十二月のある休日。
外は既に冬の色に染まっていて、歩く人々の息遣いは白い色で表現されるようになった。
尤もそれは外を歩いていたら見えることであって、今広いリビングに掃除機をかけているエドワードに分かることは精々庭程度の範囲だ。
それでも窓際に立ったエドワードでも十分に分かるほど、それは見えた。
「…あ、」
雪だ。
そう呟き掃除機を止めて窓を開けた。
冷たい空気が肌に刺さるが、掃除で動いていたエドワードにとっては少し熱い位に感じていた部屋の空気からすれば心地良かった。
休日の比較的朝早い時間ということもあって、家の近くの道路を走る車は少なく、しんしんと降る雪の無音が辺りを包んでいる。
掃除機を切った家の中も暖房の音以外はなく、静かな空間が作り出された。
ロイは昨日の仕事が片付かないとかで、朝早くに出かけて今はエドワード一人。
エドワードが喋らなければ、辺りに音はしない。
雪が降っていると、どうしてこんなに静かなんだろう。
まるで雪が音を吸っているように、辺りは雪に包まれていく。
そうして世界が白く染まっていく過程が、エドワードが好きだった。
それこそ、幼い時に飽きもせず何時間も外を眺めていたほど。
「……寒、」
流石に薄着のまま外の気温に晒されていれば体も冷える。
窓を閉めて体を抱くようにして両腕を擦った。
寒い。
自分で思わず漏らした言葉に、ある記憶が脳裏から出てきた。
「―――そういえば…」
と。
幼い頃、親と過ごしたクリスマスを。
粉雪
まだ父さんも母さんも生きていた頃。
クリスマスは必ず家族である場所のツリーを見に行った。
そのツリーは毎年とても綺麗に飾り付けられ、明かりを纏っていて。
昼に見に行って白い雪の中、雪に負けじとキラキラと光るツリーも好きだったけど、俺は夜のツリーの方が好きだった。
夜のツリーは明かりを纏うのではなく。
ツリーの電飾が周りに積もった雪に反射して、輝きを纏うのだ。
その輝きに毎年魅せられて、毎年父さんに頼み込んで夜に連れて行って貰って、小一時間もじっと二人でツリーを見ていた。
父さんは最初の頃は早く帰ろうと何度も俺に言ってきたけど、それでもずっと俺に付き合ってくれてた。
気温が下がるから昼に行こうと言い張る母さんはその間家で留守番をしてた。
でも俺たちが冷え切った体で帰ってくることを知ってるから、必ず温かいココアを用意して待っててくれた。
それは俺が飽きるまで、続くことだと思ってた。
思って、たのに。
それは脆くも崩れ去った。
父さんたちが亡くなった時、そして直ぐ引き取られた時はクリスマスのことを考える余裕なんてなかったけど、街が華やいでくると否が応でもそれを知ってしまう。
俺は引き取られた日からその日まで、ずっとロイに迷惑が掛からないようにと我が侭を言ったことはなかった。
あれが欲しいとも、これがしたいとも。
何処へ、行きたいとも。
けど、俺はどうしてもツリーを見に行きたかったんだ。
毎年ずっとあの輝きに癒されていた部分もあった俺は、自分を押し殺してそれを発することが出来なかった時こそ、俺はツリーを見に行きたくて。
初めて、ロイに言ったんだ。
「……明日……ツリー、見に行きたい」
小声だったけどそれを聞き取ってこっちを見てくれたロイ。
「――ツリー?」
正直、期待した。
けど返ってきた言葉は。
「良いよ、見に行っておいで」
「…っ、」
期待を大きく外れたもの。
たった数ヶ月じゃ分からないことなんだろうか。
分かってなんて貰えないんだろうか。
一人で行って来いと言われるより。
(……嘘でも、一緒に行こうと言ってくれた方が、何倍も嬉しいのに)
結局俺はその年、ツリーを見に行かなかった。
一人で行ったって何も楽しくなんてない、嬉しくなんてない。
あの輝きが、綺麗だとも思えない気がして。
翌日、ロイに見に行ってきたかと聞かれた俺は、頷いて答えた。
下手に首を振って追求されたら嫌だったから。
見に行かないでずっとベッドに伏せってた、なんて。
「―――変わってねぇなぁ…」
掃除機をそのままにして、家を出て。
俺はある場所にある大きな木を見上げていた。
綺麗に彩られた、木を。
その年から去年まで、俺はツリーを見には行かなかった。
一人で行ったところでやっぱり綺麗だとは思えないと思ったし、ロイにまた見に行きたいと言ったところで同じことを言われるんじゃないかと思っていたし。
きっと小さな、トラウマになってたんだ。
