「あと少しで年が明けるな」
「え、マジで?あと何秒?」
「あと二十秒位かな」
「わー!待ってくれー!」


ソファーにゆったりと座りテレビを見るロイの声で、エドはキッチン向かって流水に濡らしていた両手をタオルで急いで拭き。
ぱたぱたとスリッパを鳴らしてロイの傍へとダイブしたのが五秒前。


『ごー!よん!さん!』


テレビではカウントダウンを始める大きな声がスピーカを通して二人のいる部屋へ響き。


『にー!いち!!』


ゼロ。
新しい年が幕を明けた。
その瞬間、ロイとエドは向き合い。
ロイは優しい笑みを浮かべ、エドはにっこりと嬉しそうに笑って。
互いに一番初めに発した言葉は。


「「おめでとう」」


恋人と呼べるようになってから初めて迎えた年に、一番初めに発した言葉は、新年の挨拶だった。



姫始め





「初詣に行くか?」
「や、どうせ混んでるからいい」
「確かにな」


テレビからは新年を迎えた喜びの声が沢山聞こえてきているが、ロイとエドは比較的マイペースで、喜ぶのは瞬間のみで、あとは何時ものような空気が流れるらしい。
そして初詣に誘ったロイだったが、元から行くつもりなどなく、ただの会話の繋ぎ。
勿論エドの性格から断るというのも計算の内で、で。
もし行くと言っても逆に同じ理由をつけて辞めるつもりだったのだが。
エドもエドでロイが行く気がないことくらい分かりきっている。
不本意だが自分の性格を熟知しているロイのほんの遊び心というやつだ。
本心は一体どういう真理なのかは分からないが。


「そういや、蕎麦食ってねェよな」


食うか?と隣に座るロイに寄りかかって見上げて聞けば。


「いや、それより食べたいものがあるんだが」


何故か待ってましたと言わんばかりの顔をされて。


「……へぇ〜…」


こういう顔をした時のコイツはろくな事を考えていない、というのは過去の経験から嫌と言うほど実感している。
大抵は何かキスされるとか、体触られるとか、本人はスキンシップだとか言い張っているが、結局最後は何故か、翌日腰に鈍い痛みを植えつけられるまで離してもらえなかったりして。
この顔はそれを思わせる顔だ。


「……俺は、蕎麦食べたいんだけど」
「私は後回しでいいが?」


あ、そろそろ嫌な予感。


「…俺は、食いたい」
「いや、後でいいじゃないか」


何か、有無を言わせない感じがするんだけど。
つか、俺だけ食ったって別にいいじゃん。
アンタは後で食えばいいじゃん。


「俺だけ食っちゃいけねェのかよ」
「私は君がいないと食べられないものが食べたいんだよ」


ほら、きた。
遠回しに言ってきたぜ。
顔もどんどん企んだ顔になってくるしさ。
これは俺から折れろってことか?


「…ちなみに、何?」


それだけはぜってー嫌だね。
自分から言うなんて俺のプライドが許さないっつの。
じゃあ何で抱かれるのはいいんだとか言われそうな気がするけどさ、それはそれ、これはこれ。


「何だと思う?」


うわ、俺この笑顔嫌いだ。
女だったら即倒とかしちまうんだろうけど、俺は女じゃねーし。
それにこの知ってて楽しんでる顔。
ムカついてしょうがないんだよ。


「何だろうな?俺分かんないし」


俺は俺で鼻を鳴らして適当に答えてやれば。


「分からないのか?仕方ないな…」


と、そっぽを向いていた俺の前にいきなり顔を出してきて。
予測していなかった俺は即座に対応出来なくて。


「え、オイ、ちょ、待っ…」
「じゃあ丁寧に、教えてあげるから」


気付けば俺の左右に両手が伸びていて、逃げられないように拘束されてるし。
ちょっと待て。
まさかまた。


「っば!マジで新年早々何サカって…!」


またこのパターンかよ!?と追加で心の中で叫んだら、ロイはしれっとした顔になって。


「正月早々だからだろう?」
「はぁ!?」
「姫始め、という言葉を知ってるか?」
「へ??ひめ…はじめ??」


何を言い出すんだか、そんな目を向けると。


「正月に柔らかく炊いた飯を食べ始める日や、馬の乗り始めの日、女が洗濯や洗い張りを始める日とか言われているがね」


私が言うのは、当然その意味ではなくて、もう一つの方だ。
もう一つの意味には。


「新年にはじめて男女が交わること、という意味があるんだよ」


そう、にっこりと笑って。


「だから新年を迎えたことだし、折角だからあやかってみようと思ったんだが」
「…えーっと」


それはつまりまさかもしかして。


「早い話が…」
「そう、エドを抱くということだな」
「―――っ!?」


言うや否や、服に手が掛かる。


「〜〜っくそ、そういうことかよ〜っ」


アンタの言い分は分かった。
この際男同士というのは置いといてやろう。
ああそういうことですか。
だけどな、納得したからって。


「分かったのなら、抵抗を止めてくれたら嬉しいんだけどね」
「馬鹿か!俺はそう簡単に受け入れられるかってんだ!!」


シャツのボタンを外して左右に開こうとする手を、エドは顔を真っ赤にして、ロイとは逆の方向に力をかけてそれを拒む。
が、力で叶うはずはなく、シャツは全開にされ、素肌の上を大きな手が滑る。


