「お帰り」
「ただいま」


それはいつもと同じように繰り返される会話。
その後は一緒にご飯を食べて、個人の自由時間となるのだが。


「な、前言ってたよな」
「何を?」
「勉強、教えてくれるって」
「あぁ、言ったね」


フォークを加えながら上目遣いで言う。
ロイはその言葉に偽りはないと頷くと。


「じゃさ、今日この後頼めっかな」


何より自分一人の時間を大切にするエドが、嬉しそうに頼んでくるのだ。
その日はロイにとってマンネリ化していた日常に、潤いが注がれた日になった。



家庭教師





夕食の片づけをした後、エドの自室にてそれは始まった。
エドは机に座り、ロイは机に右手を付き、エドを見下ろすように後ろに立って。


「じゃあ何から教えればいいかな?」
「んー、とりあえず一通り」


そう言って鞄から五教科の教科書を出す。
大人ぶって見えていても、体は勿論、歳だってまだ十一歳で。
算数五などと書かれた教科書を見て、改めてエドの年齢を噛み締める。
と、ふと思った。
今思えば、エドの成績をきちんと把握していなかったと。
通知表として見せられたことはあるが、それは三段階の丸で書かれているため、どう考えても点数など分かるわけがなく。
小テストなども私が見る時間がないことを知っているのか、今まで一切見せてもらったことはなかった。
なので、エドが今どれだけ勉強が出来るかなどさっぱり分からず。
通知表で素晴らしいと書かれてはいるが、それだけでも判断しかねないわけで。


「…そうだな、エドは五教科の中でどれが好きだ?」


とりあえず好きな教科を聞いてみる。
誰でも好きな教科ほど勉強するのが楽しいものであるから、エドも例外ではないはず。
自然と成績も上がるはずだ。


「好きなの…は、理科と算数かな」


後ろに立つロイを振り仰いで言う。
エドの座る椅子は少し高くなっているため、屈んでいたロイとの距離が縮まり、ロイは一瞬胸が高鳴った気がした。
しかしこんなところで盛ってしまったら、これまで築いてきた良い兄は水の泡。
元々、壊すつもりではあるが、まだ早いというのは分かっていた。
良い兄を崩すのは、もっとエドの中で私という存在が大きくなってから。
ロイはそう思っていた。
好きな教科が分かれば、まずはそれからだ。


「じゃあ…算数のこれと、これと、…この問題。あと理科のこれとこれ、やってみなさい」
「おぅ」


エドは楽しそうにシャーペンを走らせ始めた。
その間に、ロイはエドの部屋を見回す。
こうしてエドの部屋に入ったのは久し振りだ。
シンプルを好むエドの部屋は、以前とはあまり変わっていない気がする。
変わったといえば、家具の配置くらいだ。
しかしエドのために買ってやった家具は、どれも一人では動かせないほど大きなものばかり。
どうやって動かしたのかは謎だが。
と。


「終わったぜ」
「は?」


呆れた声で振り返ると、エドは嬉しそうにロイを見ていて。
だがロイが五問ほど問題を出したのはたった一分前。
小五にしてみればそれなりに難しい計算も入った問題を出したはず。
それをたった一分で解くとは。
驚きつつも、答え合わせをしてみる。
そうだ、間違っている可能性だってある。
そう思って自分も確かめ算をしてみたが、どれも模範解答と言えるほど完璧な解答をされれば、文句など言えないだろう。


「……合ってる…」
「完璧だろ?」


エドは歯を見せて笑う。
まさかここまで頭が良いとは誰が思っただろう。
しかしこれなら、私に勉強を教えてくれと頼むまでもないのではないだろうか。


「苦手な教科は?」


一応苦手な教科も聞いてみるが。


「ないよ」


基本的にどれも得意。
そんな台詞が返ってきては何も言えない。


「だったら、私は何を教えればいいんだね?」


いきなり教えなくてもいいだろう、などと言えばエドが傷付くだろうし、自分らしくないとは思うが、何よりこの時間を失うのが嫌だったのだ。
だから、まだこれからもこの日が続くようにと思いつつ、ロイは言うと。


