「あーくっそ!何でこうなるんだよ!」
「…まさかこんなになるとはね…」


バン!と勢いよく玄関ドアを開け放ち家に入ったエドワードとロイ。
苛々した口調から伺えるように開けたのはエドワードで、閉めるのはロイの役目。
これは二人で出掛けて帰ってきた時の無意識の行動なのだが、今日はいつもと何処かが違う。
兎にも角にも家に入ったものの、二人は一向に靴を脱いで上がろうとしない。
その理由はといえば。


「アンタの所為だかんな!」
「…まぁ、それは認めるよ…」
「俺は出掛ける時天気予報を見て言ったのにアンタは聞かねェしな!」
「所詮は予報じゃないか…」
「それはアンタの予想が当たってから言えよ」
「……」


じとっとした突き刺さるエドワードの視線からそろっと目線を外して黙るロイ。
ロイがそんな行動を取る理由は、外の天気にあった。
家の外は出掛けた時の晴天から一転して、雨雲が空を覆ってかなりの雨を降らせているだけでなく、雷鳴までが鳴り響くほど。
つまり今のエドワードとロイはその雨に降られて、乾いている所がないほど服が濡れて全身に張り付いている状態で。
家に上がれないのは靴も中まで雨が染みているからであり、正直動くのも脱ぐのも億劫な状況だ。


「あー出掛けなきゃ良かった…」
「今日はエドが行きたいと言い出した筈だが」
「傘持って家出てりゃこんなこと言わずに済んだんだけどな」


家を出る直前、エドワードは天気予報を見て、夕方からは雷雨になるから傘を持っていこうとロイに言ったものの、ロイは邪魔になるから、と笑顔でエドワードの言い分を押し切って結局持って出掛けなかったことが今に繋がるのである。
エドワードが愚痴を言うのも当然だ。
と、そんなエドワードの機嫌が簡単に直らないのを嫌というほど理解しているロイは。


「…あぁ、私が悪かったよ」
「そう思ってんなら詫びろよな」
「分かった」


上からの物言いにさらっと了承しながら靴を脱ぎ家に上がると。


「へ」


今だ靴を履いたままのエドワードの脇下に手を通して体を持ち上げ、気の抜けた声を出すのも気にも留めず、向かい合わせで自分に体を預けさせる。


「って何すんだ気持ち悪ィ!」
「気持ち悪いとは失礼な」
「嘘じゃねェだろ!」


エドワードの言った気持ち悪いは濡れた服が擦れ合う感覚を差したのだろうが、今はどちらでもいいらしい。
そうこう言い合っている間に、ロイは濡れた足跡をつけて歩いていく。


「つか何処連れてくんだよっ」
「この状態で行く所と言えば一箇所だろう」
「あぁ?」


怪訝な顔でロイの後頭部を睨んでいると、ぴたりと自分を持って歩いている足が止まり、顔を上げて見たドアは。


「…風呂?」


家のバスルームのドアだった。




バスタイム






「っだー!やめろ!脱がすな!」
「脱がさなければ入れないだろう…」


バスルームに入って下ろされたと思ったら、いきなりエドワードの服を脱がしにかかるロイ。
そんな一方的な行動にエドワードが流されるわけもなく、必死で濡れた服を押さえながら。


「いい!俺は一人で入るっ!」
「じゃあ私にその間待っていろと?」
「アンタが先に入りゃいいだろ!」


俺はとりあえず着替えるから、と続けて言えば、ロイは納得のいかない顔をして。


「それでは風をひくだろう。やはり一緒に入るべきだな」


何だその偉そうな物言いは。
そう言いたげな感情は良心で抑えつつ。


「俺はい・や・だっつってんだろ」
「私は君と入りたいんだ」


ああ結局それが目的ですか、と叫ぶのも億劫で呆れて脱力したのがいけなかった。


「しかし君が嫌でも私は実行するぞ」
「な、」


いつの間にか開けられていた脱衣所から浴室へと続くドアの方へ引っ張られ。
結局お互いに脱いだ部分といえばロイは上半身と靴下、エドは靴下だけで、殆ど服を着たままの状態で浴室に立つ。
流石にここまで来てしまうと、エドワードにも成す術がなくなり。


「あー…、マジ?」
「冗談でここまではしない」


壁に追い詰められて見上げた相手は笑ってはいるものの真剣で。
それでもう逃げ場はないと確信した。
かといって。


「てか、何で風呂なわけ、」


俺の性格上、すんなりどうぞ、なんて言えるわけがなくて。
少しでも時間を稼ごうとか思ってるのか、ぽつりとそんな言葉が出た。


「今まで、こんなこと強行したことなかったし、」


それに一緒に風呂に入ろうと言われたこともない。
それは引き取ってもらった時は既に一人で入る歳だったから、ってのもあるんだろうけど。


「…下らない欲望だよ」


返ってきた答えは予想通りというか何というか。
そもそもこんな行動にまともな理由なんて求めるのもおかしいけど。


「折角二人で濡れたんだから、その記念にっていうのも悪くはないかな、ってね」


そう言ったロイの顔はどことなく嬉しそうで。
そういえば最近。
ロイが忙しかった所為か、帰ってきても直ぐに寝て、翌朝早く会社に行って、というのが続いていた。
俺は別に寂しいとか、そんな強くは感じなかったけど、ロイは。