「うわ、馬鹿!」
「馬鹿馬鹿って…新年くらい穏やかに過ごそうじゃないか」
「そうさせてくんねぇのは誰だ!!」
「あぁ、私か」
「〜〜っ」


さらりと言われて頭にくることこの上ない。
しかし体は早速反応を始め。


「…ぁ…、」


思わず漏れてしまった声の出所を今更に塞いでも、漏れてしまったことは消せるわけがなく。


「…気持ち、良くなれるから」


だから塞ぐのは禁止。
そう言って口に当てられたエド手を取り上げて、その手の平にキスを落とす。
触れるだけかと思ったその行為は、平にちくりとした傷みを伴って。


「…っ?」


何だと思ったら、今度は手の甲に口付けられて、また小さな痛みを落とし。
ようやく開放してエドの中枢神経に指令権を返すと。


「…塞いでもいいけどね」


手の甲、手の平、どちらで覆っても、私と間接キスをすることになるよ?


「なっ!!」


言われて、今まで好き勝手されていた手を見てみれば。
甲と平の中央に綺麗に赤いうっ血、いわばキスマークが残されているではないか。


「おま〜〜何してくれるんだ!!」


しかもよりによって利き手だし!と講義をすれば、嬉しそうに笑うロイ。


「これで数日はいつでもこの行為を思い出してくれるな」
「うわ、最悪…」


つまりこの日を俺の脳裏に焼き付けるんだ。
そう思うと、あまりに馬鹿過ぎて脱力するだろとか何とかまた考えているうちにもロイの手は止まらずに、俺を攻め上げ。


「最高にしてみせるから、安心しなさい?」
「っ、」


何だそりゃ!ともう突っ込む余裕もなくなってて。
気が付けば、体に力なんて入んなくて。


「…っく、ぁ、…」


でもまだ意識ははっきりしている。
体のあちこちに跡を付けられていくのが分かる。
最初の手から始まり、首筋から鎖骨あたりを滑り。
胸の辺りにもかなり多く付けられた気がする。
途中腕に寄り道をしたりしながら、ロイの顔はどんどんと下に下がっていって。
その間に俺の真ん中には熱が集まるばかり。
しかしそこには一切触れず、今度はももの方に唇が滑り、また跡を残す。
もも、膝裏、ふくらはぎ、足首。
肌のありとあらゆる部分を舐められて、跡を付けられて。
だけど一番触れて欲しいところには触れてくれなくて。
おかしくなりそうだった。
だから、俺は半ば無意識に。


「嫌だ、も、…さわ、……って、くれ…って…!」


それでも精一杯だったのに、コイツは。


「…何処を?」


とか楽しそうに笑いながら、つ、と指で半端に煽るだけ。


「っあ、」


それだけでも、俺はもうイきそうなのに。


「言ってくれなきゃ、分からないさ」
「…〜〜っ」


此処まできたらもう理性を捨てるしかないんだろ。
捨てろって言うんだろ、アンタは。
だったら捨ててやるよ。
でも正月だから仕方なくだからな。
言っておくが、断じて俺の意思じゃないからな!


「此処!触ってくれっつってんだろ!!」


結局俺は自分で自分のを触って、強請る形になって。
でも自分では出来ない。
つか、仕方を知らないんだって。
俺はアンタに教えられるまで、殆ど無知に等しかったんだから。


「出来る、わけねェん、だから…責任取れ…っ!」


とか。
叫んだのはいいけど。
何か俺、凄いこと言ってねぇ?
あー、何でこんな、頭だけ冷静なんだろ。
いっその事、考える機能まで麻痺させてくれればいいのに。


「………気付いているか?」
「何が…」


その言葉、最高の誘い文句だよ?
そう嬉しそうに呟いた後、いきなり口に含まれて。


「あぁ!」


追い上げられて。
攻め上げられて。
俺はもう声を上げるしかなくて、身悶えるしかなくて。
思わず利き手で口を塞ごうとすれば、そういう時に限ってさっきのこと思い出して、また心臓が早くなるし。
もうホント、どうにかしてくれよ。
そう思った瞬間。


「―――――っっ!!」


一気にイかされた。


「…は、は、は…」
「気持ち良かっただろ?」
「……そりゃ、…ま…」


ヨかったけど。
そう言うしかねェじゃねーか。
これで気持ち悪い方がおかしいんだから。


「正直なのはいいことだ」
「ぇ、あ」


余韻に浸る暇もなく、ロイは俺の膝を腹に付く位まで上げて。
更にそのままロイに引き寄せて、俺はロイがこれからすることを全部見える位置で、下から見上げる形を取らされ。