「俺さ、経済とか世界情勢とか、そんなんが知りたい」


そりゃあ誰だってまだ十一歳の子供がそんな台詞を言えば、驚くだろう。
だがその台詞を聞いた後、何と言ったら言いのか。
いくら若い身で会社を任されているとはいえ、こんな経験はないのだ。
そうして言葉を必死に探している間も、エドは楽しそうに続ける。


「あとさ、現代の科学とかにも興味あるんだ!」


ロイ兄、大学でそういうの専攻してたんだろ?
だからさ、少し前の話でもいいから、教えてくれよ!


「…だ、だがね…」


小学五年生の勉強を教えてやろうと思っていたはずなのに。
いきなり大学の授業にまで飛躍するとは誰が思っただろうか。
エドのことだ、分からない位置まで飛躍する程先走りはしない。
ということは、今までにこつこつと中・高の勉強もこなしてきたに違いない。
こんなに勉強が好きな意欲を、誰が削げると。


「なー、頼むよ?」
「っ……、」


縋るようにしての上目遣いは反則だ。
先程も思ったが、どこでこんな技を覚えたというのか。
傍から見れば可愛い子供。
しかし私はそれ以上の対象としてみているのだから、益々性質が悪い。
だがふと思った。
この機会を逃すのは惜しいのではないかと。
大袈裟だが短い人生、この機会を逃したら今日みたいな日は一生やってこないかもしれない。


「…分かった、じゃあこうしよう」


これ以上ない笑顔で言うロイ。
こうなったらもう変態でもロリコンでもなんでもいい。


「エドから私にキスをしてくれるのなら、喜んで引き受けよう」
「……あ?」


エドは一瞬で険しい顔になるが、ここまであからさまに言った言葉はなかったことに出来るわけがなく。


「聞こえなかったか?君から…」
「聞こえたよっ!」


もう一度言おうとすれば、真っ赤になってそれを止めるエド。
否定しないということは、少なからず考えてくれているということだろう。
ロイは追い討ちをかけるように。


「…どうする?」
「…アンタ、変態だろ」
「よく知っているじゃないか」


何とでも言え。
一度覚悟を決めた心は強い。
俯いていたエドもロイとは別な意味で覚悟を決めたのか、ばっと真っ赤な顔を上げて、椅子から立つと。


「〜〜〜っ!」


ロイの服を掴み、自分の体重をかけて少し屈ませ。
屈ませたところでエドは思い切って。
自分の唇を、ロイの口に押し付けた。
それは刹那の出来事だったが、ロイはそれが嬉しくて。


「…別に、口とは言っていないのだが」
「!!!!」


つい意地悪を、言ってしまったものなら。


「〜〜〜っ出てけーー!!!!」


もう少し堪能したかった雰囲気ごと、部屋から追い出されてしまった。





「…少し、からかい過ぎたかな?」


自嘲気味に笑って、思いきり閉じられた扉越しに。


「望みとあらば、いつでも教えるよ?」


勿論、今みたいなこともね。
自分にとってはさらっとした台詞だったのだが、敏感なエドには分かってしまったのか。


「いらんっ!!」


と、扉越しにも割れんばかりの声が響いてきて。
ロイはまた、口を押さえて笑った。








「…っそー…」


どうすんだよ、俺のファーストキス。
真っ赤な顔で、涙目になって、ベッドに突っ伏して。
エドは目覚めたばかりの小さな何かに、戸惑っていた。



END.





04/11/09
…手が早いぞマスタング!!(笑)
そして開き直ったマスタング!!(キター)
そうだよな、ロイはそんなに我慢できる人じゃないもんな!(失礼)
とりあえず、エドも意識してしまうっていう感じで。
あれ、早いかな…。これじゃあ小学校の卒業式に迎えてしまうかも…(何を)
まぁそれもよし!(爆死)
とりあえず、ロリなんですよ、結果的にロイは(爆)


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