それを無意識に心と頭の片隅に追いやった結果、俺はツリーのことすら忘れていた。
思い出したのは粉雪が、降っていたから。
俺が好きな雪はこんなんじゃないって、そう思ったら。
父さんと見た、ツリーを思い出して。
もう一人でもいいから、夜じゃなくてもいいから。
どうしても見たくなって、来てみたけど。
(…不思議、だ…)
一人で見に来たのに、純粋に綺麗だと思えてる。
ずっと、一人で見たってって、思ってたのに。
何でだろう、と。
ツリーから視線を逸らした時。
「…ぁ、」
「エド」
俺のトラウマを作った奴が、こっちに歩いてくるのに気付いた。
「どうした?買い物か?」
「…別に」
ツリー見に来ただけ、と素っ気なく返せば。
「ツリー?前に見に行きたいと言っていた?」
「…ぇ…」
思いも寄らぬ返答だった。
だって、それを言ったのはあの時だけで。
しかもアンタはさらっと返しただけで。
「…覚、えて、」
覚えているわけないだろうって、聞いたら答えそうなことなのに。
アンタにとってそんなことかってことなのに。
「…エドが、初めて強請ったことだったからな」
覚えているさ。
そう言って、微笑むアンタ。
「…何、で…」
覚えているんなら。
微笑んでくれるんなら。
「っだったらどうして、あの時、俺に行っておいでなんて、」
「エド?」
「俺は、ただ行きたかったんじゃなくて!」
アンタと、行きたかったのに。
「…私、と?」
「そうだよっ!だったら言わねェだろ!」
感情的になって言い出してしまったら止まらない。
だったらこの際勢いのままにあの時溜め込んだものを吐き出してしまおうと、更に勢いをつけようとしたら。
「私は友達と行くんだとばかり…」
「…は?」
勢いを止める一言。
「俺そんなこと言わなかっただろ!?」
「だからだろう。一緒に行こうと言われなければ普通はそう思う!」
「っ、」
逆に勢いづいたロイの言葉が攻めてくる。
「一緒に、と言ってくれれば私は喜んで行ったのに…」
「え…」
何というか、お互いにずれが生じていたというか。
「だって、俺、その頃まともな友達…居なかったし、」
お互いのことを、まだよく知らなかったというか。
「…勝手に理解した気でいたんだな、私は…」
「俺だって、分かってもらってた気で…」
そんなことを告白し合ってるというのが。
何か、笑えて。
「ははっ、何やってたんだかな、俺たち」
「仕方ないさ」
「え?」
「いくら互いを知っていても、伝えられないことなんて沢山ある。――その為に、言葉があるんだろう?」
「ぁ…」
当たり前のように使っている言葉。
けど当たり前だからこそ、気付かないこともある。
言えば、何でも伝わるわけでもないけど。
でも言わないと伝わらないこともある。
それが、いくら親しい人でも。
好き合って、いても。
「―――また、ツリーを見に来よう。…クリスマスに」
「ぇ…」
多分。
今、一人でツリーを見に来ても綺麗だと思えるのは、アンタを知ったからだと思う。
あの時、一人で来ていたらきっと思えていなかったと思う。
それはアンタを知らなかったからで。
俺は今、あの時よりずっとアンタを知ってる。
アンタを感じてる。
だから。
「今度は、ちゃんと伝わったか?」
粉雪が、降っている。
「…うん、」
粉雪は積もらない。
地面に落ちたら直ぐに融けて消えてしまう。
でも。
きっとクリスマスには牡丹雪に変わって。
銀雪となって。
両親と見に行った時のような、輝きを見せてくれるだろう。
そしたら、父さんに言ったみたいに、ロイにも言いたい。
「メリークリスマス、父さん!」
「メリークリスマス、エド」
「メリークリスマス、エド」
「…メリークリスマス―――ロイ、」
END.
05/12/17
少々遅くなりましたが(汗)改めて40万打ありがとうございました…!
前回の大台からもう!?という感じで今だ信じられない感一杯なのですが(爆)
でもでも本当に嬉しいです…!(感無量)
えーと時期も時期なので、クリスマスも兼ねて暫くフリーにさせて頂きますv
タイトルはレミオろメンからですが、あくまでタイトルだけ(苦笑)
以前義兄弟でクリスマスネタを書いた時は雪に触れていなかったので、
今回はがっつり雪ネタ!おかげで絡み少なくて申し訳(爆死)
でも雪って純な感じがあるので、淡白にってことで。前回のクリスマスネタがネタだったし…(苦笑)
ではでは本当にありがとうございましたvv
ブラウザでお戻り下さい。