それから、俺はロイと一緒にアルの両親に頭を下げて。
そのまま暫く世間話で話し込んでいる間、俺はアルにこっそりごめん、と告げたら。
アルはいいよ、と言って笑ってくれた。
こういうのが、親友って言うんだろうか。
迷惑なことを、笑って許してくれるのを。
だから俺がもし、アルに迷惑なこと頼まれても。
笑って、いいよって言えるようになりたい。
プチ家出 後編
ロイはアルの家まで車を飛ばして来てくれたらしく、俺はその助手席に乗り込んだ。
座席にゆったりと沈めたはずの体が、まだ微妙に緊張している気がする。
それを悟られないために、視線は窓の外に流した。
車だからか、過ぎ去る風景は歩くよりも断然早くて。
(…気まずい…)
つまり、まず何を言おうかと考える時間も必然的に短くなり。
あれやこれやと迷っていた所為か、結局車の中では何一つ言葉を発せられなかった。
俺のそんな心情も読んでいたのか、ロイも一言も喋らなかった。
「…」
「……」
エドは車から降りて、そのまま車をしまうロイを横目で見ながら、先に家の扉を開けた。
(謝んなきゃいけないってコトくらい…)
分かってんだけど。
ロイだけが悪いんじゃなく、自分だって悪いってことも、分かってんだけど。
でも、言葉が出てこない。
単純に謝るだけじゃ駄目なんだ。
さっきのロイみたいに、感情を込めて一言、言わないと。
(じゃあ、その感情って、何だ?)
俺はロイに対して、どんな感情を込めて謝ればいい?
ロイは俺に対して、どんな感情を込めたんだ?
分かんねェ。
考えれば考えるほど。
「分かんねェ、よ…っ」
拳を握り締めて、俺は俯いた。
別に涙が出そうだとかじゃないけど。
悔しかった。
自分の感情なのに、分からないということが。
「いいよ、それでも」
「っ、」
扉を開けっ放しだったから、見えていたんだろう。
俺が、肩を震わせて俯いているのを。
それで勘違いしたんだろうか。
泣いてるんじゃないかって。
だから、俺を後ろから抱きしめてくれたんだろう。
「…元々、私が初めに押し付けた感情だ…」
喋る度に、首筋に息がかかる。
何か、じわっとしたものが、込み上げる。
「知らなくていい。こんな汚い感情、エドは知らなくて…」
「でも、」
俺は、それを振り切るように、自分の言葉でかき消した。
でも。
「それも、アンタじゃねーのかよ…」
「…エド、」
それでも、それは消えてくれなくて。
何故かもっと。
「俺は、知る権利、あるだろ」
満たされたいと思ってしまう。
「アンタだけ、そんな、俺に必死なの、割に合わねーじゃん」
自分でももう何を言っているのか、分からなくなってきた。
ただ、もっとロイを知りたいんだって、思った。
そして急激に、込み上げたものが成長した気がした。
俺はロイの腕を振り解いて、向き直って。
「俺だって!アンタに、必死になったって、いいだろっ!」
ロイは驚いた目を俺に向けている。
きっと、真っ赤な顔してるんだ。
てーか、今気付いた。
(…俺、とんでもないこと言ったんじゃ…!?)
今度は顔の熱が一気に引いていく気がした。
普通、更に真っ赤になるんだろうけど、今だ自分が良く分からない俺は、勢い余った言動を後悔するしかなかった。
俺がその言葉を向けた当の本人はといえば。
暫く止まっていたが、いきなりふっと表情を緩めて、微笑って。
「っあぁっ?」
またいきなりに、俺を抱き上げ。
向き合ったまま抱き上げられた俺は、ただロイの肩に上半身を預けるしかなくて。
そんな赤ん坊をあやすような体勢に、急に恥ずかしくなって。
「っざけんな!何持ち上げてんだ!って、下ろせ!!」
ロイはエドの静止に耳は貸さず、すたすたと歩き、気が付いたら階段を上がっている。
エドから見えるのはロイが歩いた後ろ側で、ロイよりも何処を歩いているのかと分かるのは少し後な訳で。
「な、何だよっ!一体何処…」
一体何処に連れていかれるのか不安になり、叫んでみれば。
「私の部屋と、エドの部屋、どちらがいい?」
「へ?」
脈絡ないことを聞かれて、素っ頓狂な声を出すと、返答を急ぐのか、急かすようにもう一度聞いてくる。
「どちらがいい?」
「あ?あ、じゃあアンタの部屋でいいんじゃね?」
どうでもいいといった感じで答えると、ロイは分かった、と言っただけでまた無言で進む。
二階の廊下を暫く行くと、くるっと90度向きを変えられ、部屋に着いたんだと悟る。
部屋に入ると、開けた扉を俺に当たらないよう上手い具合に後ろ手で扉を閉めた。
少し心に余裕が出来たのか、エドはきょろ、と少し視線を動かしてロイの部屋を見渡した。
(そういえば、部屋に入んの、初めてかも)
三年近く一緒には暮らしているが、エドはロイの部屋に入ったことがなかった。
それは無意識に仕事には口出ししてはいけないのだと、幼いながらに悟っていたからで。
それにいくら自分も私生活の一部と言えど、知られたくないこともあるはずだ。
そんなことを考えていたことがあるから、俺は無意識にロイの部屋、と口にしてしまったのかもしれない。
と。
「ぉわ!」
いきなり体を後ろから落とされ、エドは今まで遠慮がちに肩を掴んでいた腕を、ロイの首に縋るように回して、衝撃に備えたが、背中に当たった感触は、予想以上に柔らかいもので。
「ぇ、」
首を回して確かめれば、ベッドだと分かった。
それはいいのだが。
回した首の後ろ辺りに感じた、温かい感じ。
「って待てっ!」
言いながら首を元に戻すと、案の定、ロイが少し舌を出して今した行動を物語っている。
というか、何時の間に組み敷かれてしまったのだろうか。
「ななな、何すん…っ!」
「何って、誘うから」
エドが。
そして何故、俺が出てくるのか。
「は?」
俺が?
