「…愛、かな…」
感極まった感情を口から出して、余韻に浸ろうとすれば。
「出た、勘違い」
「…」
ずばっと切られ、一瞬凹んだが。
それにも慣れたようにあっさりとツッこむあたり、愛があるのではないかとまた思い込んで、この傷みを乗り切り、更にプラスされた余韻にも浸りつつ夕食を終え。
「ご馳走様。美味しかった」
いつものように微笑んで言えば、これも今のエドには心からの言葉と受け止めてもらえないのか。
「ふぇーい」
箸を口に銜えたままソースを取るエドが居たが。
とりあえず、明日の朝も一緒に食べれるのだから、文句は言うまい。
「行って来るよ」
「おぅ」
朝食を終え、食器を重ねるエドにロイが言うと、素っ気ない返事が返ってくる。
今だ昨日と今朝の余韻が残っているのか、その返事では満足できないらしく。
「…行って来る」
「おー」
しかし再度言っても変わらない。
むしろ、先程より素っ気なくなったのではないだろうか。
そんなロイの不満も露知らず、エドは重ねた食器をキッチンに運ぶ動作を繰り返している。
「行って来る」
「んー」
「行って…」
「あーしつけェな!!何度言ったら気が済むんだアンタは!」
水道の取っ手を捻って勢い良く水を出しながら叫ぶエド。
「聞こえてっから返事してんじゃねーか!!」
「だが愛が感じられん!」
「あぁ!?」
何を言うんだこの男は。
あまりに変な理由に、逆に呆れてしまいそうだ。
脱力すればその隙を狙ってか。
「…この間はあんなに求め合っ…」
「っだー!!テメー朝っぱらから何言ってんだ!!」
突拍子がない上、いきなりそんな話を出されれば誰だって真っ赤になって、その言葉が出てくる相手の口を塞ぎたくなる。
「っの…、疲れさせんじゃねーよ…」
「勝手に怒鳴ったのはエドだろう」
折角一度落ち着いたと思ったのに、まだ怒鳴らせようとするか。
あーくそ。
どうにかしてくれ、この男。
その、例のあの日から調子に乗ってしょうがないこの男を。
「つーか、行かなくていいのかよ」
この際奴の調子は置いといて。
そろそろ現実に引き戻してやらないと、互いに早起きした意味がなくなる。
「おっと、そうだ」
時計を見て焦った様子でコートを着て黒い鞄を掴むともう一度。
「行って来るよ」
真っ直ぐ目を見て言われ。
「…行って、らっしゃい」
堂々巡りにならないよう、エドは仕方なく見送りの言葉を言えば、ロイは嬉しそうに笑ってリビングを出て行った。
「…はー…」
ようやく、いつもの朝が戻ってきた気がする。
ため息を一回付いて、日課である食器洗いを始めながら。
「そういやそろそろ買出しに行かねェとなぁ…」
冷蔵庫の中身を思い出していた。
夕方。
一緒に帰ろうというアルの誘いを申し訳なく断り、エドは少し遠回りをして、家から一番近いスーパーへと向かっていた。
いつもはロイが帰ってきてから車を出してもらって行くのだが、ここ暫く何かと怠けてしまって、買出しに行くのを忘れていたため、今日の夕飯すら危うい。
ロイを待っていたら夕飯も作れないということで、一度家に帰ってからまた行くのも面倒だから、こうして帰り道に寄ることにした。
のはいいが。
「…持って帰れっかな…」
カゴを掴んで、重要なことを思い出した。
買うものも覚えている。
金も持ってきた。
だが自分ともあろうことが、買う量からの人手を計算に入れてなかった。
学校の鞄もあるし、これでは大した量を買えない。
「仕方ない、とりあえず重いのは諦めるか…」
「足ならあるが?」
「っ!?」
とん、と背中に温かさを感じて、聞こえてきた声。
上を振り仰げば、見慣れた顔が笑っていて。
「何で、」
こんなスーパーにアンタが。
そう聞くより早く。
「予定より仕事が早く終わってね。その帰り道にエドを見かけたら、ここに入っていくじゃないか」
だから、追いかけて来たんだよ。
言いながら体を離して、もう一つカゴを掴んで。
「買うものが沢山あるんだろ?」
だったら、一つじゃ足りない。
その言葉を俺に残して、ロイは早く帰りたいからか、さっさと先を行ってしまった。
その姿が、何だろう。
新鮮な感じからか、呆けて見惚れていたと言うのか、そんな感じで突っ立っていたが。
ふっと笑って、足を踏み出して追いかけて。
「アンタ、買うもの知らねェだろ?」
追いついて。
追い越して。
振り返って。
にやりと笑って。
「アンタが、着いて来いっつの」
荷物持ちは、それで十分。
「…了解」
俺の笑顔とはまた違った笑顔を返して。
前に向き直って歩き始めた俺の後を、大人しくついてくる。
それが何だかまた新鮮で。
俺よりもずっと大人なのに、俺よりも子供っぽいときもあったり。
些細なことでも、凄く嬉しそうに笑ったりして。
それを思い出すと、何か俺も笑えてきて。
並んで歩くロイに気付かれないよう、笑ってみたりして。
ほんの少し、幸せな笑顔で、笑ってみたりして。
END.
04/12/03
…何だろう、この話…(汗)
最初は買い物だけの話にしようと思ったら、こんなになってしまって…。
まぁたまにはこんな話も…いいんじゃ…ない…か…な…?(酷く疑問)
ブラウザでお戻り下さい。