「…はは、ホント下らねェ理由、」


寂しかったんかな、とか思って。


「……仕方、ねェなぁ?」
「…エド?」


そんな、時々子供っぽい感情を出してくれるのが、俺は結構好きだったりして。
勿論、本人に言ったら調子に乗るから絶対内緒だけど。
ま、俺も多少なりと嬉しいから?


「その下らねェ欲望とやらに、付き合ってやるか」


そう言って自分からロイの首に片腕を回してやれば。


「…ではその好意、有り難く受け取ろうかな」


言いながらお返しと言わんばかりに俺の腰に腕を回してきた。
俺の誘いに気付かない無粋な男じゃないことくらい、俺が一番知ってる。
だからこうなったらもう。
任せるしかないっしょ。














「…ん、ぅ、」


何か、余裕のないキスだと思った。
正直そういうのは分からないけど、今のは何か、分かる気がする。


「…、あー…」
「…どうした…?」


キスの合間に思い出したように漏らしたのは、今だ服を着たままだということ。


「いや…いい加減、服、うっとおしいなぁ、ってさ…」
「あぁ…」


上半身を脱いでいるロイと違って、俺はまだ全身に服がくっついている。
ロイが脱がそうとしてはくれるものの、流石に時間がかかりそうだ。
そんな時間が、俺にとっては珍しく億劫で。


「…いーよ、」
「…珍しいな」
「ま、な」


気付かないわけがないよなぁ、こいつのことだし。
でもその方が有り難い。
皆まで言わなくても、悟ってくれるんだから。


「たまには、…っ、」


濡れたシャツの上に、ロイの手が滑る。
ぞくり、と体が震えた。


「そうだな、たまには」


誘ってもらえる方が、奉仕し甲斐がある。


「っ!」


下半身に伸ばされた手に、思わず上を振り仰ぐ。
ロイの体はいつの間にか視界から消えて、壁に背を預ける俺の足元に跪いているんだろう。
きっと、ほら。
もう直ぐあの感覚が。


「ぁっ!」


口の中に含まれる、感覚。
慣れるなんてたまったもんじゃない。
毎回違ったやり方でされて、慣れる方がおかしいだろ。
それに立ってやるのなんて滅多にないから、立っているのももう限界。
ずるずると、ゆっくり背を預けたまま足を曲げれば、再び視界に入るロイ。


「…立てないか?」
「…うっせェな、」


憎まれ口を叩くのは、そう簡単に直らない。
けどどうせ分かってるくせに。
俺がそう言うって知ってて言ってくるんだろ。
そして。


「だったら」


とことん、立てなくしてやる。


「…お好きにどーぞ」


誘ったのは俺。
乗ったのはこいつ。
となると。


(…明日のアルとの約束、キャンセルだな…)


俺は明日の予定を組み直すしかない、ってわけだな。














「…っとに立てなくして行きやがって…」


目が覚めたのは既に昼過ぎ。
ロイはといえばおそらく定時で会社に行った頃だろう。
枕元に置いてあったメモには、アルには連絡しておいた、と書いてあった。


「埋め合わせ、しねェとなぁ…」


あと言い訳を、明日までに考えとかねェと。


「はー…、」


勘の良いアルに言い訳した所で全部見透かされるに決まってるのに。
そう思うと、ため息が出て。


「はぁ…」


昨日の自分の行動を思い出すとまた、ため息が出て。
後ろのため息は、明らかに赤面を含んだものになってるんだろうけど。


「ったく、俺は怒ってたのによ、」


こんなことになったのは、俺が無意識に許してしまった所為か、はたまたアイツの乗せかたが上手い所為か。
結局うやむやになっちまったから。


「どーでもいーや…」


とりあえず、もう一回寝とこうかな。





END.


05/07/22
30万打を踏んで下さった一夜様がご連絡下さったので、「ロイエドでお風呂」というリクに応えさせて頂きました!v
義兄弟でも、ということでしたのでお言葉に甘えて義兄弟で(笑)
元々風呂ネタは友人からも頂いていたので何時かは書こうかなと思っていたのですが、今回書く機会をありがとうございましたv
何時も以上に拙い作品(しかもほんのり裏要素/汗)ですが楽しんで頂けたら幸いです…!
それにしても方向が途中からがらりと変わった…(汗)


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