「んな…!」
「いいから、大人しくしてなさい」
「っぅあ!」


さっき以上に、言いたくないことをされてる。
何か、後ろの方に舌の感じがあるし。
前は前で手で遊ばれてる気がするし。
どうすりゃいいの、俺はこの状況を。
と、ロイが顔を離して、体も背中全体がソファにつくようになり、少し楽になった。
のも束の間。


「…力、抜いて?」
「ぇ…っい!!」


一気に突き上げられた。
でも慣らされた体が、それに順応するまで時間はかからなかった。
どんどん気持ち良くなってくんだから、成す術なんてない。
後は、落ちていい?
快楽に、溺れていい?


「はぁ、あ、あぁ、ああっ、」
「…いいね…」


私も、最高だ。
そう言うロイの呟きに、逸らしていた視線を向けてみれば、それでも余裕はあるように見えて。
何か、ムカついた。


「…は、俺、ばっか…ぁ、…みたい、じゃん…っ」
「…?」
「俺、ばっか…っ、キモチいい、みたい、じゃねー、かぁ…!」


アンタは、ヨくないわけ?
俺ばっかよがって、これじゃ、抱き合ってるなんて言えねェよ。
俺はアンタにも。


「キモチ、よく…なって、ほし……あぁあ!」


けど言い終わる前に、奥まで突かれて言えなくなって。


「…これ以上、私を煽ってどうするんだ…!」


ロイの顔が、少し辛そうになった。
それがちょっと、嬉しかった。
余裕がない顔が見れて、嬉しかった。
だから少し笑ってしまったけど、煽ったつもりはない。


「ち、が、…煽って、なんか、ね、…ェ…って、も、駄目、…!」


何でか、一度込み上げた笑いは収まらなくて、中にいるロイを少し締め付けたのか。


「こら…締め付けるなって…」
「は、はは、ごめ、わり…」


でも何かアンタも、嬉しそうなんだけど。
それはまぁ黙っておくとして。


「…とりあえず…この熱…どうにか、してくんね?」


ちょっとさ。
限界、近いんだ。


「…望むままに…姫」
「な、俺、姫じゃ、あ、ぁ、あっ、」


俺は女じゃないし、ましてや姫なわけない。
どうせ、姫始めだから、とかいう理由なんだろうなぁとか下らないなとか思ってたのも、その瞬間まで。


「は、あ、ぁ、あ、も…!」


今度こそ本当に限界を訴える俺に、囁く小さな声。


「…エド…」
「…、?」


私に落ちてくれるか?
それとも、私と一緒にイく?


「…ばーっか…」


変な問いに俺は笑って。


「両方に、決まってんだろ…?」


んでアンタは?
俺に落ちてくれんの?
それとも、俺とイくの?
と、問い返すと。


「…両方とも、断れないなぁ…」


そう笑って。


「それに」


私は最初からずっと、そうしてきたんだが?


「…へへ、そりゃ、失礼」


歯を見せて軽い謝罪をする俺に、ロイは顔を近づけてきて。


「では意見が一致したところで」


とりあえず、一緒にイこうか?











カーテンの外で日が高く上った頃。
ロイの部屋のベッドの中。


「あー、忘れてた…」
「何がだ?」


うつ伏せに突っ伏すエドに、エドの方に体を向けてロイが聞く。


「お節料理だよ。下準備はしてあっけど、まだ全部作り終わってないし」
「別に後ででもいいじゃないか」


それはお節を知らないから言える台詞だと反論したかったが、もうそんなは気力残っていない。
でもぼそぼそと話すぐらいはできる。


「でもお節が元旦の夜からってのもさぁ…」
「私は構わないけどね」


別に食べなくても。


「は?」


何だその台詞は。
折角作ってやってんに、と不満を漏らしてやろうと思ったら。


「お節以上のものを、早々に頂いたから」


え。


「美味しかったよ」


何か。
さらっと言われたらしいけど。
これはもしかして。


「……〜〜〜っ!!」


こんな身近に居るなんて思わなかった。
今時誰も言わないような、すんごい恥ずかしい台詞じゃねーか!!





これが姫始めってやつですか。
これは毎年やられるんだろうか。
つかその前に普通の日でも結構辛いんですケド。
まーそれはまた来年考えようかな。





END.


05/01/01
ひぃぃ…!(断末魔)
久し振りに最初から最後までこういうテンションの話を書きました…。
ぶっちゃけ、途中シリアスを入れようと思ったんですが…正月早々それもどうかと(爆)
そしたらヤってるだけって言うか何て言うかどう言うか(死)
でも正月一発目はこのネタで上げたいと思っていたので、いいですよねそれで!(ぇ)
皆様の共感、お待ちしております(笑)
えと新年も一本目と言う事で、本年も宜しくお願い致しますーvv


ブラウザでお戻り下さい。