聞き返せば。
「そう、君が」
当たり前のように答えるから、少し考えちまうじゃねーか。
確かに、こういう意味に聞き取れなくもないかもしれない。
けど少なからず、俺はそんな意味を込めて言ったつもりなんてない。
「……や、待て、何でそうなる」
そりゃあ、もっとアンタを知りたいとは思ったけど。
だからって、こんなことに繋がるなんて思わないだろう!
「俺はただ…!」
「ただ?」
「…ただ…?」
俺は視線を逸らした。
いざ聞き返されれば、答えられないのも事実。
だって俺自身、どうしたいのか、どうして欲しいのか分からないんだから。
「…分かん、ねェ…」
「…何が?」
表情が曇ったエドに問うが、エドはそれきり口を開こうとしない。
「…言っただろう?エドは汚い感情なんて知らなくて…」
「…っ」
ロイは玄関で言ったことについて悩んでいるのかと思い、もう一度同じことを繰り返すが、エドの首は横に振られる。
「だったら…」
「っ分かんないんは、アンタじゃねェ…っ」
そう、分からないのは俺自身。
アンタは汚い感情でも、こんなにはっきり示してくれたのに。
隠さずに、はっきり言ってくれたのに。
それなのに俺はどうなんだ?
俺にだって、ある感情なのに。
仕事の電話をしている間、構ってもらえなくて寂しかったことがあった。
帰ってこない日は車の音がするまで、ベッドの中でずっと耳を澄ませて起きていたこともあった。
本当はきっと。
ロイに会った時からあった感情。
ロイは嫉妬を汚い感情だと言ったけど、自分の感情を認めようとしない方がよっぽど汚い。
認めてしまえば楽だったと、今更ながらに知る。
そうか。
こんなにすっきりした感情になるんだ。
「…エド」
「…ぇ…?」
逸らしていた視線を向けると、唇にふ、と同じものを一瞬、触れさせて。
「…自己完結、したのかな」
柔らかな顔を、俺に向けてくれた。
すっきりしたら、表情もすっきりしていたのだろうか。
俺は自分がそんな表情をしていたことに、一瞬驚いたが。
「…ま、ね」
少し罰が悪そうに笑って、お返しに口付ければ。
「…抱いても?」
そんなロイの発言に、いきなりか?と俺は思わず漏らしたけど。
自分にもロイと同じ想いがあると認めた今、断る術はない。
それに正直。
「…しょうがねーな?」
嬉しいと思ったし。
まぁ、いいか。
「っつ、あ、」
赤い跡が増やされていくのが分かる。
息が荒くなっていくのも、分かる。
あとは、と探そうとするが、そろそろ考えられなくなってきた。
自分の体じゃないみたいだ。
「…声、我慢するなよ?」
体に悪い。
一見気遣っているように見えても、くく、っと笑って楽しそうに言われたら、反抗したくなるのが俺だ。
「…じゃ、あ、もーっと、我慢、してやるっ」
俺もにやりとした笑みを浮かべれば、ロイの表情は何故かより楽しいものに変わって。
「それじゃあ、楽しみが増えるだけだ」
「っ!」
下がった頭がエドの中心に辿り着くと、声にならない声が上がる。
「〜〜っ、」
前にも一度、同じコトをやられたけど。
その時以上に、何故か敏感になる自分がいる。
舌が這う感じとか、舐められる感じとか。
ロイの口の中の温かさとか。
全部、新鮮に感じてしまう。
「――っは、は、…ぁっ、」
そう思うと、声なんて押さえられるわけなくて。
「ぁ―――っ!!」
我慢できるわけもなくて。
俺は達して、ロイの口の中に吐き出した。
「おま、また…っ!」
そんなもの、飲むもんじゃねェのに。
そう言おうと思ったのに、思った以上に意気が荒くて、単調な言葉すら言えなくなってるのを今知った。
「一応これが、私なりの愛情表現なんだが」
「…うーわー…」
迷惑な愛情表現だ、という意味を込めて、俺はため息をつく。
それも束の間。
「っ、」
後ろの方につ、と這わされた指に、俺は息を呑んだ。
「…前は、お預けを食らったからな」
「…ぅ、あ、…マジ?」
「本気さ、勿論」
というか。
中途半端に脱がせた上着。
自分に向かって開かれた足。
体のあちこちにある赤い跡と、エドの出したモノの跡。
白いシーツに散らばった金髪。
そして快感を知り、潤んだ瞳。
こんな状態で止めろと言う方が無理に決まっている。
「少し辛いけど、これは我慢してくれ」
「っい!」
エドので濡らした指とはいえ、初めてでは人差し指は辛いだろう。
だが。
「…大丈夫、直ぐに気持ち良くなるから」
「っや、め…っや、痛…っ」
ここで止めると、エドも辛いんだ。
大丈夫。
大丈夫だから。
そう言い聞かせて、力を抜かせた。
緩んできたら、一本、もう一本と追加して。
「…良く、なってきただろう?」
「…っは、…は、あ、…分か、ンねェよ…っ」
分かるわけないだろう。
こんな感覚、知らない。
けど、前で味わうもの以上だとは、思った。
だってやばいくらい、腰が揺れる。
「っあ、やば、マジ、もう、」
「もう一度、いくか?」
ロイに問われたが、俺は首を縦に振らなかった。
ちゃんと言葉に出来ないかもしれないけど。
「…っ俺、だけで、いいのか、よ…?」
アンタは?
俺ばっかりじゃ、割に合わない。
つーか何か。
「そんなん、嫌だ…!」
「…エド…」
下から見上げる目は、力強いものだった。
こんな状況で、こんな目を向けるなんて。
負けてしまいそうだよ。
君の、力に。
「…私だって、感じたいよ…エドを」
「…じゃ、入れりゃ、いいじゃんっ」
此処まで来て、あとはどうするか分からないほど、子供じゃない。
「…凄い、誘い文句だな」
流石の私も、我慢できないね。
苦笑しつつも、ロイは自分をのエドの後ろにあてがって。
「―――っつ!!」
一気に、貫いた。
今までにない圧迫が、ロイを襲う。
だがとても、満たされた気分だった。
ずっと、欲しかったものを手に入れたのだから。
「っく、あ、」
「…気持ちいいよ、エド」
痛みに耐えるようにぎゅ、と閉じていた瞳を開けると、ロイの幸せそうな顔が見えて。
何か俺も、嬉しかった。
「…あ、…ぁ、あ、…」
傷みは、少しずつ、じんわりと。
快感に変わる。
「…く、そ…」
やばい。
気持ち良い。
「そろそろ、限界か?」
「っ、」
今度は、頷いた。
そしてずっとシーツを掴んでいた手を、ロイの首に回して。
「ぅあ、あ――――っっ!!」
「っ、」
共に絶頂を、迎えた。
「…腰、痛ェ」
「…そうかもね」
「声、かれた」
「……そう、だね」
「だるい」
「…それは一応私も…」
「うっさい!」
ロイの部屋のダブルベッドで繰り広げられる会話。
それを区切ったのは枕をロイの顔に投げたエド。
一応情事の後なのだが、それを感じさせないようなやり取りは。
「…少しくらい、余韻を楽しもうとは」
「思わねェ」
ことごとくロイの言葉を止めるエドの発言のせいである。
「はー…」
初めて体を繋げたんだから、せめて恥じらいくらい見せてくれてもいいのに、と思うのは高望みだろうか。
だが一応、腕枕を否定しないでいてくれるのは、一応甘えてくれているということなのだろう。
背を向けているのには少し引っかかるが。
今は、これでいいか。
そう自分を納得させた時。
エドが腕の上をくるりと反転してロイの体に近付いて、ロイを見上げて。
「忘れてた」
ごめん。
それだけを言って、また元に戻ってしまった。
何の謝罪かと聞き返そうかと思ったが。
(あぁ、そうか)
そういえば、謝罪の言葉は聞いていなかった。
元はといえば私が悪いのだから、別にもうどうでもよかったのに。
でも謝ってくれたということは。
仲直りをしてくれた思っていいのかな。
「そうか、だったらもう一度…」
「調子乗んな!!」
照れ隠しかはたまた。
エドは罵声と共に、肘鉄をプレゼントした。
これがエドなりの、仲直りのしるしということで。
そしてとりあえず、互いに何歩も近づけたということで。
END.
04/11/30
ちょっと無駄に長くなってしまいまして…(滝汗)
いやでもようやくの一歩!?と言ってもぶっちゃけ犯罪ですが、ロイ兄!!
もう犯罪者が褒め言葉のように聞こえますね(爆)
雰囲気に関してはノーコメント(死)
何かもう駄目駄目…(落ち込み)
ブラウザでお戻りください。